プロローグ
目を開けると草原に立っていた。
いやいや、俺も自分で何をいってるか意味わからんよ。
でも見渡すかぎり、草原なんだから仕方ないだろ。
気温が高く暑い。
太陽が元気に照らしてきている。
ちらほら木や岩などの障害物があるが、見渡す限り何もない草原だ。
…俺はいつの間にサバンナに来たのだろうか?
先程までの事を思い出す。
確か俺は、家のベットの上で携帯をいじっていた。
今日は仕事も休みでやる事もなく、暇にしていたはずだ。
どれだけ思い出しても間違いない。
でも今はサバンナの真ん中にいる。
…あれ?間違ってないよな??
自分の事ながら不安になってくるな。
それからは、確か携帯をいじってて、アプリをダウンロードして…
あっ。
確か!『異世界ダウンロード』っていう名前のアプリをダウンロードしたはずだったわ。
それから少し設定を決めてから、スタートのボタンを押した。
あれ?おかしいな。
そこからは記憶がないな。
んん?ちょっと待て。
異世界ダウンロードだと!?
異世界をダウンロードとか???
……いやいや、ないない。意味わからんし。
しかし草原って風があって気持ちいいのなー。
「…………」
ここは異世界で、俺は転生したのか!?
おれ爆生!!!
っておい!
いらんノリ突っ込みやわ!
本当に異世界をダウンロードしてしまったと???
それは携帯の話であって、俺自身がゲームの中に入ってどうする。
確かに異世界転生物の小説は好きだが、アプリではないだろうに…
普通なら神様が現れて「間違えて殺しちゃったっ!テヘッ!申し訳ないから異世界に転生させてあげるね!」とかあるだろ。
ボーナスも貰えてないし。
本当にこれが異世界転生ってやつなのか??
いやでも、明日は休みって事で、まだ夢の中とか??
いやいや、でもさっき起きて、朝飯を食って携帯いじってたのはっきり覚えてるぞ。
つーか『異世界ダウンロード』ってアプリケーションをインストールしたのを、しっかり覚えてるぞ!
そうだ。携帯だ!!!
服のポケットに手を突っ込み、携帯を探す。
今来ている服は、さっきまで着ていた部屋着だ。
数年前にユ○クロで買った上下セットで、生地が柔らかく着心地がいい。
間違いなく、マイルームウェアだ。
あった。あったよ、あったのか。俺の携帯。
これなら、アプリを消したり閉じたり出来るかもしれないし、マイルームに戻れるかもしれない。
兎に角、やってみよう。
画面を見てみると、こうなっていた。
クエスト パーティー 武器 防具
ショップ ガチャ メニュー
いつものホーム画面ではなく、カテゴライズされているシンプルな感じだ。
既に、アプリが開いている状態のようだ。
こんなシンプルな画面で、ゲームなんて出来なくないか??
いやいや、今はそこじゃない。
色々飛ばして、メニューを見てみる。
アイテム 国家変更 職業変更
モンスター図鑑 名前変更 終了
おお!終了があるじぁないか!
これなら帰れるかもしれない!
まーやってみるか。
_________________
いやまーなんていうか、結果から言うと部屋に帰る事ができたし、もう一度行く事もできた。
アプリを起動したら同じようにサバンナに立っていたし。
終了して閉じてみても、ちゃんと家に帰ってくる事が出来た。
ちゃんと起動と終了が機能していた。
マジで意味わからんが、そうみたいだ。
ていうか出来てしまった。
いいのか異世界。簡単に行けるな異世界。
これは、最近流行りの異世界転生にもなりは、しないぞ。
それで俺は今、自宅のベットにいるんだが、どうしたものかと思ってる。
確かに今の生活に満足はしている。
安全で安心だからな。
食べるに困ったりは、していないし、一応仕事もしている。
衣食住で困ってない。
しかしそれだけといえば、それだけなのもまた事実か。
夢や希望はないし、楽しみもそれほどない。
熱い想いもなければ、叶えたい未来もない。
ただ生きている。
そう。
ただ生きている、これが近いか。
ゲームの中の主人公や小説を読んでると、みんな楽しそうでイキイキしてる。
ハラハラ、ドキドキしてる。
正直、羨ましい。
熱い日々、出会いや別れ。
勿論フィクションだから、それも当然かもしれないけど、どうしても思ってしまう。
だからゲームをやってしまうし、小説も読んでしまう。
異世界をダウンロードしてしまった俺はどうするべきだろうか。
やるかやらないかの二択ならやってみたいとは思う。
でも危ないしとか、うまくできるか心配だとか、絶対楽しいって異世界とか、色々な想いが、交差し堂々巡りになった。
けど、安全第一でちょっとやってみるぐらいなら、いいのかなといった具合には、気持ちが傾いている。
とりあえずは、携帯のアプリの説明を見る事から始めよう。
どんな設定で、どんな事が可能なのかで、だいぶ違ってくるだろう。
それで説明文は、こんな感じだった。
_______________________
100年以上にもなる長き戦いを繰り広げる三国。
魔国フリージア。大国ララバハイム。聖国シルバート。
そして領土拡大を目的に新しく戦いに参戦した皇国。
マーク皇国。
大陸の覇権は、どこの国に!
あなたの力で長き戦いに終止符を打つのだ!
亞人、魔人、貴族、奴隷、モンスター、魔法、ギルドもあるよ☆
パーティーを組んでダンジョン攻略でお宝ゲット☆
アプリは基本無料。
アプリ内課金あり。
新しく商国デスタを追加。
_______________________
ざっくりな説明はこんな所みたいだ。
亜人、魔人、貴族、奴隷、モンスター、魔法、ギルド、ダンジョンか。
やはり日本人としては、奴隷が気になる。
買っちゃうの??ホントに買ちゃうの???
ってやつかな。
ハーレムも夢ではなさそうだな。
男の夢、男のロマンがそこにあるのか。
これは一夫多妻してもいいのかもしれない。
毎日違う女を抱く。
これだけでやる気が出なければ男じぁないな。
楽しいな、異世界。
それなら、課金しまくってチートもありだろう。
大富豪に王様とかもなれるかもしれん。
いや、大富豪にはなりたいが、王様は難しいか。
まーなりたくもないし、いいか。
それに、魔法も気になる。
手から火が出る。瞬間移動できる。空飛べる。
手品なんて紛い物ではなく、ガチモンの魔法だ。
やってみたい。
だが、問題は、国対国での戦いだろうか。
このゲーム自体がそういったものであるから余計に問題だ。
ストーリーを進めて行くと色々な事が分かったり、問題が発生したりするのだろうし、その度に人と争うことになったり、誰かから狙われたりするんだろうか。
普通に怖いな。
進めなければ拮抗した状態になって、争わなかったりしないだろうか。
できる限り強くなるまでは、介入を控えるようにしていきたいものだ。
そうそう。
それとスタートする前にやった設定は、国を選ぶ事と職業を選ぶ事が必須だった。
王国を選んだ時は草原に、魔国を選んだ時は砂漠に、聖国を選んだ時は山から始まるようだ。
皇国と商国は、選択肢になかった。
まだ実装されたばかりからか選ぶ事は出来なかったのか?
まぁいいか。
職業は戦士、武道家、魔法使い、僧侶、冒険者、盗賊、モンスターハンター、賞金稼ぎ、商人から選ぶ事になる。
一番初めに選んだ時は特に考えず、戦士にしたが、よく考えた方がいい。
下手に戦えると国対国の戦いに巻き込まれる可能性はなくもないだろう。
あとは気になる所はアプリ内課金か。
こればかりは異世界に行かないと判断つかないな。
もし課金をすることにより、難易度が低くなるならありがたいが…。
それとインターネットで検索もしてみた。
自分以外にも、異世界ダウンロードで異世界いけたやつがいるかもしれない。
なんて思ったが、そんな事があるわけがなかった。
結果は、公式サイトや攻略wiki、個人ブログぐらいしかなかった。
当たり前か。
本当に異世界に行けました!とかないしな。
公式に連絡しても嫌がらせにしか思わん。
完全にツリサイト。
俺なら直ぐに前のページに戻る。
あり得ない事だから誰も気にしない。
ここはハリー・ポ○ターのホ○ワーツ特急9に4分の3番線ぐらいの気持ちで行くしかないな。うん。
…いつの間にか異世界に行くのが、当たり前になっているな。
どうしたものか。
ゲーム感覚。そういった感じだろうか。
ふわふわとした感じが、なんとも危ないと自分でも思う。
ゲーム内で、死亡した場合、帰ってこれる保証もない。
安全第一。
それだけは忘れないようにしよう。
では行ってみるとしますか。
ぼちっと。
異世界到着!
目を開けると草原に立っていた。
あーこのくだりはいいか。
まーベットからログインするだけの簡単操作ですから。
直ぐにいつでもどんなときでも、これる。
異世界転生?が簡単すぎて有り難みもないな。
ちなみに服はさっきまでと同じで、携帯も手に持ってる。
相も変わらず携帯画面は至ってシンプルだ。
クエスト パーティー 武器 防具
ショップ ガチャ メニュ
メニューでもそうだったが、クリックすると次の画面に変わる。
それとホーム画面ボタンは押しても反応しないのと、インターネットには繋がっていないようだ。
三本柱?立ってないし×ついてるしな。
仕様なのだろう。
1つずつ見ていこう。
まずは順にクエストからだ。
画面を押すと画面が瞬時に切り替わった。
選択できるクエストが3つのようだ。
チュートリアル 1
ミッション☆盗賊から商人を助けよう 1
中級者必須。 三国橋にいこう! 1
チュートリアルはここにあったのか。
あとでやってみよう。
国や職業選択は迷ったが、なんとなくだが、始めに選んだ草原と剣士にした。
特に理由はないので、攻略wikiを見てから変えるかもしれないが。
マップなどはないので、現在位置もわからない。
チュートリアルは、どのみちやる事になる。
さわり程度やっておけば、攻略wikiも読みやすいだろう。
問題は、下二つか。
盗賊から商人を助けよう!って事は、対人戦が確定してる。
んなこと普通にできんくね?
むしろ普通なら見て見ぬふりしそうだ。
このへんが現実とファンタジーの違いだろうか。
中級者必須。はスルーでいいかな。
盗賊から商人を助けよう!より難易度が高い。
1って事は例え選んだとしても、いきなり始まったりしないのかもしれないので、大丈夫なような気もするが、対人戦闘の連戦もありうるんだろうと思ってもよさそうな気もする。
平和ボケした日本人には無理だ。
本当に慣れていくだろうか。
しかし、そう思うとこの世界で死亡したら、どうなるのだろうか。
まんま現実なこの世界。
五感で感じるそれは、まさに、現実世界となんら変わらない。
ゲームの中だとはいえ、一生目を覚まさないなんて事にもなるかもしれないし、本当に死亡するかもしれない。
運が良ければ、現実世界に戻るだけかもしれないが、この現実を目の当たりにすると楽観すぎる気もしてしまう。
死亡しない方向で進めていくしかない。
次にパーティーを押す。
東山一生
俺の名前だ。
アプリが開いてから名前を入力していないはずだが、名前がバレしている。
そんなバカな。
更に名前をクリックしたらステータスもでた。
東山一生
LV 1
職業 戦士
HP G 攻撃力 G 精神 G
命中 G 速さ G 運 D
リーダースキル なし
スキル なし
異能 なし
だそうだ。
自分の事ながら、涙がでそうなぐらい弱そうだ。
Gとか最弱なんじゃないか?
近代のユトリは、ほとんどこのステータスになると思うしかないな。
始めはみんな一緒。
まーでもアプリで異世界いけるやつなんて、いないから比較もできないだろうが。
というかここは異世界マジックで、高スペックな身体にしてくれても良さそうに思う…
言っても仕方ない。
まー運だけは昔から悪くないし当たってるか。
運Dがどれ程かいいのかは、わからないけど。
それから武器と防具をクリックした。
武器一覧 武器装備
防具一覧 防具装備
武器は特に何も持っていないので、武器一覧を見ても空欄だ。
防具一覧には、布の服ってのはある。
布の服ってのは、現在、俺が着ている服だろう。
というか寝間着だ。
布の服を押してみる。
装備する。使う。外す。
となっていた。
現在進行形で装備しているだろうから、装備するはいいとして、使うを選択してみる。
このアイテムは現在使用中です。
ものは試しに、って事でやってみたが、そうなるわな。
着てるし。
続けて外すを選択してみる。
選択したと同時に俺のマイルームウェアーは、光となり携帯に入っていった。
そして俺は裸族になった。
っておい!
すぐさま布の服を選択し、装備するを選択する。
次は携帯から光が漏れ、先程の状態に戻った。
はや着替えも真っ青な瞬間で着たり脱いだりできるみたいだ。
いくらなんでもファンタジー過ぎると思ったが、ゲーム仕様だから仕方ないのか?
確かにゲームだとワンクリックで瞬時に着替え終わるが、現実だと違和感が凄い。
続けて、ショップを押すとこうなっていた。
ストーン購入 体力全回復 パーティー枠拡張
武器 防具枠拡張 アイテム枠拡張
課金アイテムはストーンになるらしい。
課金額が気になるので、もう少し見てみよう。
ストーン購入をクリックすると購入画面に切り替わった。
1個 100円 5個 450円
10個 850円 30個 2400円
50個 4400円 100個 8500円
高っ!
今までゲームに課金なんてしたことないから、特に思うのかもしれないが、高い。
普通なのかもしれないが、俺はゲームには常に無課金でやっていた。
初めての課金だ。
俺のお財布事情は、なんやかんやでコツコツ貯めた貯金が300万ぐらいはあったと思う。
遂に使うときが来たか。
どうせ仕様で、ここで買うと普通に請求書が届きそうな気がする。
インターネット繋がっていないのにな。
無限に取り出せたら正しくチートだろう。
それと体力全回復とか何気にすごい。
ファイナルファ○タジーでいえば、エリクサーだ。
しかも体力全回復を見てみると、ストーン1個で可能ときている。
ちょっとの無理なら大丈夫かもしれない。
携帯をいつも開く訳にもいかないので、常に使えるわけではないのがポイントか。
というか、人前で携帯を触るのは、いかにも怪しいか。
人の目に触れない所でしか出来ないだろう。
最後にガチャを見てみる。
レア以上確定☆ 武器ガチャ
レア以上確定☆ アイテムガチャ
ノーマルガチャ
これは武器とアイテムを課金するって事か?
それと防具はないみたいだ。
えっ。防具なしとか辛くないか??
どうしたら手に入るのだろうか。
もうちょっと見てみよう。
武器ガチャ ストーン 5 でガチャる。
アイテムガチャ ストーン 5 でガチャる。
ノーマルガチャ チケット 1 でガチャる。
それぞれをクリックすると次の画面はこんな感じだった。
ストーン5個で450円だったはずだから、結構な料金だと再確認できるな。
それとメニューの続きはこんな感じだ。
アイテム なし
国家変更 大国ララハイム
職業変更 戦士
モンスター図鑑 なし
名前変更 東山一生
名前は一生だと、違和感があるか?
異世界に来たし、変更したい。
街に行って変なやつ扱いも困るしな。
それと、結構簡単に国と職業が変更可能だ。
始めに選択させる意味があるのかと疑問に思う。
攻略wikiをみれば分かるかもしれないな。
さて、これで一応、全部になる。
所々わからない所はあとで、攻略wiki任せが多い。
それも仕方ないだろうが、あまり見すぎても楽しめないというジレンマがあるが、そんな事を言っている場合でもないだろう。
ストーリーもちゃんと把握しておけば、戦争にも巻き込まれないかもしれないしな。
しかしなかなか盛りだくさんだ。
ゲームはやり込み要素が多い方が、課金者増えるだろうし、課金ユーザーがいないと会社潰れるし仕方なしか。
まーありがたく使わせてもらおう。
続けてチュートリアルだけでも、やってしまおう。
さわり程度でもやっておけば、なんとなしに方向性が掴みやすいだろう。
クエストの画面を開き、チュートリアル1を押す。
携帯が光、携帯の中から、なにかがくるくる廻りながら飛び出した。
「お目覚めなのですよー!僕は全能神様に仕える精霊のビィーなのですよー!これからよろしくです!」
一瞬の事でよくわからなかったが、目の前には、空を飛ぶ小人が浮かんでいる。
その小人は、手のひらサイズの人型で、髪はピンク、エメラルドグリーンのラメの入ったワンピースを着ている。
目が顔の大部分を占めていそうなほど大きく、小顔だ。
活発な女の子。もしくは幼くあどけなさが残る男の子だろうか。
透き通る羽が小刻みに揺れている。
これが精霊か。
あまりの事で反応できなかった。
「…えっ!!!!」
「あなたがマスターなんですかー??」
「いや、マスターかどうかはわからんが…」
「そうなのですかー?あれあれー?おかしいですねー呼ばれたと思って来てみたのですがー」
首を傾げながら、うんうん唸る精霊だと言う小人。
ゲームやらファンタジーやら現実の地球やら、そんな事は、頭から吹っ飛んだ。
目の前の少女か少年かもわからん小人な謎生物とのファーストコンタクト。
とりあえず危なくは、なさそうなので話してみる。
「ねぇ。ちなみになんといって呼ばれたんだい?」
「あーそれはマスターがチュートリアル?ってのをやりたいって言われた気がして急いできたのですよー!」
「えっ…そうなの。…あっ…それならそれ俺だわ」
「やっぱりマスターだったー!」
しかし、ちゃんと意思疏通は出来るみたいだ。
これがプログラムされたゲームでボタンを押すと次に続く会話には思えない。
喜怒哀楽が激しそうな、この精霊の名はビィーと言ったか。
チュートリアルはどんなもんか。
「そうか。ビィーさんというのか。よろしくな!」
「はいマスター!!…マスターマスター!ビィーはビィーなのですよー!さんづけはなしでお願いしたいのです!」
「そ、そうか?ならビィーこれからよろしく!」
「はいなのです!おまかせあ~れ~」
携帯から出てきた時と同じようにくるくる廻りながらピタリと止まり綺麗なお辞儀を決める。
いつの間にかマスターになってしまったか。
いやでも、そういえば全能神って仕えるとか言ってたけど、携帯のアプリの事ってあるのか?それなら携帯の保有者がマスターって事はなくはないのか?
まー聞くのもやぶ蛇か。
素直をチュートリアルを受けてみよう。
「所でチュートリアルを受けたいだが、どうしたらいいだろうか??」
「おーっとー!ビィーはそのために来たのでした!それではーーーんーーーん、いきなり現れてドドドドーン!!なのです!」
ビィーが体全体を使い、両手を上に上げながら言う。
言い終わる前から辺りが輝きだした。
地面を見てみると、魔方陣のようなものがあり、中から何かが這い出るように出てきた。
出てきているモノから数歩下がり、様子を伺う。
それはグミのような容姿で、中に石のような物が真ん中に浮かんでいる。
サッカーボールぐらいの大きさになるが、草木が生い茂る草原の真っ只中でサファイアブルーの色が嫌でも際立っている。
生物なら身を守るために、持ち合わせているはずの色彩を完全に無視した色だ。
ファンタジーお馴染みのスライムだろうか。
「ビィーの使い魔のスラキチさんなのですよー!この愛らしさ、最高なのです!触るとひんやりしていて気持ちいいので、夏の暑い日には欠かせない存在なのですよー!」
やっぱり、スライムだったようだ。
名前をつけているから正式名称ではないだろうが、大きくは外れていないだろう。
しかしスライム慣れしていない俺には愛らしさの1つも伝わってこない。
それにしても、いきなりスライム召喚だ。
使い魔って事は危なくはないのだろうか。
まーでもビィーの元気よさには、ほっこりするからいいか。
「ほぉー!これがビィーの使い魔か!たいしたモノだな!」
「さすっがー!マスターは話が分かるのです!スラキチさんとはお友達でビィーのしたい事、色々聞いてくれるのです!本当にいい子なのです!」
「へぇ~そうなんだ」
「そうなのです!スラキチにもチュートリアルを手伝ってもらうのです!」
目を輝かせながら語るビィー。
感覚としては、幼稚園児が一生懸命に話す姿に似ている。
さすが、スライムをベット変わりにするだけの事がある。
「では気を取り直して。はいなのです!」
急に何かが手に収まった。
それなりの重たさを感じる。
恐る恐る見てみると剣道の竹刀ぐらいの長さの、鉄の剣があった。
実際にこんな物騒なモノを持った事もないので驚いた。
普通に生活していれば料理で使う包丁が一番の凶器だろう。
よく物語に出てくる人々は平気でいられるな。
本当にすごい。
「これはつまりビィーが召喚したスライムと戦えばいいって事かい??」
「はいなのです!スラキチさんには我慢してもらうようにお願いしてあるので思いっきりやっちゃってほしいのです!それと1度攻撃するとスラキチも反撃してくるので頑張ってくださいです!」
いきなり戦闘指南って事か。
兎に角、戦えと。
なかなかハードスタートかと思ったが、ゲームでもそんなものだし、思えばいつだってモンスターに襲われる可能性もあったわけだ。
見晴らしのいい場所だと思い油断していた。
先に見つけたとしても、逃げ切れない可能性もあっただろうし、まず間違いなく先に見つかっていただろう。
比較的、早めにチュートリアルをやっておいて本当によかったか。
ここは素直にやっておくのが吉だろう。
俺は中学生の時に友達に誘われて、3年間だけではあるが、剣道をやっていた。
かじるぐらいの経験だったが、身体は少しは覚えているだろうと思いたい。
もう15年も前になるから、あってないようなものだが、なんとか思い出すしかないか。
「わかった!では始めてくれ」
「はいなのです!いつでもどうぞなのです!」
そうだった。
まずは俺から攻撃を仕掛けるのか。
スラキチに攻撃を仕掛けるため、スラキチまでの距離を一気に駆ける。
持っていた剣を降り下ろそうかとも思ったが、相手は小さい。
当たらなければ恥ずかしいし、反撃もされないだろうが、なんか癪だ。
脚を大きくは振りかぶり、スラキチを蹴りあげる事にする。
実は高校ではまた友達に誘われてサッカーをやっていたのだ。
以外にいけるはずだ!
大きくは振りかぶり、スラキチ蹴りあげた。
手堅い感覚があった。
芯を振り抜けた感じだ。
スラキチは数メートル先まで飛んでいく。
自分でもなかなかのシュートだったか。
効いていればいいが。
「ス、ス、スラキチさーん!!!大丈夫なのですかー!!?今、回復してあげるのですよー!!」
あれ?なんかビィーの対応が予想と違う。
ビィーの声が、かなり真剣になっている。
呆然と立ち尽くしている内に、ビィーは一生懸命に羽を動かし、スラキチに向かって飛んでいった。
……なんか間違えたかもしれん。