今、私の名前を呼びましたか?
尾根は上り下りを繰り返しながら、ジグザグを描いて少しずつ山頂へと近づいて行く。
風が強まり、時折、右手の足元から白い靄になった雲が駆け上がり、体に巻き付いて左の谷底へと下って行く。天気が崩れる前に巡礼道へ復帰したい。休憩は山頂に着くまでお預けとなった。
山頂では見事な絶景が三人を迎えてくれた。眼下の谷底に流れる糸のように白い川、幾つも続く峰々、その遥か奥に霞んで見える山。カサルは遥か北西にある霞んだ山並みを眺めた。
(あの中のどれかは、母さんが眠る山か。これだけ離れてしまうと、流石に見つけることは難しいな)
縮尺の大きい詳細な地図でもあれば、母のを埋葬した山を特定できるだろうが、今はそれも適わない。
それでも、目に映る山の一つは確実に母の墓標だ。カサルは故郷を捨てて来た自分に、望郷の念が浮かんだことに驚く。
「お前達にとって国はどんな意味を持つんだ?」
出し抜けな質問に、リマとカサルが顔を見合わせる。
「私にとって、国は自分の家のようなものでしょうか。民は子供であり、私たち王族は子供が安心して暮らせるように、家を守る親でなければならない。母からはそう教えられ育ちました」
「僕にとってはリマ様が国であり、リマ様がお守りする国は、僕にとっても守るべき存在だ」
二人は暫く考えてから答えを口にした。
温和な顔で国を語るリマと、誇らし気なシーガル。答えは違っても、意味は似ているのではないだろうか。家族を失い、帰属意識の無いカサルにはそれが少し羨ましくもある。
「そうか、お前達にとって国は家族のようなものか……」
「カサルさんにご家族は?」
「いない。父は失い、母は半年前に死んだ」
カサルの母は実父について語ること無く逝った。母は身籠った状態で義父ラダックに助けられて碧い森まで逃げ落ち、そこでカサルを産んだことを教えてくれた。
「そうでしたか。カサルさんはお一人になられたのですね」
「父上を失ったとは、どういう意味なのだ?」
「俺の父は騎士だった。父は俺が初めて一人で狩りに出た日、谷底に落ちて死んだ。遺体を回収することもできなかったと、母は言っていた」
その答えにシーガルは口を開き、何か言いたげにカサルの顔を見つめた。
カサルが12歳の時。父から一人前の狩人として認められる試験として、森に入り白鹿を射止めて帰るよう試練を出された。カサルは二日掛けてこれを成し遂げ、父と母の喜ぶ顔が見たくて大急ぎで家へと帰った。
だがそこに父の姿はなく、沈鬱な表情で迎えた母から父の死を告げられた。
母は黙してそれ以上語ろうとしなかった。カサルは父が足を滑らせたという谷川の下流を、何日もかけて探し回った。
しかし、結局遺体はおろか、遺留品の一つも見つけることができなかった。
我が子として自分を育て、色々なことを教え導いてくれた優しい父は、今もあの冷たい川底で眠っているのだろうか。カサルはあの日の谷川の冷たさを想い出し、手に震えが起こるのを感じて揉み合わせる。
冷たくなったカサルの手に、暖かくやわらかなリマの手が重ねられた。リマは優しい笑みでカサルを見つめ、無言で手を包み込んで温める。
その温もりが干天の慈雨のように、カサルの心に沁みていく。
「先を急ごう。こんな尾根道で天気が崩れたら、休むことも出来ない」
先ほどまで見晴らせた峰々は、いつの間にか白い雲の幕に覆われ姿を消していた。舞う風は湿り気を増し、時折水滴となって肌に纏わりつく。
尾根は急な角度で下り始め、膝に勢いよく自分の体重が圧し掛かる。三人は口数が減り、ひたすら足元に意識を集中させていた。
先頭で二人を導くカサルは、数十歩も歩けば見えなくなる前方に注意を払いながら、人跡未踏の尾根を注意深く進んで行く。時折、腰に結ばれたロープが引かれ、後ろのリマの存在を伝えてくる。
(マズったな、こんなに天気の変わりが早いとは思わなかったぜ)
ヴォルクス王国の南にそびえるこの山脈は、大陸を南北に分断する巨大なものだ。南にある湖の湿った空気が、大陸の南から吹く風に巻き上げられ、山頂付近で雲を発生させる。
「後ろの、シーガルの様子はどうだ」
カサルの視覚は前方を注視しなければならず、聴覚は強さを増す風が叩きつけ、周囲の音を拾うことを困難にさせた。
「はい、少し距離はありますが、着いて……えっ!」
後方の様子を確認したリマは驚きの声を上げた。
「カサルさん!後ろにシーガルがいません!ついさっきまでは後ろにいたのに」
「本当か!呼び掛けてみろ」
カサルが後ろを振り返ると、リマの後ろに着いてくるはずのシーガルの姿が見えない。先ほどまでは、数歩の距離を開けて後を歩いていたはずだ。
「シーガル!シーガルいますか!」
リマが大きな声で呼び掛けると、後方から僅かに声が聞こえる。
「ハイ!リマ様。姿は見えませんが、声は聞こえます!」
「気を付けて、こちらに来てください!」
リマが音でシーガルを導くように声を掛けた。
「よかった、それほど距離は離れていないようですね」
安心したリマが後ろを振り返った時、谷底からの強風が真紅の外套を巻き上げた。リマはバランスを崩し、踏ん張ろうとした足は尾根を外れ谷底に踏み出す。
「キャァ!」
リマが悲鳴を上げ尾根から転げ落ちる。谷底に向け滑り落ちる体を引き留めようと、カサルは足に力を込める。
「なっ!」
だが、踏ん張ろうとした足元は体重を支えきれずに崩れ、カサルは腹這いに倒れ込んだ。
それでもリマを引き留めようと、両手を広げて尾根にしがみ付くが、砂礫と化している斜面は掴みようが無く、滑り落ちる体を受け止めてくれない。
「ぬおおぉぉ!」「キャァァァ!」
カサルとリマは砂礫の崖を滑空するように、斜面を滑り落ちていく。足元で谷底に向かって滑り落ちるリマ。そのすぐ後を追って続くカサル。
「クソ!」
砂礫を過ぎれば待っているのは槍のように突き出した巌だ。
(ここでリマを止めねーと!)
カサルは背中の矢筒から矢を取り出し、身を翻しうつ伏せになって左右の手で砂礫に突き刺す。だが、矢は二人の体重を支えきれず手の中で折れた。破片が手の平に突き刺さる。
「まだだ!」
カサルは矢筒から赤羽の矢を取り出すと、今度こそと渾身の力で突き刺した。深く突き刺さった矢はアンカーとなって、崖を削りながら制動装置となって減速を始める。
「止まれ!止まれ!止まれ!止まれ!」
がりがりと斜面を削る感触を両手に感じながら、カサルは何度も反芻した。肘を立て、爪先を突き刺し、最大限の抵抗が生じるように体を硬直させる。
巌の突き出る岩場まであとわずかという所まで滑り、ようやく二人の体が止まる。
「ハァー、ハァー」
渾身の力で砂礫を受け止めていたカサルは、呼吸を整え足元を見下した。リマはぐったりと虚脱して、手足は力なく投げ出されている。
「おい、アンタ!おい!リマ!リマ!」
再三の呼び掛けもにも応じない。意識を失っている。カサルは息を整え、体を仰向けに変えると矢筒から数本の矢を取り出して、服を砂礫に突き刺していく。
これでしばらくは体は滑落に耐えるだろう。左右を見回し、辺りの景色を確認する。
(あそこに踊り場のように飛び出した場所があるな。なんとか、そこまでリマを引きづっていかないとな)
先にある砂礫と岩場の境目に、テーブル場に突き出した巨大な岩が見えた。一旦あの場所で体勢を確保して次の行動に繋げる。
カサルは両手の赤羽の矢を持ち直すと、仰向けで砂礫に突き刺しながら、踵を砂礫に埋め、背中を引きずりながら少しずつ移動していく。
「ちょっとだけ我慢してくれよ」
リマを引きずりながらの移動は思ったように進まず、腰をずらしながら少しずつ進まなければまた体が滑空を始めかねない。今度落ちれば突き出た岩場に飲み込まれ、リマの命は無い。
「体重が軽くて、助かったぜ、王女様」
リマが聞いていないと知りながら、皮肉めいた笑いを漏らした。
やっとの思いでテーブル岩に辿り着いた時、カサルの手の平は血にまみれ、砂礫に突き刺した2本の赤羽の矢はボロボロに先が削られていた。
「スマナイ。これでお役御免だ。でもおかげで命拾いしたぜ」
二人の命を繋いでくれた矢に感謝の言葉を掛けて谷底に放った。
「おい、リマ!大丈夫か!」
テーブル岩に仰向けに寝かせたリマの肩を数回叩いて声を掛ける。
リマの顔は砂にまみれ、両側で編み込まれた銀髪が解れ顔に掛かっていた。見たところ大きな怪我はしてないが、気絶しているのか返事をしない。
「クソッ!なんて間抜けっぷりだよ俺は!」
尾根で体勢を崩さないで踏ん張っていれば、リマをこんな目に合わせずにはすんだはずだ。
辺りには濃い霧が立ち込め、飛沫のような細かな雨が肌に纏わり着いていく。
(いつまでもこんな所に寝かせておけないぜ」
カサルは繋がれていたロープを解き、背中にリマを背ってずり落ちてしまわないようたすき掛けにして結び直した。注意深く足元の崖を見下し、岩にしがみ付きながら谷側へと降り始める。
「少し窮屈だろうが、我慢してくれよ」
リマは意識が無く、だらりと手足を下げて背負われている。カサルは血だらけの手で崖を掴みながら、体を休ませる場所を探し回った。
(あそこは大丈夫そうか)
崖の傾斜が緩み、庇のように突き出した巨岩の下に、僅かに平らな窪んだ場所を見つけて移動する。自分の外套を下に敷きリマを横たわらせる。
「つ、う……」
手拭いで顔の汚れを拭いてやると、リマは閉じた瞼を数回痙攣させて目を覚ました。意識が朦朧としているのか、すぐには言葉を発せず、ボーッとした表情でカサルを見つめている。
「気が付いたか。無理して喋んなくていいぞ」
「私は……」
リマは状況が整理できないのか、次の言葉が続かない。
「お前と俺は尾根から滑落したんだ。どっか痛い所は無いか?」
カサルは手拭いを水筒の水で湿らせると、リマの頬、額と優しく当てていく。
「そう、私、足を滑らせたんですね」
リマは忘れていた記憶を辿るようにとつとつと語る。
「また、迷惑を掛けて、しまいました」
悲しそうに眼を閉じ、声を震わせる。
「アイツ……シーガルだって言ってたろ。これが俺たちの仕事だ、迷惑なんて一つもない。お前はよくやってるぜ。そんなに細い体で、危ない目に遭いながらもこんな山奥まで来たんだ」
カサルは嘘偽りなくそう思う。国が家族というのなら、リマは家族のために体を張っている。
かつては自分も母のため、ユニコーンの角を追い求めて森を彷徨った。しかし、結局その行為は無駄に終わり、訪れた母との別れは最低なものだった。
「俺が目的地まで必ず連れってやる。だからよ、今はゆっくり休め」
カサルは外套から出たリマの手を、さっき彼女が自分にしてくれたように握る。リマの手はいつだって暖かい。
この手に自分の温もりは伝わっていくのだろうか。カサルはリマの想いと行動が無駄にならないで欲しいと願い、握った手の力を僅かに強めた。
リマの目に涙が浮かび、肩を震わせる。
崖の雨は日が暮れるとともに強くなり、二人は岩屋根の下で一夜を過ごした。
一夜明けて昨夜の雨も上がり、朝靄が薄れるに伴い太陽が谷を照らしていく。
「いえいえいえ、ホントに大丈夫ですから、ホラ!」
気遣いから背負って先に進むことを提案したカサルに、リマは片足立ちで足腰の健在なことを主張する。
「アラ?アラアラ?」
足元はフラつき、しっかりと立てるつもりでいたリマは疑問文で首を傾げた。
「ホラ、言わんこっちゃないじゃねえか」
「うぅぅ」
カサルは「さあ来い」とばかりに、背中を向けてしゃがみ込み、両手を腰の左右に添えて身構える。リマは一瞬の躊躇いを見せたが、顔を赤く染めながら観念したように背に身を預ける。
「手」
「え?」
「手だよ。それじゃ危ねーから、しっかり腕を俺の体の前に回せ」
リマはカサルの肩に手の平を乗せ、遠慮がちに上体を逸らしていた。
「えー!」
「何を驚いてんだよ。昨日だってそうやってアンタをここまで運んだんだ。観念しろ」
「え、えぇぇー?わ、分かりました」
観念したリマが腕を前に回すと、カサルは背中に彼女の鼓動を感じてむず痒さを覚える。
「立つぞ」
「ハイ。優しくお願いします」
カサルは腰に手を回し、しっかりとリマの太腿を抱えて立ち上がる。
「ひゃ!」
「きゅ、急に変な声をだすな!」
何故だろう、昨日はまるで意識をせずにリマを背負えたというのに、今日は背中が気になって仕方がない。
「お前が寝てる間に調べた」
「な、何を調べたんですか!」
「何をって、この辺りをだよ。朝早く周囲を見て回った。幸い少し進めば巡礼道には戻れそうだ」
何故か背中で焦りを見せたリマを背負ったまま、岩だらけの斜面に張り付くと、両手を崖に着けながらカニ歩きで慎重に崖を進んで行く。
昨夜降った雨に濡れた岩肌が、陽に照らされて湯気となって蒸発していく。
しばらく進むと崖の傾斜はなだらかになり、なんとか歩いて進める程度に足場も広がる。
「まあ、ここまでくれば安心だだ。もう少しの辛抱だから耐えてくれ」
「いえいえいえ、私なんて背中に乗ってるだけですから」
いつもと違い、リマはまるで調律の外れた楽器のような声で答えた。
「ホントか?お前少し熱があるんじゃないか?」
「いえ?そんなことないと思いますけど」
カサルに回した手と、背中に熱を感じるのは気のせいか。顔色を確かめようと、見えるわけも無いのに思わず後ろを振り返ろうと顔を横に向けた。
「いけません!」
リマは両手でカサルの顔を捕まえると、首が音を立てるほどの勢いで強引に前を向けさせた。腕をバタつかせたリマがバランスを崩し、カサルが慌てて背負い直す。
「危ねーだろ!暴れんな」
「ゴメンなさい……」
それから二人は暫く無言のまま斜面を進んで行った。雨粒を溜めた草が陽の光を反射し、岩ばかりの斜面に生命の色を添える。
「あ、あのー、私臭くないかな?」
(何で急にタメ語なんだ?別にそれでいいんだけどよ)
リマは恐る恐ると言った体で、唐突にカサルに訪ねた。
「いや、お前はいつもいい匂いがするなって、感心してる」
「のえぇぇぇぇー?」
リマは今までで一番という程の、頓狂な声を上げ慌てて身を仰け反らす。
「だから、危ねーって何度も言ってんだろ!」
「ゴ、ゴメンナサイ」
カサルに叱られてしょげ返り、素直に元の姿勢でカサルに体を預ける。
「臭いなんて言えば、俺の方がよっぽどだ。違うか?」
二人と行動を共にするようになって、それなりに身なりには気を付けているつもりだが、野宿続きで限界がある。
「スンスン」
リマは大仰に声を出して、カサルの頭の匂いを嗅ぐ。
「本当ですね!スンスン」
顔をしかめて見せ、それでもどこか嬉しそうにまた頭の匂いを嗅ぐ。そんな風に大仰にされては、流石のカサルも抵抗を覚える。
「わざわざ2度も嗅ぐんじゃねー!」
「あら、御免なさい」
いい匂いなどと言ったことに対する仕返しか。リマがおどけて笑ってみせた。
他愛も無いやりとり、こんなやり取りが可笑しいと感じるのはいつ以来だろう。母が亡くなってからか、それとも父を失くしてからか。
「カサルさんはどうして金貨20枚なんて報酬を欲しがったんですか?」
「あん?唐突だなまた。前に言わなかったか?」
「いえ。一度聞いておきたいと思ってました」
「俺の弓を作ってくれた爺さんが、口にしたのがその金額だ。弓を作る相場が幾らかなんて知らないが、いざ稼ぎだしてみたらちっとも溜まりゃしない。まったく、強欲な爺さんだよ」
勿論、本音ではそんなことは思ってはいない。しかし、今更ドルフとのやり取りを素直に語って聞かせるのも気恥ずかしい。
「フフフ、好きなんですね。その方のこと」
「はあ?何を聞いていた。今の会話をどうすりゃそうなるんだ」
「だって、今の話をするカサルさん、なんだか嬉しそうでしたもの」
「なっ」
わざわざ憎まれ口を叩いて隠してみたと言うのに、お見通しというわけだ。人の心の機微を読み取るリマの洞察力には恐れ入る。
「素直じゃありませんね、二人とも」
「二人?」
「カサルさんと、シーガルです」
「俺とアイツを一緒にするな。別に俺はアイツを嫌ってやしない」
「あら、それはシーガルも一緒ですよ……シーガルは無事でしょうか」
先ほどまで緩んでいたリマの声がくぐもる。
「何の心配をしてるんだ。アイツなら俺達よりよっぽど無事だろうぜ。下手なマネをしていなけりゃな」
三人はパーティーからはぐれてしまった場合を想定して、落ち合う場所を決めてあった。山道を抜ける場所で1日待ち、それでもどちらかが現れなければ湖に一番近い村で待つ。
ただし、リマが一人ではぐれた場合はこの限りでは無い。
カサルとリマはしばらくして巡礼道に復帰した。斜面を縫って伸びる道に変わりないが、崖をくり抜くような難所は抜けている。勾配も緩やかで比較的歩きやすい。
「どうだ、歩けそうかリマ?」
「ええ、大丈夫ですよ。これだけ歩きやすい道なら、もう問題はありません……って、え?」
カサルがリマを背中から降ろして体の動きを確認する。リマは片足立ちで両手を回して見せ、足腰の健在ぶりをアピールすると、何かに気付いたようにカサルの顔を見た。
「なんだよ急に?」
「今、私の名前を呼びましたか?」
「は?名前くらい呼ぶだろ。その様子じゃ、大丈夫そうだな」
「は、はい」
大した怪我が無くて幸いだった、カサルは無事な様子を確認して目を細めた。リマは頬を少し赤らめ、気恥ずかしそうに視線を逸らす。
「どうした?どこか痛むのか?」
「いえ!そんなことないですよ……カサル」
そう言う割に様子がおかしい。また無理をして不調を隠しているのではないか。
「なにかあったら言えよ。遠慮してたら余計に先に進むのが遅くなるぜ」
「もう、そんなんじゃないです!」
珍しく語気を強め、不満そうな顔を見せるリマ。何か言いたいことでもあるのだろうか。
「それじゃー、先を急ぐか。シーガルも待ってるだろうしな」
考えてみたところで、何を言いたいのかは分からず、カサルは休憩も取らずに歩き出す。
「もう、名前をを呼んでくれたのに……」
すぐ後ろを何事かを呟きながらリマが続いた。半日ほど歩くと山道は終わりを迎え、待ち構えていたシーガルが涙を浮かべながらリマを出迎えた。