梅雨花火
ふとした瞬間、飛びたいという
そう今、飛びたいという
聳える塔の息、煙る闇の破棄
そう今、飛びたいという
湿り気のスパイラル、しの谷のトライアル
なにもいらない
翼も武器も、鋼も自棄も、茜も想起も
なにも持ち合わせやしない
この彩りの不透明さに
伝わりたいと肉体がすける
この束の間に、飛びたいという
堕ちる気がしない、堕ちるはずがない
意識を暮れさせる
線香花火が湿気っている
降り出した霧雨は
パチパチと靡いて空中を舞う
肉体を啄ばんで意識を明ける
冷たくもなく、愛しくもなく
激しくもなく、哀しくもなく
肉体に纏わり付く
傷つけることなく、痛むことなく
美しくもなく、しみてゆくのみ
濡らしてゆく花火、花火