44話
「では、お部屋にご案内いたしますのでこちらへ」
ベディの後に続いて俺たちも城の中へ向かっていく。サリバンとアンドレスは普段通りを装いながら警戒はしているようだ。まあ、敵になるかもしれないから当たり前か。なんだか二人も成長したな。
マリアは俺のすぐ後ろにおりロゼは俺と手をつないでいる。なんだか楽しそうなロゼの表情が癒される。ロゼにとってこう言う旅は初めてなんじゃないか?今度マリアに聞いてみるか。
一方マグネはキョロキョロとあたりを見渡している。こちらも楽しそうだが走り出さないか心配になるな
「ボルト様はかなり余裕があるように見えますね」
「そうか?まあ、ベディさんには警戒はしていないぞ」
「ははは。それはなぜです?」
俺は少し前を歩くベディにしか聞こえないような小さな声で囁く。
「聞くことか?パルティコの配下なんだろ?」
「やはりステータスが見えるのですね。ここでは誰が聞いているかわかりませんので『ユーグリッド様』とお呼びください。それと後で少しお時間をいただけますか。ユーグリッド様から言伝を預かっております」
「そうか。わかった。」
実はベディが案内するため俺に背を向けた瞬間に『鑑定』を発動させていた。そのステータスでは『賢老龍の加護』と書かれていた。まあ、『賢老龍』が誰なのかわからないが恐らくパルティコだろうと予想はしていた。
しばらくベディと他愛もない会話をしながら城を進んでいくと豪華な扉の前で止まった。
「こちらがご用意したお部屋でございます。」
部屋の中は真っ赤な絨毯に大きなシャンデリアが垂れている豪華な部屋だった。部屋の広さはこの人数が入っても余裕があるほどに広い。
サリバンは俺に視線を向けてきたので軽く頷きで返してやると部屋の中に入った。その後に皆が続く。
だが、俺が入らないことに手をつないでいるロゼが顔を向けてくる。俺は優しく微笑みながら手を離すと何かを察したのか俺の元を離れマリアの元へ向かう。
「すまん。みんな俺はちょっと用を足しに行ってくる。ベディ、案内頼めるか」
「かしこまりました」
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部屋から離れ数メーターほど行ったところでベディが立ち止まる。廊下はまだ続いており部屋も見当たらない。立ち話をするつもりか?そう思っているとベディはそっと壁に手を当てる。するとベディの腕が壁に吸い込まれる…いや、壁がなくなったかのように思える。どっかの魔法の国の9と4分の3番線みたいだな。
「こちらへ」
ベディは壁に手を入れつつそういうので俺はその壁の中に入っていく。壁の中は少しの抵抗があった程度で違和感はなかった。そして壁の先には先ほど案内された部屋のように綺麗で豪華な部屋になっておりその先に書類が高く積み上げられている机があった。
「よく来てくださったの」
聞いたことのある声が部屋に響く。ギィーときしむ音を立て書類の山から頭が出てきた。それは先ほど馬車で全員を気絶させた龍人が立っていた。
「驚いたじゃろ?あの仕掛けには」
「まあな。どうなってるんだ?」
「それはこの城がワシの一部じゃからじゃ。加護のあるものならどこへでも行きたい放題じゃ。まあ、立ち話もなんじゃ座ってくれぬか使徒様よ」
「そうか。では失礼する」
俺は近くにあった柔らかそうなソファーに腰をかける。非常に良い椅子で座りやすい。まるで俺のために作られたように感じるほどだ。ユーグリッドは俺の目の前にあったソファーに腰掛ける。
「この椅子は良いじゃろ。あの鬼才 グラスの長椅子じゃ。実に気におっておる」
「グラスのな…そんで本題を聞こう。言伝を預かったというのに本人が来てしまっては意味がないだろう」
「まあ、そう言うでない。ワシが案内しろと命じたからの。さて、時間もないからの。」
そう言うとユーグリッドは体を揺らすと人間のようだった見た目が変わりゴツゴツとした爬虫類の鱗に変わり瞳は大きくなりワニのような口に変わった。まさに龍人と行った見た目だ。
「それがお前の姿か?」
「いや、これは『龍人化』と言って…まあ、こちらの方が魔法を使いやすいのじゃ。それとこうすることで全ての部屋の状況が把握できる。盗み聞きしておるものはないか調べるのにはちょうど良い」
ユーグリッドは手を伸ばし指をひょいと動かす。すると書類の山から冊子がこちらに飛んできた。その冊子は俺の目の前までくると力をうしなように俺の手元で落ちてきた。
「それは召喚されたで勇者のリストじゃ。全ては書かれておらぬがそれでも役には立つじゃろう。そこに描かれている勇者が記憶を抜かれ洗脳状態にある。つまり敵になる存在じゃ。カエデに書いてもらっておるから正確なスキルが書かれておる。」
「それで、俺は俺は記憶が隠されている書物を回収すればいいんだっけか?」
「そうじゃ。チャンスは少ないじゃろう。それにお主の仲間にも色々と迷惑をかけると思うが…そこは済まない。お主には頼ることはできないのじゃ…」
「なぜだ?ユーグリッドが直接取りに行けばいいだろう。龍は並の勇者が束になっても勝てないだろうし」
「それができれば苦労はせぬ。龍や龍の加護を持つものはあのその書物を見ることはできないからの。」
「なぜだ?」
「神の所有物じゃからじゃ。この世界はうまい具合に均衡を保っておる。
龍族はその圧倒的力によって神を滅ぼす
神族はその神聖な力によって魔族を滅ぼす。
魔族はその邪の力で龍を滅ぼす。
この三竦みのおかげでなんとかなっておる。神は神の力のあるものを龍から隠すため特殊な魔法がかけられておる。
まあそのせいで、魔族がだんだんと力をつけているのが現状じゃ。神の力を書物で神の力を持った勇者が魔族側についているからの。今も我々龍族の中は数を減らしている。だが、神は何もしようとしてこない」
「ちょっと待ってくれ…」
おい、ルシフェル。これはどういうことだ?
『はい、その三竦みというのはこの世界の迷信であり神は魔族だろうと龍族だろうと滅ぼすことは容易です。ちなみに神族はいます。神とは違いますが。それと世界に神自身が手を加えてしまうのは禁止されております。」
ではなぜこの世界の人間は神をそこまで強い存在として認識していない?
『それは勇者と呼ばれる転生者の力や神の作ったものが強すぎないからではないでしょうか。勇者自体、神が作ったわけではありません。龍なら勇者程度何人いようが障害にすらならないでしょう。それとこの世界を作った際に神が『面白そうだからさ、転生者とかありにしちゃって〜そんで能力とか適当にくっつけちゃえば面白くなるんじゃね?』という安易な考えで造られたシステムに則っているだけです。それを魔族が利用しているわけです。頭がいいですね』
頭がいいですねとかじゃねーんだよ!このバカ神!それで神の所有物とか言っていた件に言い訳はあるか?
『それは神が『やっぱ神最強!とかみんなに思ってほしいよね〜んじゃいろいろめっちゃ、やべーもん作っちゃおうぜ!』という考えで生み出したアイテムです。生み出したもののリストはありません』
クッソ!クソ神!ケツ拭くっつてもここまで汚れてるとトイレットペーパーいくつあっても足んねーよ!原紙もってこい!バカヤロー!
「ど、どうかしたのか?何やら神聖な力が伝わってくるのだが…」
「んや、何でもない…クソ…そんでその本っていうのは見ただけでわかるのか?」
「それはわからぬ。だが、あいつらはどうしてもこの異世界の技術をこの世界に持ち込ませたくないらしい」
「そうか、なら俺が囮になるってのもありだな。それと、敵ってのはお前らの言う『魔族』ってやつでいいんだな」
「そうじゃ。現状この城にも何匹か魔族が混じっておる。」
「それだけ聞ければいい。そろそろ戻らないと怪しまれる。」
「それもそうじゃな…そうじゃ。あの一緒にいた小さな少年。あの子は化けるぞ。龍になるか邪になるか」
「へいへい。気をつけるよ」




