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同じ器を持った男

カサル達は街道を王都へ向かって急いだ。


手綱は並走するシーガルが握り、カサルは不自由な体を馬に乗せ、片手で鞍を掴んで振り落されないことだけに神経を灌ぐ。


馬が前に進み、体が上下する度にギシギシと痛みを上げる。頭痛は引かず、アバラは肺に刺ささるように痛み、片足は痺れて満足に動かない。


こんな思いをするくらいなら、いっそ杖を突いて自分の足で歩きたいが、この体では王都に辿り着くまで何日掛かるか想像も出来ない。



「お前、どうして俺がバークに居るって知っていたんだ?」


「パミラというご婦人が僕を訪ねて来たのさ」


シーガルはすでに気を持ち直した様子だが、深刻そうな眉間の皺は消えていない。


「ん?ヤルカンが攻めて来たらお前の所に行けとは言ったが」


確かにその時はーガルに保護してもらえと言った。それにしては気が早すぎる。


「まったく。君は相変わらずの朴念仁というか、だからリマ様も苦労をする」

シーガルは大げさに首を巡らしてカサルを見た。


「どういう意味だ」


「言葉通りさ。あのご婦人は君が随分と思いつめた様子で旅立ったことを心配して、僕に伝えに来てくれたんだ」


確かにパミラにバーグの場所を聞いた、それで心配してシーガルに相談しに行ったというのか。そう言えば、初対面のカサルを泊めてくれたり、面倒見のいいところがあった。


「ああ、やっぱり余計な心配をさせてたか」


「君は随分とあの母娘を気にかけてやったそうじゃないか。リマ様から頂いた給金も全て渡したとか。あの小さい娘、君と同じハーフ・オークだろ」


「パミラはそんなことまで話したのか」


「今は我が家で保護させてもらっているよ」


「お前の家で!そいつは世話掛けたな」


「そうやって君は、まるで我がことのように心配して。君はリマ様だけじゃなく、あの母娘も守ろうとしたんだ。そして、もう自分と同じ境遇の子を生み出したくなかった。違うかい?」


考えはお見通しというわけだ。そうは言われても、無頼を気取って王都を出てきた手前、認めるのはなんとも気恥ずかしい。


「ふん、勝手な想像だ。俺は、ただ……ただ、リマを守りたかっただけだ。それ以上に理由なんかねーよ」


「偽悪ぶっても無駄だよ。愛する者や弱い者のために戦う、そういう男さ君は。でなければ、ヤルカンに乗り込んで族長と決闘なんて出来やしない」


さすがに褒めすぎだ。蔑まれることには慣れていても、褒められてしまうと反応に困る。カサルは無理やり話題を変える。


「それで、今王都はどんな状態なんだ」


「はっきり言ってよろしくないよ。混乱の極みと言っていい。王宮で箝口令を敷いているにも関わらず、国民にはリマ様が危篤状態に陥った噂が広がり、王都は半ばパニック状態。恐らく誰かが意図的に噂を広げてるんだろう」


「誰かって誰だよ?」


「分からない。だけど、王宮ではメルツ大臣がリマ様の遺言状を盾に、混乱収束に乗り出している」


「遺言状!あいつそんな物を残していたのか?」


「正確には勅書と言うべきかな。リマ様が考えられていた和平手段と、その後事を記した巻紙だ」


「ふざけやがって、リマはまだ生きてるってのに。で、リマに毒を盛ったクソ野郎は、国境の村で襲撃をさせた、そのなんとかって大臣か?」


リマが死ねば国の実権はメルツが握る。以前シーガルの言った通りになりつつある。


「僕も最初は大臣を疑った。でも、腑に落ちない点もあるんだ。今回のことで大臣に一体何の得があるのか。彼は確かに野心的な人物だったけど、あのままリマ様と僕たちを送り出していれば、彼は労せず権力を掌握するんだ」


「そんな、腹黒い野郎の考えなんて分かったものか。とっ捕まえて、ぶん殴って、吐かせてやればいい」


「無茶を言うな!オークじゃないんだぞ。証拠も無く、一国の大臣を逮捕できるわけがないだろう」


「チッ!面倒だな。それで、これからお前等はどうするんだ?」


「僕らは王族を守るために存在する。今出来ることはリマ様の身辺を護衛し、毒を盛った犯人を見つけ出すことだ」


「お前等はそれでいいとして、実権を握ったメルツの野郎は何をするつもりなんだ?」


「大臣は王国会議の招集を掛けたよ。その場で今後のヤルカンに対する方針と、国の運営方針について話すらしい。彼は賢い。どうすればヤルカンとの停戦に持ち込めるか、考えているはずだ」


「お前はどう思う」


「恐らく、リマ様がやろうとしたこと、自らと共に王国を終わらせ終戦に導くという策を国民に公表する」


「おい、ただ王家と国を解体しただけじゃ、ルゼンは受け入れないぞ」


「君の言う様に、母上の報復もあるとしたらそうだろう。では、その事実を知ったら大臣はどう出る?」


「おい、まさかリマの身柄を差し出すと?」


「分からない。大臣や取り巻きがどんな判断を下すのか。でも、王宮も国民も、ヤルカンへの恐怖に怯えている」


「あいつに、リマに全ておっ被せようってのか?ふざけやがって」


「元はリマ様がご自身が考え出されたこと。我ら近衛騎士も共に殉じる覚悟だった。だが、リマ様は今やご自身の意志で動くこともできない」


リマや近衛騎士の覚悟は、毒という卑劣な手で踏みにじられた。シーガルやゴンドルフの無念は。


「和平を成すために毒に倒れたリマ様を差し出す。そんな暴挙を我ら近衛騎士が許したまるものか!」


シーガルは険しい目で街道の先を見据えた。この顔には見覚えがある。初めてこの男と会った時の、リマを守るために見せた殺気の籠った騎士の顔だ。


例え誰が命じようとシーガル達は王族以外には従わず、リマを守るために戦うだろう。そうなった時、果たして彼らの相手はヤルカンなのか、もしかしたら別のリマに仇なす誰かかもしれない。


シーガルが見せた表情に、カサルは王国が置かれた現状の危うさを見た。


毒を盛ったのがそういう混乱まで狙ってのことだとしたら。犯人の根底にあるのは個人の利得ではなく、命を弄び蔑にするような強い悪意に違いない。


カサルは騎乗で揺れる度に襲う痛みに耐えながら、腰に下げたユニコーンを握りしめる。


「安心しろシーガル。俺が、そんなことには絶対にさせない!俺がリマと、リマが守ろうとした弱い者達を、そしてお前の誇りを守ってみせる」


その言葉を聞いて、シーガルはいつもの優しい騎士の顔に戻った。


「やっぱり君はリマ様と同じ器を持った男だよ」


二人はリマの待つ王都へと急いだ。

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