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理由はなんでしょうか?

山間にある急峻な崖に囲まれた湖に注ぐレイン川の河口は、意外なほどなだらかに広がり、上流から運ばれた白い砂が堆積して浜を作っていた。


この川を遡れば、目指すエルフの谷へ辿り着く。


「スゴイ、綺麗。雪の白さと空の青さを合わせたよう水の色ですね」


「ええ、まったく。このような時でなければ、リマ様にもここで静養して頂けるのですが」


カサル達が立つ浜辺の対岸は、湖面から2000メトル級の断崖がカーテンのようにそそり立っている。厳しい旅とはいえ、時折こうした絶景が三人の心を癒す。


これから先は地図も無く、源流部にあるという所在の曖昧なエルフの谷を目指さなければならない。


「カサル。さっきの村で何かおかしなところを感じなかったか」


「俺が見た限りではそんなところは無かったな」


昨夜、三人は湖近くの小さな村に宿泊した。村人の話ではたまに商人が訪れることはあるというが、それ以外は外部との接触もほとんど無い、牧畜と農業で生計を立てる田舎の寒村だ。


万が一の襲撃に備え一応の警戒はしていたが、その心配は杞憂に終わった。


「エルフと接触したと言う話は大分昔にはあったそうですが、今の村人で会ったことのある人間はいないそうです」


シーガルは村人から聞き及んだ話をリマに説明した。


村の猟師が時折利用するだけの、踏み分け道を辿りレイン川を遡る。川原には巨大な岩が転がり、流れる水は白い飛沫を上げて勢いよく下って行く。山にはトウヒやスギといった針葉樹が群生し、空に向かって高く伸びていた。生い茂る枝葉は陽の光を奪って遮り、山の中は昼でも薄暗い。


「俺が生まれ育った森に似ているな」


「あら、カサルはどこで育ったんです?」


「俺が育ったのは、高い山に囲まれた碧い森の外れだ」


「碧い森だって?驚いたな、あの人跡未踏の地に人類が生活してたのか」


「そこでお父様とお母様の三人で暮らしてらしたの?」


「そう、三人きりだ。リマは家族はいるのか?」


「私は小さい頃にお父様を、5年前にお母様を失くしました」


リマは空を見上げ、両親の顔でも見ているかのように語った。


(俺と同じか。それでも大違いだな)


同じ境遇にありながらも、明るく優しさを失わないリマ。カサルは母を亡くし、空っぽに乾いてしまった自分を思い出し気後れする。


「シーガルはお母様と妹さんがご健在でしたね」


「はい。父はオークとの戦いで戦死しましたが、母は今でも元気過ぎるぐらいですし、妹は生意気ばかりを言うしで困っています」


シーガルは明るく答え、しめっぽくなりかけた雰囲気を変えた。


レイン川を遡る作業には思いのほか手こずらされた。猟師が使っている道は上流に行くと姿を消し、谷間から流れ込む幾つもの支流を越えて進んだ。


岩だらけの川原は歩きづらく、時には水に浸かりながら、川原に見つけた砂地で夜を過ごす。


苦労の末、三人は遂に垂直に切り立った崖に挟まれた峡谷に辿り着いた。


川の水は澄んで空のように青く、川底には白い砂利が敷き詰まっている。遥か奥へと続く峡谷の先は陽がほとんど射しこまず暗い。まるで地中にでも続いているようだ。


「参りました。どこかで間違って支流に入ってしまったんでしょうか。さっきの小川が本流でしょうか」


「ええ、そうね。引き返した方がいいかもしれません」


シーガルとリマが落胆したように、下流へ向き直る。


「は?いや、待てよ。確かに両岸は絶壁で挟まれちゃいるが、戻ったら意味が無いだろ」


これより上流へ上るのは困難だが、そもそも「レイン川の上流」という以外に、エルフの谷への情報はない。カサルは二人を引きとめた。


「そうは言っても何も無いじゃないか。道を間違えたのなら先へ進む何もないだろう」


「何も無い?何をいってるんだ、峡谷が先へと進んでいるだろう!ここが目的地じゃないのか?」


シーガルが怪訝そうな顔で否定するので、カサルは行く先を示すように、垂直にそびえる峡谷を指差す。それでもリマとシーガルは指先を不思議そうに見つめ、首を傾げている。


「カサル、何か考えがあるのなら聞かせてもらえますか?」


「考えも何も……」


カサルからしてみればそんな風に不思議そうな顔をされる意味が分からない。目の前にあるものを見ればいいだけではないか。


(まさか!二人ともこの渓谷が見えていないのか?)


しかし、二人同時にこんな巨大なものを見落とす、そんなことが起こり得るのか。カサルは半信半疑で矢筒から矢を取り出すと弓に番えた。


「おい!突然なんだ、まさか敵か?」


「どうしたのカサル?何かいるんですか?」


「矢をよく見ていろ二人とも」


突然の行動に驚く二人を尻目にカサルは弓を引き絞り、渓谷の谷間にむけて放った。


「え!」「何!」


矢は峡谷の遥か先へと突き進み、暗がりの中へ消えていく。リマとシーガルは目の前で起こった現象が理解できないのか、口を開けて渓谷を凝視していた。


「何か様子は変わったか?」


「なんだこれは?矢が消えて、見ている景色は変わらないのに、突然目の前に峡谷が現れた」


「ええ、不思議です。なんて表現したらいいのか分からないけど、目の前の景色が初めて峡谷だと知ることができたような」


なんとも要領を得ない表現だが、見えていた景色は変わらずに、矢を放たれて初めて現実を認識したというところか。勿論、カサルにだって何が起きたのかは分からない。


「認識が阻害されていたのかもしれません……」


リマが口元に手を当て、自分の推理を導きだすように言葉を続ける。


「エルフの谷が存在を知られながらも、人には所在が特定されなかった理由はなんでしょうか?あるにも関わらず、それが見えないのだとしたら」


「まさか、エルフの秘術ってやつか?」


「なるほど、それなら僕も納得がいく」


幼い頃に父から聞かされた魔法使いの話を、カサルは成長と共にお伽噺と思い込んでいた。しかし、二人が目の当たりにした光景は事実のようだ。


「ご丁寧なことだな。だが、これでハッキリしたぜ」


「ああ、わざわざそんな手間を掛けて隠すからには理由がある」


「そうですね。二人の言う通り、エルフの谷はこの先です」


求めていた地がすぐそこに迫ってい。

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