第七話 懐想~獣の巣~
もうチョイで過去編終わります!
我慢して読んでね!
死龍団アジト
集会室。
AM8:12
「…で、どういう事だこりゃあよ…!!」
「…だから今説明した通りだ。仕方ないだろ。」。
「だからってなんで〝こいつ等”をウチに連れてくる必要があるんだよ!!そうだろアヤあ?!」
「あたしは別にいいよ♪」
全身湿布だらけの男が朝っぱらからドスの効いた声を張り上げる。
ヨシキがそれに呆れたように答えた。
アヤはケンジの問いかけに満面の笑みで返した。
あれからオレ達は我滅羅の連中を引きつれて死龍団のアジトに帰る事にした。向こうのアジトは崩壊してしまったしこのままハイサヨナラっていうのも難だという話に落ち着いたのだ。
このチームは聞いてた以上に小さい子供が多く、実際本当に戦えたメンバーなんて見張りも入れて20人程度だったみたいだ。
ヨシキはすぐにアジトに連絡して事の旨を伝え、50人分の居住区の確保と治療の出来る状態にする様に指示を出した。幸い居住区も敷地もだいぶ余っているし食料の方も問題はなかった。
アヤも最初は困惑していたけど、事情を説明すると納得してくれた。それどころかむしろ皆で頑張ろうとか言い出した。いくら不本意だったとはいえ自分を攫って行った奴らに対してそこまで切り替えが早いのもアレだ。でもそういう懐の深さがアヤの魅力でもあった。
どっかの兄貴とは大違いだ。
「…すまない。」
タクマがアヤに謝る。
タクマは寡黙な男だ。190近い身長で筋骨隆々の割に落ち着いた感じの奴で、自分より皆を尊重するタイプの男だ。ただその分仲間思いも強くチームを作る際は弱い奴らを守る為に周りで一番強い自分がやらなきゃと動いたらしい。その優しさと責任感から皆からの信頼も厚かった。
図らずとも上に立たなければならない…、この街では獣眼と自然術を両方生まれ持ってしまった奴らの宿命みたいなものだった。
「いいえ♪もういいですよ終わったことですし!気にしないでください♪」
「てめえ!!今更謝って済むと思ってんのかよ!!やっぱ今殺してや…
「うるっさい!!あたしが良いって言ってんだから良いでしょうが!ウジウジしてんじゃないわよダサいわねっ!!ダサ兄貴!死ね!」
「……ぐ。」
「さて…、それじゃこれからどうするかだがーー。
あのケンジが気圧されて何も言い返せないでいた。
日常でここまで言えるのもこの地区においてはアヤくらいのものだろう。
アヤは普段は人当たりが良く誰にでも好かれるタイプの人間だ。人と争うのも好きでじゃない。だが一度火が付くと自分の意思を絶対曲げない子だ。対してケンジは口が悪く自己中心的に見えるが常に仲間の事を考えていて行動、言動力に優れている。カリスマ性がある。
皆その強さに憧れ信頼してアイツをリーダーとしていた。オレもそこは認めていて最初にやり合った時の思い違いに少し反省している。とにかく一見仲が悪そうに見えるがこれはこの兄妹特有のスキンシップで2人がお互いを大切に想っているのは確かだ。だが残念な事に、この兄妹は我が強いという所が見事に似てしまっているので常に意見が噛み合わないのだ。今回の奇襲の時も言い争いになってヨシキや他のメンバーが仲裁に入り渋々話を纏めた程だった。
そしてこの光景を全く気にせず話を進行しようとするヨシキも流石だ。
ヨシキはあまり感情を表に出さない奴で一見冷たそうに見えるが仲間の事を常に考えて動いている。そして頭もキレる。ケンジとアヤとは小さい時から一緒にいてお互いの事をよく知っているので他のメンバーや外の交流の橋渡し役として日夜活躍していた。
「そっちの副リーダーからも聞いてると思うが、タクマだっけか?お互い協力しようと思うんだがどうだろうか?アンタの返事を直接聞きたい。」
早速本題に入る。
もうほとんど決定みたいなもんだけど一応チームのリーダーとして示しを付けてもらうようにする為だ。
「…わかった。それで皆が救われるならそれでいい。」
タクマも即答で返した。
「よし、これで交渉成立だな。改めてよろしく頼む!俺は死龍団の副リーダーヨシキだ。」
そう言って握手を求めて、タクマもそれに返した。
それからヨシキはオレ達も紹介した。
「こいつらは炎虎。同じく同盟を組んで貰ってる奴らだ!こいつ等は…元リライトの実験体だったが今は信頼の置ける大切な仲間達だ!」
オレ達は同盟を組んだ相手には素性を隠さないようにしていた。
これはヨシキとも話して決めた事だ。
こういう信頼で繋がってるものに対して隠し事はご法度だからだ。
タクマは反応しなかった。
そういう事には関心のない奴だった。
「オレはユウト。まぁ、あんだけやり合った後で難だけどよろしくな!」
「俺はシンヤ!よろしくな♪アンタかなり強いねぇ!今度稽古つけてよ♪」
「…よろしく。」
オレ達も握手した。
「…で、こいつがリーダーの…、おい!ケンジ!」
「…。」
「ケンジ…!」
「……。」
「クソ兄貴!!早くしろ!!!」
ゴンッ!
「いってえなあっ!!…わかったよ!!」
「…ん、…ケンジ」
「…よろしく。」
オレはそれを少し呆れ顔で見ていた。
シンヤはそれ見て笑ってた。
とりあえずこれで晴れて同盟が成立した。
これがオレ達4人の最初の〝出会い”だった。
まさかこの出会いが腐れ縁になるとはこの時はまだ思ってなかったけど…。
3日後。
野球場跡。
ヨシキとシンヤは傘下のチームと同盟チームに連絡をして全チームを集め、統一に向けての最終発表を行う事となった。
王に申請するにはあと少し条件が足りないからだ。
申請できるのは〝チーム一組”のみという条件があった。
その為には一度すべてのチームを解散させて新たに〝一つのチーム”として纏まる必要があった。
合計7チーム。総勢1000超の人数がそこに集まった。
球場のど真ん中にオレ、ケンジ、タクマ、シンヤ、。あと4つのチームのリーダー、副リーダー達が代表として前に出てヨシキとシンヤが淡々と経緯を説明していく。
そこで本題のチームの統一について話題が移った。
「俺達は一度チームを解散して新たに一つのチームを結成しなければならない!そこで一つ問題がある!それぞれ自分のチームに思い入れや信念があると思う!それを簡単に解散させる事に不満を持つ者もいる筈だ!なので皆納得いく形で決めるにはどうするのが一番良いか意見を聞かせてくれ!!」
ヨシキはそう言ってこの場の全員に意見を求めた。
ここからが大変だった。
皆思い思いの意見を述べていって消去法をとっていった結果一つの結論に至った。
〝この中で一番強い奴が決める”
満場一致。
比較的平和な奴らの集まりだがそこは生粋の〝街っ子”達だ。
そういうプラス思考の戦いに血が騒がないわけがなかった。
オレとシンヤは新参だけど今更戦いが嫌だと言えるワケがなく参加する事になった。
それから5日後、誰でも参加自由!タイマン勝負の勝ち残りトーナメントが開催された。
巨大な球場跡を使う事で観客席は大賑わいだった。
チーム以外の普通の生活をしている人達も観戦しに来ていた。
その中にはオレ達のよく通ってた定食屋の店長シズルさんもいた。
なんにせよこれで参加人数総勢70人、5日に渡る壮絶な楽しい(?)戦いが始まった。
で、結果としてオレが優勝した。
ケンジはその事にぶつくさ文句を言ってた。でも決勝で3時間もしっかり戦って決まった事だから仕方ないだろう!それより他の連中が誰一人として不満を言わなかったのが不思議だった。こんな新参者のオレなんかを皆なんだかんだ認めてくれていたみたいだ。
正直めっちゃ嬉しくて少し泣いた。
「やったなユウト!やっぱ俺の見込んだ男は違うわ♪」
「おめでとうユウト!あのお兄ちゃんを倒すなんてさすがね!」
シンヤとアヤがオレの方に来て賞賛してくれた。それに合わせてヨシキが音を操り皆に聞こえるように問いかけてきた。
「さて、ユウト!これでチームのリーダーに決定した!チーム名はお前が決めてくれ!」
名前はもう決めていたのでその場で発表した。
「…Beast、Beastで行こうと思う!!」
これだけのメンツの中での発表は照れ臭い物があった。
少しの沈黙が痛い。
「ビースト…、〝獣”か。」
「いいかもな…♪」
「獣眼使いも多いしね!」
ちょっとしたどよめきの後地鳴りの様な大歓声が巻き起こった!!!
皆気に入ってくれたみたいだ。
それが初めての〝ビーストコール”だった。
オレはまたちょっと泣きそうになった。
こうして晴れて北区の統一巨大チーム「Beast」は結成されたのだ。
続く