第八話 成長するモノ変わらないモノ
ここからまた更に大変だった。
後日、オレ達はいつものメンバーで集まり細かいチーム内の編成や担当などを決めたりする事になった。
あれから一度、今回の件を王に伝える為に王…宮長が住んでいる所〝街王宮”に申請しに行く。
メンバーはオレ、シンヤ、ヨシキあと証人として、現役時代「世魅姫」というチームで〝南区”を統一させた事がある定食屋の店長シズルさんにも同伴してもらった。因みにケンジとタクマは危な…アジトの留守を任せる為に置いてきた。
〝宮”という名前だが実際はビル軍のような物で、廃墟だらけのウチらの地区と比べて一際異彩を放ちまるで小さな都市の様だった。この街では貴重な車もある。この街の中心に位置するだけあって交通の便も整っていた。警備もすごい!気を習得している者じゃなくてもわかるほど兵士から圧力を感じる。
反乱やテロなど起こそうものなら即刻始末されるだろう。
オレ達は一際大きなビルに足を運んだ。
中に入り早速説明をすると案外すんなりと宮長のいる最上階の部屋に通された。
「アンタ達、気をしっかり保ちなよ。」
部屋に入る前にシズルさんがオレ達に語りかけてきた。ゆっくりとドアを開ける。
次の瞬間ものすごい殺気と気の圧力が襲いかかってきた!!
「「「……!!」」」
オレ達3人は喋るどころか身動き一つ取れなかった。
絶対に勝てない!目を合わせたら殺される。そんな絶望を味わうには十分の巨大な実力差を感じさせられた。あのシズルさんですら冷や汗をかいている。
瞬間!その圧力が消えた。
「やぁ、いらっしゃい。」
声の方に目をやると、よく社長が使うような机にスーツ姿の爺さんが座っていた。爺さんには右腕がなかった。
「いやぁすまんねビックリさせてしまって♪この部屋に入った者には少々威嚇する事にしているんだ。変な輩も多いからねぇ。それと実力を量る為にもね。私が宮長のジェイク・レンドルです。」
優しく棘のない口調でお爺さんがそう告げた。どういう事か全く理解できないままオレ達が呆然としているとシズルさんが緊張が解けたように溜息をしつつフランクに答えた。
「…いやぁー久々にちびりそうでした!!相変らずお元気そうですねジェイクさん!♪」
「ホッホッホ♪シズルちゃんも元気そうだねえ!また可愛くなったんじゃないかい♪」
「まぁたそんなこと言って!煽てても何も出ませんよ!まぁ食事くらいならタダで食べてって構いませんけどね♪」
「そうだなぁ♪久々に食べに行きたいな。最近忙しくてここを離れられんから…」
この人が宮長ジェイク・レンドル。
王とか呼ばれているからどんな偉そうな奴かと思ってたけど優しい人格者の爺さんだった。
シズルさんとは旧知の仲らしい。ここに来る途中に触り程度にシズルさんから話を聞いていたけどまさかここまでとは思わなかった。
この人はここ離陣街の最高管轄者であると同時に、なんと元リライト創始者の一人である。約20年前に起きた「大戦争」で前線を戦い抜いた伝説の5人の内の一人だ。この話をついさっきシズルさんから聞いたばかりのオレ達にとってにわかに信じられなかったが、さっきの威圧で全て納得した。
オレ達が未だ呆然としているとシズルさんが話を振ってくれた。
「ジェイク宮長!この子たちが噂の連中です。ほらお前たち!挨拶しな!」
でオレ達がガチガチに挨拶すると宮長は優しく対応してくれた。
「そうかしこまらんでもいいよ♪要件は聞いてる。ただし聞いてる通り君たちはまだ18歳なっていないから許可を下すのは1年後だ。それも了承してくれるね。1年間北区の治安を守り抜いたら君たちは晴れて自由だ♪」
「…わかりました。必ず守って見せます。」
オレ達はそう硬く宮長と約束をした。
要は1年間街公認の自警団みたいなモノだ。その代り安定した物資と資金を保証してもらうというものだった。この離陣街は知ってのとおり治安が悪い。平和になると隣りの区からも良からぬ者が狙って来ることもある。
オレ達はチームの規模を少しずつ拡大しつつ1年間北区を守り抜いた。
それから〝色々”あって今に至るーーー。
4年後ーー。
現在
シズル宅。
「--とまぁ色々あったけど、今はそれなりに楽しいよ。」
ユウトが珈琲に手を掛けながらそう呟いた。シズルはウンウンと頷きながら聞いている。
「そうかい♪でもアンタもよくやってるねえ!こいつ等言う事なんてほとんど聞きゃしないだろ♪」
シズルが笑いながら横を見る。ケンジとタクマは話に飽きたのかソファーで腹を出しながら寝ていた。
「まぁそれは昔っからだからね…♪でも最近はそれなりに動いてくれてるよ!あ、でも怒る事も増えたかな…。」
ユウトがそう言うとシズルは大声を出して笑った。
「あっはっはっ!相変らず変わってないねぇ!♪まぁそれがらしいっちゃらしいけどさぁ!あ、でもアンタは少し変わったね。なんだか丸くなった♪」
シズルにそう言われて少しギョッとした顔をする。
「え、オレ太ったかな!」
「違うよ!♪雰囲気って事だよ!前より棘がなくなったと思ってさ。」
ユウトの反応に少し吹きながらシズルが返した。
「…そりゃあ、あの時は一応大人数の頭だったし常に周りを意識してたからね。今は4人しか見なくていいし組織がでかいからある程度は流れに乗る必要もあるから一人でツッパっててもしょうがないじゃん。」
ユウトは少し開き直ったように言うと茶菓子をひとつ摘んで口に放り込んだ。
(やっぱうまいなコレ…)
因みにこの茶菓子はシズル特製のクッキー、甘すぎずそれでいて深い味わいと香ばしさがクセになる。
外の世界より材料に乏しく割高なこの街で唯一シズルだけが膨大な金額も取らず、皆平等に食べさせてくれていた。その上料理の腕も絶品だという事でわざわざ外から食べに来る人がいるほどの評判だった。それに人柄の良さも相まってシズルは街の中では皆が頼りにしていた。
「…そうだね♪アンタも少しは分かってきたみたいだね…。」
シズルはユウトを見ながら少し〝昔”の自分を思い出しながらそう言った。
ガチャッ!
「ただいまー!シズルさーん!買ってきたよ~♪」
シンヤが買い出しから帰ってきた。
「あーおかえり―!ありがとねぇシンヤ!」
「おーおかえり。結構遅かったな。」
「いやーごめんごめん!ちょっと長話しててさ、ついでに連れてきた♪」
「シズルさんお邪魔しまーす♪皆帰ってきたってホントですか?!」
懐かしい声に気付いたユウトはそっちに目をやった。
黒髪にパーマの掛かったショートボブ、ドクロのデザインの入った黒の半袖Tシャツ、フリルの付いた黒いロングスカート、これまた黒いシュートブーツ、間違いなくアヤだった。
「おぉアヤじゃん!ひさしぶり!」
「ユウト!♪ひっさしぶり~♪♪元気してたぁ?」
そう言いながらアヤはユウトに抱きついてきた。因みにこれくらいのスキンシップはよくる事で、オレ達4人が帰ってくるといつも誰彼構わず飛び込んでくる。(ケンジは除外)
実際シンヤに会った時も抱きついていた。
「おっ!ちょっとおっぱいおっきくなったんじゃないかアヤ♪」
「あ、わかる?BからCになったんだよあたし♪」
とか言いながら皆で談笑してるとその騒ぎに気付いてタクマが目を覚ました。
「お…アヤ、久しぶり。」
「おぉタックマー♪元気してたか―♪」
そう言うと今度はタクマの方に飛んで行った。
「ねーねーあたしおっぱいおっきくなったんだよー♪わかる~?」
「……いや、まぁ…」
アヤがそう言うとタクマは少し赤くなりながら返事をした。
そんなこんなでじゃれてるとアヤは何か思い出したのか急に目付きが険しくなる
「あ、そういえば…アイツどこ?」
「あ、それならほら…そこにいるぞ。」
タクマの視線の先には向かいのソファーで寝ているケンジがいた。それを見たアヤはタクマに近づいてゆっくり顔を近づける。
「おーい、おにいちゃーん?」
「…おーい!」
相変らず寝ていて起きる素振りがない。
「…起きろクソ兄貴っ!!」
「うおおっ?!なんだ!!?」
痺れを切らしたアヤが耳元で怒鳴るとケンジが慌てて飛び起きる。
「…お兄ちゃん…。」
「…なんだアヤか!びっくりさせんじゃねえよ!?」
「なんだじゃないわよ!…はぁ、もういいや。」
深いため息を吐きながらアヤは諦めたようにそう言った。よく分からず呆然とするばかりのケンジを見ながらユウト達は半分呆れたように笑っていた。
「さてアンタ達!挨拶もほどほどにして飯にでもしようじゃないか♪あと今日は遅いからウチに泊まっていきな!」
そう言うとシズルはキッチンに行って手際よく料理を始めた。ユウト達もお言葉に甘えて今日は泊まらせて貰う事にした。因みに遅いと言ってもまだ午後の7時でそうでもないのだが…この時は特に考えはしなかった。
それが今回の〝事件”に繋がっている事を彼らはまだ知らない…。