嘘つきのまま
僕は嘘つきだ。
昔から、ずっと、本当の事を言えないまま無駄な時間を過ごして来た。
僕にとっては。
僕以外の人からすればどうだろうか。自分の時間を無駄と思った事はあるだろうか。
きっと、ほとんどの人が「ある。」と答えるだろう。でもその「ある。」はきっとほんの一瞬、ほんの数分、ほんの数日、ほんの時間の事だろう。
僕が言っているのは、そんな少ない時間の事ではなく物心ついた頃から“ずっと”と言う事だ。まあ、ほとんど居ないだろう。
実際、全ての事を嘘で例えたりするのは僕ぐらいなのだと思う。いや、他にも居るかも知れないが。
さぁ、今この小説を読んでいる読者諸君はどうだろうか。"タイトル"を見た時何か自分と同じ事を思っている人がいるのではないかと、今、自分以外にも嘘ばかりをついている人がいるのだと思ったのでは無いだろうか。
僕が言う事は信じなくても良いこれは僕自身が思う事なのだから、気に留めないでいただきたい。
僕には、信用できる友人があまり居ない(と言っても全てを信用出来る人は周りにいないのだが)
今日、僕はこれといった用事もなかった。バイトも休みだし、今は夏休みだから学校も無い、そして何よりいつもみたいに大勢の人に合わなくて済む。
ふと思った、、、出掛けよう。
「さて、何処に行こうか」
そう、呟いた時
ガチャっと僕の部屋の扉の開く音がした。
「何処かに出掛けるなら鍵を持っていきなさい。これからかぁかはパートの仕事があるからね」
かぁかとは僕の母の事だ。小さい頃からそう呼んでいる。
「わかった。………都会辺りをブラブラしに行く」
「珍しい、、まあ、気をつけなさい」
そう言って僕の部屋から出て行った。
「さて、行こうかな」
僕は内心結構ワクワクしていた。
昔から一人で遠いところをウロウロするのが気に入っているのだ。
ここで、だ。
僕は何処かで嘘をついたのを読者諸君は見破れただろうか。無理だな。僕の嘘を見破れる者などまだ会ったことが無いからね。
僕は玄関の扉を開けた。
そして、駅を目指して歩き始めた。暑い。それ以外何も頭に浮かばなかった。
[2番線に電車が到着いたします]
「ふぅ………」
都会と言っても、電車一本で行ける距離だ。それに都会と聞いたらほとんどの人が東京を思い浮かべるだろうが、僕が住んでいるのは大阪だ。
大阪だからと言って、全員が大阪弁を話しているわけでは無い。話が逸れた……。
僕の行き先は難波だ。ご想像通り"グリコ"の看板があるところだ。
[次は終電、難波です]
ついたな。僕の駅から難波までは約30分だ。そこまで遠くもない。
電車を降りたが、やはり人が多いな。人が多いところは嫌いではないからね。
駅から出て道頓堀川の上の橋を暫く歩いていると、、
「お前、一人で何したんだ?」
おいおい、お前こそ一人で何したんだよ。何故一人で行きにくいスポットに僕の同級生がいるんだ。
「人探し」
思ってもいない事が口から出てしまった。
「なんだ。バイトか。人探しのバイトなんてあったんだな」
僕の面倒くさがりの性格を知っていて何信じてるんだよ。
「まあ、嘘なんだけど〜」
同級生の少年は目を少しの間見開いて僕を見ていた。
すぐに普段通りになったのだけれど。
「なんだ、嘘か、それ面白いか?」
「いや、、僕の癖のようなものだから気にしないでくれ」
今のやり取りを見たら誰でもわかるだろうが、僕は普段から嘘をつきまくっている。
そしてコイツは、正直物過ぎて僕が何を言っても信じてしまう。
ただの馬鹿なのか。
「そうか。ところで、お前、、、駅の行き方知らないか?………立ち食い蕎麦に行っていたら帰り方を忘れてしまった」
よく蕎麦屋に迷わず行けたな。
「この橋、真っ直ぐ行っていたら駅だ」
俺も道の事などあまり覚えていない。まあいいか
「それは、嘘か?」
僕は口角を上げニヤリと笑った。
「さぁ、確かめたかったらこの道を真っ直ぐ行けばわかる」
少年はキョトンとした顔になった。
「わかった。行ってくる。道、ありがとな。また今度映画でも行こうぜ」
「映画館、工事するらしいぞ」
「それは困ったな、、観たいのがあったのだが、、」
「俺の言う事は、信じるなよ。じゃあな」
変わったやつだ。本当に何でも信じる。いったいいつになったら信用し過ぎるのを辞めるのやら。
俺は、再び何処かに向かって歩き始めた。
しばらく歩いていると、さっきまで人が多かったのだが今は全くと言っていいほど人がいない。
それに、辺りも暗くなってきた。今は何時だろうと思い携帯を確認した。
二十時四十八分。
あぁ、そうか、もうそんなに長いこと歩いて居たのか。そろそろ帰った方が良いのだろうか。いや、今日は帰りたい気分では無いな。取り敢えず僕は、かぁかに連絡を入れることにした。
_____友達の家に泊まってく_____
たったそれだけの一文。
かぁかはそのままの意味を捉えるだろう。
僕は何処に行こうか考えながら携帯をじっと眺めていた。
すると、突然肩をトントンと叩かれた。
「あの、、、すみませんが、、此処は何処でしょうか」
僕は驚いてその人を見た。
僕より少し背の高い肩下ぐらいまで伸びた黒髪が良く似合う女性でだった。
不意に聞かれた事だったので少し戸惑ったが僕はいつものように彼女にこう答えた。
「ここは、大阪のギャンブラーがよく居る少し小さな街ですよ」
彼女は少し考える素振りをした。
「それ、、、、"嘘"ですよね」
自信ありげな表情で彼女は言った。
僕は内心驚きながらもしやと思い次の言葉を言った。
「すみません。間違えました。、、此処は、難波駅から少し離れた処の商店街ですよ」
辺りは光で明るい。お酒をこれから飲みに通る人も多い。商店街と言っても何も怪しくは無いはずだ。
それに、此処は何処なのかと聞かれても僕にも解らない。適当に歩いて居たのだからわかるはずがないだろう。
彼女は直ぐに首を横に振り、苦笑しながら僕に言った。
「此処は、、貴方が知らない場所ですよね。どうして私に嘘を付くのです?」
正直焦った。いや、少し恐かったのだ。早く答えなければ、、
「どうして僕が嘘をついて居ると思うのですか?」
彼女はふっと笑った。
「なら、どうして貴方は私の言う事を信じるのですか?」
悪戯っ子のような顔をした彼女を見て僕は気づいた。
騙された。
16年間生きてきて、僕は数多くの嘘を見抜いてきた。筈だった。たった今その記録が破られた。彼女によって。
「貴方、本当は此処が何処だか知って居るのでは?」
「此処は何処なのかは知りません。ただ、、適当に歩いて居たのです。そしたら道に迷ってしまったのです。それと何だかお家に帰りたい気分では無かったので、たまたま近くにいた貴方に悪戯をしてみたのですが、、貴方も私と同じ。"嘘"つきだったのですね」
お互いがお互いに嘘を付き合っていたのに、彼女は僕の嘘に気づき僕は彼女の嘘に気づかなかった。
本当に今日は珍しい事がいくつか起こるものだ。さて、これからどうしようか。彼女を放って僕は大阪と言う場所からでようか。一度出て見たかったのだ。
「そうですか。此処は大阪です。そして、僕は今から此処から出て遠くに、、誰も居ないところへ行きます。では」
そう言って僕はその場を去った。いや、大阪を去ったのだ。彼女の視線が僕の背中に刺さるのを感じながら。
僕は大阪を訪れた。
読者諸君、この話の半分以上嘘で残りの部分は本当の事だ。
最後の言葉の意味がわかれば今僕が居る場所も、住んで居る場所も分かるだろう。
まあ、、、僕以外に僕の居場所が分かる人が居るのなら是非会って見たいけどね。
そして、最後に君達に教えてやろう、、、
___________此処は、本の中だ。
お疲れ様です。
読者諸君。
最後の言葉の意味は私にも分かりません。それも当然です。自分以外の人の気持ちなんて誰も知る事が出来ないのですから。
知ったような気になって居るだけなのですから。
それでは、また。