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無礼拳 奥義

人里離れた山奥から、さらに離れること数十里。


人はもちろんのこと、野生動物でさえ寄せ付けない仙境に


二人の男が対峙していた。


彼らは優に100丈はあろう珪石で出来た石柱群の頂上におり、


そこが居慣れた座といわんばかりに、どっかりと腰を下ろしている。


互いの距離は1町ほど。


「よくぞ、今日まで厳しい修行に耐え抜いた、ユエンよ。」


白妙の長い髪と髭を蓄えた、眼光鋭き男が声を上げる。


放たれた言葉は、地上から猛く吹き上げる風の轟音に遮られることなく


突抜くようにして対峙する男の元へ届く。


「はい!お師匠様!」


応えた男はボロボロに朽ちた白の表演服を身に纏っており、年の頃は二十歳前後か。


あどけなさが残る眉目秀麗の青年で、白妙を称えた老人とは対称的に、黒く艶やかな


長髪を靡かせ、柔らかな微笑みを携えている。


「うむ。それでは仕上げにかかろうぞ。無礼拳が奥義『屠龍塵虎撃』を見せるがよい!」


師匠と呼ばれた老人は結跏趺坐のまま飛び上がると、空中で組んだ足を解きフワリと地面に起った。


それに倣い青年も片膝を立て、すくっと立ち上がる。


互いに無構えのままだが、青年は真っすぐの眼差しで老人を見つめたまま微動だにせず、一方老人は青年のつま先から頭までをなぞるように見つめる。


ややあって、老人は小さく頷き満足げな表情をすると、髭を撫でながら遠い目をしてこう言った。


「幼子だったお主も大きくなったものよな。思い返してみると日々が懐かしい。岩一つ砕けず覚束ない子が奥義を体得するまでに成長するとは。」


「はい!お師匠様!」


「『屠龍塵虎撃』。わしが思春期にただ格好良さそうな言葉を並べてみた技名じゃが、名の通り一撃で龍を屠り、それでも飽き足りず、近くにいた虎も塵と化す、ダメ押しの二撃目を繰り出す無慈悲な連撃じゃ。」


「はい!お師匠様!」


「いずれも絶滅危惧種じゃったから、実際に名を冠した技になるか試打した際には色々な方面からこっぴどく怒られたものだ。難しい年齢だったわしは、しばらくやさぐれたよ。」


「はい!お師匠様!」


(むう。)


ここで何度も繰り返される青年の決まりきった返答に老人の眉間がピクリと動く。


「その体育会系の先輩に対しては「ハイ!」のみが鉄の掟みたいなテンプレ返答は止せ。わしが逆に置いてけぼりを食らっているではないか。」


「あ、これは失礼つかまつりました!お師匠様!」


青年が慌てて、頭を下げる。

老人はその様子を見て、ふう、と一息つくと、


「・・・まあよい。では改めて見せてみよ。あの岩山を狙え。わしは上から眺めておるぞ、ハァ!」


ダァァァン!!


腰を深く落とし、蹲踞の姿勢を取ると、老人は掛け声とともに両膝を瞬時に伸ばし、天高く身を躍らせた。


ビシィィ!ガラガラ


跳躍の反動を受けた石柱にヒビが走り、安定を失った足場が崩れ落ちる。


本人にとってはただの跳躍のようだが、身体の強度、繰り出された脚の動き共に人の仕業ではない。


青年は太陽と重なるまで高く飛翔した老人の影を眩し気な目で見送ると、目を瞑り、両手に意識を集中し始めた。


するとたちまち周りの大気が振るえ始める。


ゴゴゴゴゴ・・・


大地が鳴動し、青年の周囲に転がる小石がカタカタと揺れ、意識を集めた拳と足からブゥンと鼓膜が震えるような音と共に、形を成した光が湧き出る。

その光は、右拳からは錐状に尖って四方に突出するように、左足からは放電した火花が散る電光のように変化する!


青年はカっと目を見開くと猛々しく咆哮した。


「奥義!屠龍ゥゥ!!」


そして続けざまに地面を蹴り上げ、砂煙を上げると右拳を振りかぶりながら瞬時に岩山へ迫り、拳を突き出して渾身の一撃を見舞った!



キィィィィン!ドガァァァアアン!



拳に収束していた光は対象に触れた瞬間、閃光音となって拡散し、同時に耳をつんざくような爆音が響き、岩山が丸ごと破砕される。


さらに間髪いれずに、青年は突き出した拳の反動を利用して上体を腰上から捻ると、右足で割れかけた岩を蹴り上げ上空へ翔んだ。


そして、腰の捻りでため込んだ力を解放、糸を引いた独楽のようにして捻転し、左足の回り蹴りから雷光を纏った偃月状の衝撃波が放たれ、あたりを薙ぎ払う!


「塵虎撃ィィ!」


ブゥゥゥゥン!ゴシャァァァアア!


破砕した岩群は飛散する間を置かずに、電光石火の左足から放たれた衝撃波に薙がれ、粉砕して塵と帰した。


「ううむっ!」


上空から眺めると、あたりは塵と化した岩山と周辺の土煙により、モウモウと煙が立ち込める。衝撃の余波は、地面を抉った楕円状の深い窪みを残していた。


ザリッ!


天高く舞っていた老人は、一連の様子を観察し終えると地上へ降り立ち、先ほどとは全く変わり果てた光景を眺める。


黙したままあたりの惨状を見渡すと、喉を唸らせながら唾を飲み、下唇を噛む。やがて額に一筋の汗を流しながら、立ち込める煙に向けて畏れた表情を見せた。


そして、顔を地面に伏せると、今度は肩を上下に震わせ、喜々として高笑いを始めた


「クク、クハハハハァ!見事、見事じゃ!」


煙が舞う中からこちらへ歩み寄る青年の人影を捉えると、老人は諸手を挙げて迎えた。


「覚えこそ、わしの幼少時分に及ばなんだが、その威力・スピード共に全盛のわしを遥かに凌駕しておる!」


「ありがとうございます。お師匠様。」


興奮を抑えきれない様子で喜ぶ老人に、涼しい顔で笑みで応える青年。


老人はさらに喜々として狂気じみた貌を見せて叫んだ。


「さあ、では行け!世界をダイナミックにかき乱してくるがよい!!」


「はい!お師匠様!」




補足:1丈=30m

   1町=110m

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