グリフォン
俺は、比翼の羽を広げるグリフォンに立ち向かう。
「おらぁ!!!」
俺の渾身の右ストレートをグリフォンのくちばしに叩き込む!
手応えが全くない!なぜだ?
グリフォンの方を見やると、俺は絶句した。
「なん...だと...」
俺の最強の拳を受け止めたはずのそれは、まるで何事もなかったかのようにこちらを睨み返す。
そんなばかな!
俺は何度も何度もグリフォンを殴りつける。その度グリフォンは勝ち誇ったように俺を挑発した。
そして、グリフォンは攻撃に転ずる。鋭利な爪で勢いよく俺を裂いた____
「ぐわあああああ」
俺の身体から血しぶきが舞い上がる。
俺は最強なはずだ。なのに、なんで...
その瞬間、俺がこの世界に来てから芽生えた自尊心が砕け散った______
_____ 俺が今まで生きてきた中でこれほど怖かったことがあっただろうか。何にもない平凡な人生だった。ただ逃げて、逃げて、逃げるだけの。
この世界に来て俺は最強になったはずだ。なのに前世について思い出してしまう。捨てたはずの自分自身を。
何のため俺は戦っているのか。そもそもこの世界は何なのか。俺は何なのか。微塵も分からない。
あぁ、もう嫌だ。また逃げよう。
俺の自尊心はそう告げた。
俺は足を1歩引き摺り、グリフォンの後ろを向き、駆け出した。
「あなた、にげるのかしら?」
逃げまとう俺の耳に女性の声が聞こえた。
俺は振り返る。
「...!?あんただれだよ?」
そこには金髪の美少女が立っていた。
「私はクコロ!魔法使いをしているの。」
「??なんでこんなところにいるんだ?」
「空を飛んでたら、とーっても困っているあなたがいたからよ。私困っている人は放っておけないの!
世界を笑顔にしなくちゃいけないのよ!」
あまりにも理解不能な言動に俺はキレる。
「は?意味がわかんねーよ!俺に構わずどっかいけよ!」
「それは、無理よ。あなたが笑顔になるまでは帰らない!」
「もう勝手にしてくれ!」
「ふふっ、じゃあ勝手にさせてもらうわ」
俺は、そのクコロと名乗った少女に不快感を覚え逃げ去ろうとした。グリフォンから逃げ、少女からも。
「その傷痛そうね?なおしてあげるわ」
クコロが杖をふるとみるみるうちに俺がグリフォンから受けた傷が癒えていく。
「これは、なんだ...?」
「回復魔法よ!すごいでしょー!」
魔法...そうか、この何でもありな世界には魔法だってあるんだ。俺はそんなことも分からずに...
「見たところあなた"比翼のグリフォン"と戦っていたようね?勝ったの?」
「笑ってくれ。傷1つ付けられなかった。」
「それは、仕方ないわよ。比翼のグリフォンは物理攻撃無効化スキルを持っているの、魔法じゃないと倒せないわ」
な.....
「なんだってー!!!」
俺の最強がグリフォンに否定されたわけではなかった!
「なあ、クコロさん!俺に魔法を教えてくれ!どうしてもあいつを倒したいんだ!ああ、あと俺の名前はタクミ!よろくしな!」
「もちろんいいわよ!よろしくね!」
不思議な出会いは俺を魔法への道へ導いたのだった。