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あいつらは大臣が差し向けた

国境近くの農村に出現したリマを襲った集団。


シーガルとカサルは倒れている賊の生死を確認して回った。息のある者も数名いたが、いずれも重傷で聞き出せる状態では無かった。


「あとは、村長夫婦です。リマ様はこちらで待っていて下さい」


「はい。ですが手荒な真似は控えて下さい、シーガル」


「心得ました」


村長夫婦は息子夫婦の家に移り、襲撃者はリマが寝る部屋を狙っていた。予め仕組まれていたか、情報が漏れていたと考えるのが普通だろう。


シーガルがランプを手に足を踏み入れた途端に女達の悲鳴が響き、子供達は大きな泣き声を上げ始める。家の中は土間一部屋しかなく、隅に置かれた大きな藁敷きのベットに、村長夫婦と息子家族が身を寄せ合っていた。


ランプをベットにかざすといよいよ泣き声は絶叫に変わり、女達は子供を抱えてガクガクと震え出す。


これではシーガルとカサルは押し込み強盗だ。


「村長。聞きたいことがあります。要件は分かっていますね」


シーガルは丁寧に語りかけるが、その言葉には有無を言わさぬ迫力が籠っていた。


村長と息子はベットから転がるように飛び出し、土間に額を擦りつけて平伏した。


「へい!分かってます。だけんどホントにワタシらは何が起きるか知らなかったんです。数日前に、王国軍を名乗る旦那さんがやって来で、貴族を名乗る娘が来るから言う通りしろて」


村長は額を擦りつけたまま答えた。


「王国軍を名乗る者、確かですか?」


「へー!百姓が国に協力するのは当然で、断れば牢さぶち込む言われました。それが嫌なら義務を果だせって」


「それで家を空け、自分たちの寝室にリマ様を寝させたと?」


「へえ!へえ!申し訳ないことです。全部あの軍人さんの指示ですた。ほんどにそれしか知らねかったんです」


あまりにぐりぐりと力強く土間に額を押し付けるので、土が掘り返されそうな勢いだ。


泣きわめく子供達と、庇い震える母親、必死で謝り続ける村長。あまりに弱々しく、それでも必死で生き延びようとする姿。カサルは痛ましさを感じ、尋問を終わらせようとシーガルに近づく。


「もう結構ですシーガル」


尋問を止めたのはリマだった。部屋に入って村長たちの前に膝を着く。


「頭を上げてください。怖い思いをさせて、スミマセンでした。私たちはあなたがたに危害を加えるつもりは一切ありません。どうかご安心ください」


村長の手を両手で包み込み、優しく語りかけた。村長と息子は、顔を上げてリマの顔を見つめる。リマはさらに、泣き叫ぶ子供と女達そばへも近寄り膝を着く。


「怖い思いをさせてゴメンナサイ」


慈愛に満ちた声が、恐怖と混乱に満ちた子供の心を落ち着かせていく。母の手の中で泣き叫んでいた子供達は、声の主である美しい少女の目を見つめ、泣くのを止めた。


「行きましょう、二人とも」


リマは寂しげな顔で家から出ていった。カサルとシーガルが続く。


「憎まれ役を押し付けてしまいましたね、シーガル」


「……いえ、これが僕の仕事ですから。我々がここに立ち寄ることを知っていた上での犯行。装いを見るに、暗部で動く専門の集団と言ったところでしょうね」


「……」


申し訳なさそうに目を伏せるリマに、シーガルは笑みを見せて答えた。リマは悲しそうな顔をするだけで口つぐんでいる。


「何か、心当たりでもあるのか?」


「リマ様が目的だとすれば、いくつか可能性は考えられる……」


「二人とも。片付けをして、今日はもう休みましょう」


カサルの質問にシーガルは明確な言及を避けた。


賊の遺体を屋外に運び出し、土間を片付ける。先ほどは村長夫婦の寝室で寝たリマだったが、流石に血溜まりの部屋で一人眠る気は起きないのか、土間で一緒に眠ることになった。


三人が横になってしばらくの後、シーガルはカサルを起こし屋外へと連れ出した。


「お前には背景を話しておいた方がいいと思ってね」


「背景?」


「そうだ、さっきの暗殺集団にも繋がる話しだ」


「聞かせてもらおうか」


シーガルは眉間にしわを寄せ思案顔で目線を伏せている。わざわざカサルだけを連れ出したのは、この話をリマには聞かせたくないということだ。


「現在、我がゾンダルテ国王は病に臥せっておられる。もう10年以上も前からだが、ここ数年は特に病状が思わしく無い。国政は事実上、メルツ大臣を中心に執り行なわれ、成人前のリマ様はその承認をされている」


「国の内情なんて言われてもな、田舎者の俺に背景は分からないぜ」


「そうだったな」


シーガルは苦笑を漏らしたが、以前の様に皮肉めいた物言いではない。


「国王は長年お世継ぎに恵まれず苦労あそばせだ。もうご高齢の域に達すると言っていいだろう。人間同士は元々子供が出来にくい。特に王家の場合は、系譜が危ぶまれるほどにな」


この世界において、人間がオークや亜人の台頭を許すに至ったのは、元をただせば出生率が低下し続けたことによる人口の減少にある。


「言っただろ、なるべく分かりやすく話せって」


「簡単に言えば、唯一の王位継承者であるリマ様が亡くなれば、メルツ大臣が国の実権を握るということだ」


「唯一の……なるほど、つまりはあいつらは大臣が差し向けたと」


「断定は出来ない。僕もまさかこんな思い切った手段に出るとは考えていなかった」


そこまで言うとシーガルは言葉を飲み込んだ。これ以上の発言は国に忠誠を誓う騎士としては出来兼ねるのか。


「まあいい。それで、これから先も襲撃の危険はあるのか?」


「可能性は否定できない。だけど僕たちは引き返すわけにはいかない」


「ふーん、要はこれから先も襲撃の可能性を考慮しておけということか」


「ああ、頼む」


ヒョッとカサルは息を吸い込んだ。


まさか、あれ程ハーフ・オークと見下していた男から、頼むなどと言う殊勝な言葉が出てくるとは。


リマの身を案じてのことだろうが、カサルに対しても多少は気を許したか。勿論、前者が一番の理由に違いないが、リマが置かれた背景を打ち明けたことを見るに、後者も多少は含まれているだろう。


「言われるまでもねー、ちゃんと仕事はするぜ」


元より手を抜くつもりなどなかったが、二人と旅を続けて交流を重ね、意識下には単なる金貨20枚の仕事以上の「感情」が宿り始めていた。


もっとも、カサルには自分でもその正体が何なのかは分からない。

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