1話 襲来
ー数日経ったある朝ー
「カイト様!ルナ様!」
大きな声と共に勢いよく城の扉を開けて飛び込んで来たのは、黒いタキシードに赤い蝶ネクタイをしたウサギだった。
「なんだぁ、騒々しい。また、花瓶でも割ったのか?ラビー?」
広いホールに響く気だるそうな声と共に、大きな欠伸と伸びをしながら城の奥の階段を主であるカイトが降りてくる。その後ろからクスクスと微笑みながらルナも降りて来た。
「違いますょ!それより大変です!空を…空を見て下さい!!」
慌てた様子で窓の外を見るように2人に促したラビー。その様子にカイトとルナは首を傾げながら近くの窓から外の様子をうかがった。
「っ!…なんだ…あれは……」
2人が見た光景は目を疑うものだった。
それは空に浮かぶ大きな月の側に黒く丸いモノがあり、それは次第に大きくなりながら、月を呑み込んでいくようだった。…というより、その黒い固まりはゆっくりと確実にこちらに落ちてきていたのだった。
「あれは…まさか負の隕石か!!!」
カイトのその一言で傍にいたルナとラビーの表情が一気に強張った。
ー『負の隕石』。それは、闇の力を含んだ隕石。そしてこれを作り出すのは、地球上の人々の怒りや悲しみの心の負の感情。ー
そしてここ最近、その隕石が時折幾つも降って来ていたのだった。もしこの『負の隕石』に触れてしまうと、草木は枯れ果て、この世界に住む住人は心が闇に支配されてしまい自我を無くしてしまう。
そうならない為に、『闇の浄化』と『時を操る』星の能力を持つカイトが、墜ちてきた隕石を浄化し、その衝撃で枯れた草木を能力で蘇らせていた。
しかし今までに墜ちてきた隕石は、大きくても手のひらに収まるくらいの大きさだったが、今度のは今までとは桁違いの大きさだった。
「……やはり、月の力が弱くなっていたのか…」
カイトは最初の隕石が墜ちてきた時から薄々感じていた。本来なら月の光で地球上の人達の負の感情を抑えている為、この『負の隕石』が作られるのは有り得ない事なのだ。しかし、それが存在してしまったということは、月の光が弱くなってきているということになるのだ。
「あの大きさはマズい!!ラビー、お前は街の者たちを城の地下へと避難させろ!!」
その言葉にラビーは長い耳をピンと立て、はい!と返事をし急いで城を飛び出して行った。
「ルナ。お前もラビーと一緒に避難の手伝いをしてやってくれ。」
「でもカイトは?」
「オレは力が届く範囲に結界を張る。…オレは大丈夫だから、早く行け。それに、街の者たちはきっと不安だろうから、お前が一緒に居て安心させてやれ。」
カイトは優しく微笑みながらルナの頭を撫でた。ルナは頷いてラビーの後を追って城を出て行った。カイトはそれを見送ると、城の頂上を目指し階段を駆け上がって行った。
しばらくして頂上に着いたカイト。そこは柱が数本しかないひらけた場所だった。徐々に森の方に近づき降りてきている隕石を目で確認をした後、一つ深呼吸をすると左手を前に出しそれに右手を重ね、目を瞑り意識を集中させていった。すると左耳の裏にある『星』の文字が蒼く光り出し、その光は次第にカイトの身体を包み始めた。
ー我、星の名の下に、皆を守る、光を創り出せー
そう唱えたと同時に、城と街を守るように七色に光る結界が張り巡らされた。
その頃、ルナとラビーは街に住むウサギ達を連れ城に戻ってきていた。ルナはある部屋の床にある地下への扉を開け「大丈夫ょ」と、一人一人に笑顔で話しかけながら、中へと誘導していった。最後のウサギが中に入って行ったのを確認したのと同時に、ドーンという衝撃音がした後、ゴォーっという不気味な音と共に立ってもいられないほどの激しい揺れが襲ってきた。
「っ、ラビー…早く、あなたも中に入りなさい!!」
「でも、ルナ様は?ルナ様も早く一緒に中へ!!」
「わたしは、カイトの所へ…さぁ入って!落ちつくまで出てきちゃダメょ」
そう言ってルナはカイトがいるであろう城の頂上へと急いだ。ラビーは、その後ろ姿を不安そうに見つめた後、地下へと入り扉を閉めた。
外では、あの大きな『負の隕石』が森の中に墜ち、漆黒の闇が周りのものを呑み込みながら勢いよく迫ってきていた。そして数分もしないうちに、張り巡らされていた結界とぶつかった。
「っち、やはり、もたない…か」
そう言うと、カイトは外の様子を見ながらどうしたものかと考え始めた。