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黒騎士

作者: 村瀬千理

我が処女作『君に幸あれ』の続編です。

上限の月が夜を怪しく漆黒の夜空を照らす。


窓から差し込む月光で、刹那は目を覚ました。


隣で寝息を立てる愛しい少女の横顔を見つめながら、刹那は安堵感を覚えた。


「まだ、俺でいれたんだな……」






『黒騎士』






彼女に気付かれないようにそっとベッドを抜け出し、洗面所で顔を洗う。


(ヨウ主、コンナニ早ク起キルトハ珍シイジャナイカ?)


鏡の向こうに移る、もう一人の俺が卑しい笑顔を浮かべている。


封じ、消し去ったはずだった、忌々しきもう一つの人格。


あの日、彼女を傷つけたあの男への復讐にあの力を使ったあの日から、奴が再び俺の心に巣食い始めた。





力を使った事に別に後悔などしていない。


一ヶ月前、どしゃぶりの雨の中俺の家を訪ねてきた彼女は、もうボロボロだった。


夕暮れの教室、俺の本から飛び立った彼女は幸せになるはずだった。


なのになのになのに!!!!


あの男はあろうことか彼女を散々いいように使い、用無しと思えば簡単に切り捨てた!


そのせいで傷ついた彼女は俺に救いを求めた。


子供のように泣きじゃくる彼女を抱き締めながら、俺は彼女を傷つけたあの男に復讐する事を誓う。



復讐を決行してから三日、今、あの男はこの世界に存在しない。


(ドウダッタ主?ヒサビサニ力ヲ使ッテ気持チ良カッタダロ?)


奴が嘲けるような笑みを浮かべ、俺に語りかけてくる。


「黙れ…」





(隠スナヨ、俺ニハ分カッテルンダゼ?アノ男ヲ



      何度モ刺シ、捌キ、剥ギ、取リダシ、潰シ、砕キ、燃ヤシタ


 

ソン時ノオ前ノ顔トイッタラモウ、凄イ楽シソウダッタゼ)






「黙れって言ってんだろ!!!」




気が付けば鏡を叩き割っていた、拳からは微量の血が流れてきている。


「……刹那?」


眠っていたはずの彼女がすぐ後ろまで来ていた、さっきの鏡が割れた音で目を覚ましたのだろう。


「起こしてゴメンな。まだ遅いし、寝てたほうが――!?」


刹那の言葉が終わらぬうちに、理奈は飛びつくように刹那に体を預けた。


混乱する刹那をよそに、理奈は刹那の体をぎゅっと抱き締める。



「勝手に、いなくならないでよ。刹那がいなくちゃ、もう私………」



絶え間無く流れ出る涙と嗚咽で、後は言葉になっていなかった。


そんな彼女を見て、刹那は深い自責の念に駆られた。


彼女を守ると、彼女にもう二度と悲しませないと、己に誓ったはずなのに、俺は何をしている!?


自分の事で精一杯で、弱りきっている彼女を一時でも忘れていた。


こんな自分が憎くてしょうがない、脆弱な自分を殺してしまいたい。


だけど、こんな自分を彼女は求めてくれている。


ならば―――


震える彼女を思いっきり抱き締める、雪のように消えてしまいそうなその体を、ここで繋ぎとめるように。


「大丈夫。側にいる、絶対離れないから――」


たとえこの体が朽ち果てようとも、例えこの心が闇に飲まれようとも、君だけは守り続ける。


いまだ拳から流れ出る血を使い、彼は世界と契約した。





そうして、一つのゲッシュのもとに一人の騎士が生まれた。


彼の名は黒騎士、仕えるは最愛の恋人。


愛する女の為ならば世界すらも脅かす、最強の騎士。




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