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大臣の野心 2

カーテンが閉め切られた、薄暗い執務室でメルツ大臣は補佐官シンから報告を受けていた。


「襲撃者を撃退し、王女と他2名が巡礼の道から山岳地帯に入りました」

「そうか、国境を抜けたか……」


メルツは目を閉じ、黙考するように報告の続きを聞く。


「国境を越えれば、我が国の権能も及びません。以降は、王女の動向を知ることは困難です」


そんなことは分かっている。この男は部下として優秀なのだが、どうにもこちらの先読みをするようなところがある。


「オークを退けたと言うのは確かなんだな?」

「はい。街道に転がる3匹の死体を確認しました。近くには3名の騎士の墓もありました。まだ新しく、オークとの戦いで死亡したと考えられます」


3名の騎士の墓。王都を出る王女に同行した騎士は4名だったはずだ。それでは国境を越えた人数と計算が合わない。メルツは事態を推理するように、シンに状況を尋ねる。



「俄かには信じられんな。オークは一匹で騎士2~3人分の戦力に匹敵する。それを退ける程の腕を、残った1名の騎士が持っていたとでもいうのか……。残った1名は誰だ?」


「残ったのはシーガル・ギャッツァという若き騎士です。墓標に使われていた剣に、他3名の名がありましたから」


「どんな男だ?」


「騎士の名門、ギャッツァ家の長男です。2年前、王女から叙任され騎士に就きました。以来、王女に対する忠義も厚く、騎士の任に愚直に励んでいるとの評判です」


「殿下を付けろ無礼だぞ」


「はい、失礼しました」




王女と不遜に呼び付ける部下に対し、メルツは義務的な注意をする。




「若い理想に燃える騎士には無理からぬか。つくづく騎士とは難儀な奴等よ。で、それほど腕が立つのか?」


「剣の腕はかなりのものだとか。ただ、腑に落ちぬ点が」


「なんだ?」


「オーク共の死体を見分しましたが、3匹とも胸部を貫かれ、心臓を破壊されていました。しかし、騎士が使う直剣で刺突しても、あのような傷は着きません。刺突タイプの武器で付く傷でした」


「ふん。すると、道中で雇われ1名が、オークを退けたというのか?何者だ?」


「遠目からでしか確認はできませんでしたが、ハンター帽子に緑の外套を着た、逞しい男です」


「ただの道案内というわけでも無さそうだな」


「如何いたしますか」


「動向が分からぬ以上は網を張って帰りを待つしかあるまい。国境の村近くに軍を駐屯させろ」


「は?村に直接では無くですか?」


「そうだ。流石の王女殿下も……いや、騎士が私を怪しむであろう。村に軍が駐屯していては、警戒して迂回されかねん」


「承知しました」


「近衛騎士を動かす権限は私に無い。なれば軍を差し向けて、帰路をお守りするのは道理であろう。他国の間者にオーク、何が王女殿下を襲うか最早分からん。軍を動かす大義名分は十分に立つ。そうであろう?」




メルツは笑みを浮かべる。


「確かに、何が王女を襲うかわかりません」


同調するようにシンが大臣の言葉を反芻する。


「相変わらず無愛想な男よ。下がって良いぞ」


シンは小さく一礼すると執務室を出て行った。



(思わぬ妨害にも屈しない。なかなかにやるではないか王女殿下)



メルツは口元に笑みを浮かべ、リマの健闘を称える。ゾンダルテ国王の病は重く、今では病床から起き上がることすら出来ない。唯一の後継者たるリマの消息が不明となれば、国の全権はメルツの手に委ねられる。未だ恭順の意志を見せぬ騎士団も担ぐ神輿を失くす。


「狂王はもうすぐ死ぬ。急がなければ間に合いませんぞ王女」


メルツの顔に、この部屋以外では決して見せることの無い、暗い野心の火が浮かぶ。

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