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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

しっかり短編

傭兵と少女

作者: 閑古鳥

「その髪は夕焼けの色ね」

彼女は笑ってそう言った

死を運ぶ血の色だと言われた俺の髪を

暖かく寂しい夕焼けの色だと言った

「名前が無いの?

それじゃあ貴方は今から«夕焼け»ね」

名前を聞かれて口を閉ざした俺に

お嬢は名前を与えてくれた

持っている名前が無いわけではなかった

俺はある時は商人のサムであり

ある時は旅人のジョンであり

またある時は旅芸人のマークであり

そしてある時は傭兵«緋色の死神»だった

けれどそれはどれも本当の名前ではなく

澄んだ目で見つめる彼女に対して

それが自分の名前だと言えるものは

俺には1つだって思いつかなかった



戦いがあった

苦しく悲しい戦いだった

この町を邪魔に思う奴らがいた

この町を好きな人達がいた

どちらも譲ることはできなかった

町の四方から軍勢が襲ってきた

俺は精鋭が集められた北方面へ向かった

お嬢は人数が最も多い西方面へ向かった

戦いは長く永く続いた

ただ集められた精鋭とはいえ

単独では俺の敵になる程の奴らじゃなかった

渾名がまだ付けられていない

この世界 (傭兵)では弱い方の奴らだった

人数がそれなりに多いことで少し苦戦したが

俺1人でどうにかできる程度の

そんなちっぽけな奴らだった

俺はそいつらを片付けてお嬢の所に向かった

敵はもういなかったが

そこに彼女も居なかった

ただ悲しみに暮れる人々だけがそこにいた



彼女はこの町に全てを捧げた

願いも想いも生命も捧げた

「この町が大好きだから

この町に住むみんなが好きだから」

そう俺に告げて逝ってしまった

町を襲う軍勢と戦って

町にいる人々を護って

町が邪魔な奴を追い出して

町を守って

敵を殺して

最期の最期に殺された

お嬢は相手にとって邪魔だったらしい

彼女は優秀な護り手で

優秀な指揮官だった

お嬢が居ると士気が高まり

力を思う存分出せる人が大勢居た

お嬢の最期は酷いものだったと聞いた

お嬢の最期を見ることすらできなかった

彼女の死体はお嬢の姿をしていなかった








こんな理不尽な世界では

命なんてちっぽけなものだと

昔からわかっていたというのに

今もわかっているというのに

それでも

お嬢がもうこの世界のどこにも居ないことが

どうしようもなく哀しかった

彼女にもう«夕焼け»と呼んでもらえないのが

ただただ寂しかった







俺は何もできなかった

«死神»は護ることが苦手だった

俺はただの傭兵で

遠くで戦っている彼女のことを

護ることも救うこともできなかった

町は確かに守れたが

一番町が好きだった彼女を守れなかった

大切だと思った彼女のことを

どうやっても救えなかった

それでも

お嬢が大好きだったこの町を

俺は護りたいと願った

«夕焼け»はこの町に置いていく

俺はまた«緋色の死神»に戻って

この町を潰そうとするあいつらを

葬るために出ていく

この町は壊させない

それだけが俺のたった1つ残った願いで

彼女に捧げる最期の祈りだ








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― 新着の感想 ―
[良い点] もうすでに居ない彼女を思い、自分攻める様な感じがしました。 [気になる点] もっと嘆いていいかもと思いました。涙腺弱い自分は多分それで泣きます(笑) [一言] 短編は限られた字数で書くもの…
2020/04/14 23:58 退会済み
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