9話 偽善でも喜んでもらえるなら…
連稿の意味はありません
商業ギルドを後にした俺はグラスに教えてもらった通り、出て右に歩いていく。居住スペースなのか家が立ち並んでいる。しばらく歩いていると、家々の中に人気は大きな建物があった。どうやら学校のようで、柵で囲まれた中で子供達が大勢楽しそうに遊んでいる。キャピキャピとした声のおかげで、気分が癒される。さっきまでヤクザのようなおっさんと一対一で会話をしたせいか、開放感が半端ないな。
そういえば何か食い違ってたな…スキルは職種がないと手に入らない…ならなぜ俺はスキルを持ってるんだ?…レベルアップの時の声は誰なんだ?まあ、いいか…さあ、教会を…ん?…
学校の柵の隙間から子供達を見ている少女がいた。髪の毛はボサボサ、来ているものも茶色く変色している。しかも足元は裸足で、長いこと裸足なのか足が真っ黒になっていた。
「どうしたんだい?」
少女に声をかけてみた。普段の俺なら無視だろうが…まあ、無視しにくかった。
俺の声にびくりとなる少女はゆっくりと俺の方を振り向く。頰もこけ、目がうつろだ。どう見ても孤児だよな
「大丈夫か? そうだ。これをあげよう」
俺は少女の前に手を差し出すと、チョコバーを召喚する。突然手のひらに現れた見たこともない茶色の棒に少女は驚いているようだが、視線は逸していない。
俺はそっとパッケージを破ると、そっと少女の口元に持って行く。少女はまっすぐ俺を見るので軽く頷いて見せると匂いを嗅ぎながら恐る恐るチョコバーをかじる。
「!?」
美味しかったのか目を見開き、もぐもぐと咀嚼する。飲み込むとすぐにチョコバーの食い掛けを一度見た後、俺を見上げる。透き通った青い目だ…この目どこかで見たことがあるな…
「食べていいよ。ほら」
俺はなるべく優しめの笑顔でチョコバーをもっと口元に寄せる。少女は一瞬笑顔になると、ものすごい勢いでチョコバーを食い始める。おいおい、その勢いじゃ俺の指もかんじゃうぞ!
なんとか指が噛まれなくて済んだが、少女はまだ俺のことを見てくる。俺はまたチョコバーを召喚すると、少女がまた飛びつく前に上にし、おあずけする。少女は声は出ていなかったが「あ…」というような表情を浮かべる
「名前を教えてくれるかな?」
優しめにそう問いかけるが、俺の言葉に少女は下をうつむき何も答えない。仕方がないのでしゃがみ、下を向く少女と視線を同じにする。すると、少女はゆっくりと顔を上げ俺の目を見てくる。
「ほら、食べていいよ。」
少女にチョコバーを手渡す。今度はパッケージを開けていなかったが、学習したのか器用にパッケージを破り中身を食べ始める。かわいいな…大きな瞳に小さい唇…うん。
「そうだ、教会ってわかるかな?教えて欲しいんだけど」
俺がそう聞くと少女は大きく首を縦にふり、俺のズボンを掴み引っ張る。
「案内してくれるのかい?」
少女は小さく頷く。どうやら少女は喋れないのようだな…かわいそうに…まあ、案内してくれるならいいか
それから大通りを避け、路地を通りぬけていく。だんだん歩いていると、空き地が多くなってきた。周りの家より少し大きな建物が見えてきた。屋根には十字架が立っている。あそこっぽいな…少女も指をさす。
「ありがとうな?」
そう言って俺は再びチョコバーを召喚すると少女に手渡す。少女は照れたように顔を赤く染めてチョコバーを受け取る。それにしても喉渇かないのか?…まあいいか。
俺は案内された建物に入っていく。綺麗に手入れされた庭には綺麗な花がたくさん咲いている。扉の前まで来るとノックをしようと扉に手をかけたと、同時に声をかけられた
「どなたでしょうか?」
振り返るとそこには黒いシスターのような格好をした女性が立っていた。シスターのような格好てか、ここ教会だしシスターなのだろう。白い肌に黒い服装が魅惑的だ。そして、整った顔立ち…可愛いな。俺は警戒されないようになるべく笑顔で声をかける
「初めまして。俺はボルトと言います。先ほど少女に教会を紹介されまして。こちらの方ですか?」
「はい!そうですか!珍しい…です。さあ、立ち話もなんですし中へお入りください!」
「はい、失礼しますね」
シスターが扉を開け、俺もその後に続いて入る。扉を閉めようとすると、扉の前に先ほど道案内をしてくれた少女が立ていた。俺はそっと手招きをし少女を中に招き入れる。まあ、孤児だと思うが…教会がそこまで怒らないだろう。怒られるようなら俺が連れてきたと言えばいいか。扉の中は礼拝堂なのか多くの長い椅子が奥に向かって並べられていた。
「どうぞ、適当におすわりください。あら、ロゼじゃないですか、あなたも適当に座っていなさい」
「シスターでいいですかね?この子のお知り合いで?」
「ええ。私のことはマリアとお呼びください。この子はたまにうちに来るのです。親はすでに亡くなっておりまして…」
「孤児ですか…しかし、たまにですか?家はあるのですか?」
「いえ、この子に家はありません…身を寄せる親類もいません。ご覧の通り、この教会は人があまり来ません。財政的にも厳しく私が回復魔法で冒険者を癒す『回復屋』でなんとか食いつないでいる程度です…。お恥ずかしい…この子はそのことを知っているから週に1度だけここに来て泊まっていくのです。パンの一つも与えて上げれない…不甲斐ないですね…」
「この街には孤児は少ないんですか?」
「今いる孤児はこの子だけだと思います…この子の親は帝国の騎士に殺されましたから…」
「どういうことですか?」
「商業ギルドの近くにあるメクリという教会がありまして…その教会が多くの孤児を引き取っているんです。メクリは帝国とつながりあるそうなので、帝国との間に問題を起こした親の子供は引き取らないようで…」
先少女が見ていた学校は…あれは教会だったのか…気づかなかった。それにしても胸糞悪いな…教会が差別的なことしていいのか?
「この子はしゃべることができないのです。ただでさえ大変だというのに、その上親もいない…。私の回復魔法がもっと強ければ…ごめんなさい」
少女は首を横にふる。その少女を見てマリアはそっと優しい笑顔で「ありがとう」というと、少女はまた顔を赤くしてうつむいた。素直でいい子じゃないか…必死に生きてきたんだろうな
「この子を預かってもいいですか?」
「この子を…ですか?」
「ええ。この子です。…なあ、おじさんと一緒に来るか?」
少女はすぐに首を上げ頷こうとするそぶりを見せたが、すぐにマリアの顔を見るとうつむいてしまった。マリアはそっと少女の頭を撫でる。
「この子は私を気遣っているんです。お願いできますか?この子を幸せにしてあげてください。それに私はシスターをやめます…この教会も」
マリアがそういうと、少女は椅子から立ち上がりマリアの手を握りながら首を横に振り続ける。まるで、『ダメ、絶対にダメ』と伝えるように。マリアは目に涙をためると少女を抱き寄せる。ここで男を見せないとな…
俺はそっと二人の肩に手を乗せる。二人と目があう。
「わかりました。では、マリアさん。あなたに少女を預けてもいいですか?」
「ど、どういうことでしょう?」
「つまり、俺がこの子を引き取りマリアさんにこの子を預けます。委託しているので、きちんとお金はお支払いします。どうですか?突然来た人間じゃ信用できませんか?」
「いえ…ですが…」
「大丈夫です。俺を信じてください」
少女が大きく頷くと俺の右手をつなぎ、片方の手でマリアの手を握ると教会のステンドグラスを見て頭を下げる。
あのステンドグラスに描かれている神様って俺を転生させたあのジジィにそっくりなのは気のせいなだろう。
「あれが神なのですか?」
「ええ、カムス様です。メクリは宗派が違うので神様が違います。」
「そうですか」
俺とマリアのぎこちない会話に、間にいる少女はニヤニヤした笑顔でに俺とマリアを交互に見つめる。
俺もつられて笑顔になると、マリアも理解できたのか若干頰を赤くしながら笑顔になる。
「まずは開いている部屋とかありますかね?」
「あ、開いてる部屋ですか?ありますが」
「俺に一室かしていただけますか?きちんとお金は払いますから」
「わかりました、ご案内いたします。」