第六話 懐想~炎轟き雷爆ぜて風に重く圧し掛かる~
作戦会議から3日後ー。
PM6:50
オレ達は我滅羅のアジトに向かっていた。
編成メンバーは他にシンヤ、ケンジ、ヨシキ、あとは他のメンバー6人で挑む事となった。
奴らの警備は意外と雑で少数精鋭で行った方が良かった。
過去にまだ人数が少ない時に攻め込んだ時もそうだったらしい。
それに今回は奇襲作戦なので大勢で行くと目立ってしまうからだ。
因みにアヤは参加していない。
本人は行きたがってたけどケンジがどうしてもダメだって事で、信頼できるメンバーと一緒にアジトに残してきた。
正直アヤも相当な戦力になる筈なんだけどシスコン兄貴がダメっていうんだから仕方がない!
「ここから先が奴らの縄張りだ。」
ヨシキが皆の足を止めた。
奴らのアジトの前に丁度大きな廃マンションがあって影を作ってくれていた。オレ達は気配を殺してそこに集まった。
死角になってるけどここから20メートル程森林公園を抜けると、デパートの搬入口がある。
ヨシキは耳に手を当てて周囲の〝音”を把握する。
半径50m以内の空気の振動の向き、強さを調節する事でエコー並みの精度で周りを観察する事が出来る。
これはヨシキの持って生まれた異常聴力と自然術が見事にマッチしているからこその素晴らしい能力だ。
オレらも人の事言えねえけどな♪。
「…搬入口に3人。…2人はマシンガンを持ってる。…入口奥に1人。コイツはナイフか!もちろん全員〝気”を使えるハズだ。…お前らの方が錬度は上だが抜かるなよ!」
「おめえら、死んだら殺すからな…?」
ヨシキとケンジに煽られると部下たちは無言で頷く。
ぶっちゃけオレは死龍団の他のメンバー達とはあまり絡みがなく顔もよく覚えていない。
てか向こうから避けられてるみたいだった。
そりゃそうだ。仲間殺すわリーダーと喧嘩してボロボロにするわであまりよく思われてなかったのだろう。オレも別に慕われるとかそんなのはめんどいから気にしなかった。
シンヤはよく喋ってたみたいだけど。
ヨシキは部下1人に指示を出して、突入させた。
ガサッ…!
「な、なんだお前らは!?」
パパッ…パパパッ
ガッ!ドゴッ!ビッ
「ぐああ!」
あっさり3人を倒すと合図を出してきた。
「よし行くぞ!」
(中々強いな…。精鋭と呼ばれるだけあるわ。オレと以前やり合った奴らはどうやらあまり強くない奴らみたいだな。まぁオレも本気出してなかったけど。)
そんなこんなでドンドン敵を迎撃していく。
やろうと思えばマジでそいつらだけで今まで潰してきたチームの連中も倒せるくらいだった。
「どうよあいつら?中々やるだろ♪」
俺の肩をポンと叩きながらシンヤが言った。
まるで昔っからの友達みたいな言い方だった。
噂の引きこもり野郎は3階の一際デカいテナント跡にいるらしい。
途中厄介そうなのが副リーダーを筆頭に3人と雑魚部下多数で立ちはだかって来たが、ヨシキと中々強い精鋭達が殿となってくれてオレ達はあっさりとボスの間に到着することが出来た。
3階
テナント跡。
PM7:30
だだっ広い部屋の端っこにあるデカいソファーにこれまたデカいそいつは腰かけていた。
「よぉ♪ひっさしぶりだな亀頭野郎!!」
ケンジが開口一番早速突っ込んでいく!その瞬間強力な風が吹き荒れた!
「うおっ!」
「ぐ…ッ」
オレとシンヤが戸惑っている中、ケンジは気にせず突っ込んでいく。
重力で重くして吹き飛ばないようにしているようだ。眼も発動している。
「おらあああっ!!」
あと少しで拳が届きそうなところで〝奴”がいきなり立ち上がった!
「…!?」
ゴガンッ!
その瞬間前よりさらに強い風が吹き荒れ、ケンジが壁に叩きつけられた!
「いってえー、」
(コイツ…だいぶ重くなってるハズのケンジを自然術だけで吹き飛ばしやがった…!
しかもとんでもない気の圧力を感じる…!)
「お前、もう関わるなって言っただろ。」
(感情のあまり入っていないしゃべり方だ。これが〝杉浦拓真”か…。)
タクマの自然術は風。眼は〝亀眼”でその特徴は圧倒的な防御力と気の総量の増大。膨大なスタミナを利用して暴風を起こし、相手の攻撃を無視して攻めてくる重戦車みたいな戦いをする奴だった。
「こいつ前より〝壁”が厚くなってやがんなぁ!しゃあねえもう少し重くいくぜ…♪」
ケンジは壁から出てくると嬉しそうにそう言った。
まだ余裕はあるみたいだ。
30分後ー。
「ハァッ…、ハッ、ハァ…ッ。」
オレ達はケンジに一切手を貸さなかった。
ただの見届け人だからだ。
最初からそう決めていた。
何度も弾かれては攻めての繰り返しで多少はダメージを与えているようだが亀には随分余裕が見える。
対してケンジはそろそろ限界が近かった。
亀野郎もオレ達に手を出さない。
攻撃してくる奴にしかてを出さない流儀なのかそもそもオレ達に関心がないのかよくわからない奴だ。
「ケンジぃ♪お前ばっかずりいよ!俺達も混ぜてよ♪」
シンヤがケンジに声をかけた。
「うっせえシンヤぁ!こいつは俺の獲物だ!お前らは手出ししねえって約束だろ…?…なんでかヨシキはお前らまで上に上げちまったけどな!」
作戦会議時、一応そういうことにしておいた。そうしないと一人で行くとか言い出したからだ。
作戦が台無しになってしまわないように口裏を合わせていた。
ケンジの妹思いもいよいよ本物だった。
そこでウチの口説き屋本舗の出番だ!
「いやぁ流石に生で見たら疼いてきちゃってさぁ♪わかるっしょこの気持ち?最後の〆は譲るからさ?ちょっとだけだからさ!」
そう言ってシンヤはどんどんケンジに詰め寄っていく。
「それにもしだぞ!…もし万が一お前がここで死んだりなんかしたらアヤはどうすんだよ?誰があの子を守ってやれるんだよ?あの子一人にしてもいいの?肉親はお前だけなんだぞ?お前いなくなったら絶対悲しむぞ?いいのかそれで?」
満身創痍の時にこういう事を問いかけられるように言われると誰でも心を乱されるものだ。
それでもシンヤのはなぜか棘のある感じがせず、むしろ委ねてしまおうと思えてしまう不思議な魅力があるのだ。それがあのケンジでも例外ではなかった。
「…ぐ、…わかったよ、そんかし最期は俺が決めるからな!!」
そう言いながらケンジは後ろの壁に倒れるように寄りかかった。
はい。口説き終了。
因みにこんな光景は日常茶飯事だ。
「サンキュー♪…よっしゃユウト!俺らも遊んでいいってさ♪亀さん!待っててくれてありがとう♪」
(ほんとやれやれだわ…)
「悪いな疲れてる所、オレ等の目標の為におとなしく倒れてくれ。」
奴は黙って構えをとる。
普通こうなったら命乞いでもするもんなんだが微塵もそんな素振りを見せない。
(妙に落ち着いてんなぁ、まあいいや!)
「よしシンヤ!合わせるぞ!」
「おっしゃ♪」
オレ達は早速全開で攻めていった。
シンヤの自然術は雷で獣眼は〝鷲眼”。気の効率化の上昇と脳の情報処理能力、許容量が増大する。それによって常に半径50mの敵の感知が可能になり、1人に的を絞れば相手の動きの〝一手先”を読んで攻撃出来るし、さらに気の効率化によって中、遠距離においても自然術の〝質”を落とさずに使用できるのだ。シンヤはそれと電撃を駆使して主に多勢の相手をする事が得意だ。あと連携を取るのもうまい!
オレは左右に飛びながらスピードで攪乱しつつ打撃を入れてシンヤが電撃でサポートする!
その都度奴は風の塊を纏った拳で殴ったり壁で弾こうとするがその前にオレの攻撃が当たりシンヤの電撃が当たる!
技の出はオレ達の方が早い!
それが幸いして常に先手は打てている。
だけどあまり効いてないみたいだ。
(流石に硬いな…当ててるこっちが削れちまう…!)
さてどうしたものか。燃費最悪のスポーツカーとトラックの馬力対決。オレ一人だったらどうやって戦ったんだろうとか一瞬よぎったがそんな事考えてる場合じゃない。
「シンヤ!ちょっと時間稼ぎ頼む!」
「…!あいよ♪」
シンヤも狙いに気付いたのかすぐに返事をした。
オレはタクマから一番距離がある所まで飛ぶと右手に気を最大値まで集中させた。
一日2発しか打てない大技だ!
ケンジに初めて使った時はまだ未完成版でクオリティが低かったけど、この半年で完成させたものだ。
ある程度の助走とタメが必要でリスクがあるが今オレが撃てる最大の攻撃だ。
しっかり名前も付けた!
(吠砲!)
シンヤの電撃で動きが止まった瞬間を狙ってオレは一気に駆け出した!
限界まで加速しその勢いを乗せて爆炎を纏った拳を叩きつける!
ドガァァァン!!
巨大な爆炎と衝撃が走った。
その衝撃でタクマは吹っ飛び壁に大穴を開けた。
「よっし♪」
シンヤがガッツポーズをする!
飛び散った炎と煙で辺りがよく見えない。
コレで立ち上がってきたら大したもんだ。
(やったか…?!)
心の中でそう思ってしまった。
…案の定ムクリと立ち上がってきた。
「…マジかよ…!」
「ありゃ~、頑丈だねぇ…。」
オレとシンヤは唖然としてしまった。
さて…いよいよ万事休すか。
そう思った時ケンジが猛ダッシュで突っ込んで行った!
そして飛びあがると渾身のパンチをお見舞いした。
「しねえええええええっ!!!」
その衝撃でタクマは床を砕き、轟音と共にケンジもろとも一階まで叩きつけられた!
「…あ」
「死んだかな…」
オレとシンヤは下を覗き込みながら呟いた。
一階
落下地点。
PM8:15
一階に降りると既に2人が落ちた所にヨシキ達が集まっていた。我滅羅のメンバーも一緒だった。
2人とも気絶しているが何とか生きてるみたいだ。
「これ…オレ達の勝ちでいいんだよな…?」
オレがそう呟くとヨシキは難しそうにこう言った。
「…ちょっと話があるんだがーー、
ヨシキの話によると、こいつ等も孤児を集めて結成したチームでオレ達と同じ目的で活動していた。
この北区に蔓延っていたチームのほとんどは己の欲求と快楽の為に暴力を振るっていた。それだけの為に結成したものばかりだった。
そういう奴らは容赦なく潰し、殺してきた。
ただ、ごく稀に死龍団と同じように自分の存在に悩み苦しみながら信念を持って動いていた奴らもいた。
その場合は傘下に入れたり同盟を組んだりして比較的平和に解決してきた。
…たまに裏切る奴もいたけど。
だから死龍団は基本メンバーを増やす様な事はしてこなかった。
オレ達も炎虎なんて名前で動いてるけど実際オレとシンヤだけだし。
昔っからここに住んでるならまだしも新参者のオレ達に信頼もクソもあったもんじゃないから。
因みにアヤを攫った奴も己の欲に負けて独断で行動した奴で、規律を乱す者として処分したらしい。
「やっぱりそうか、この亀さんが計画した事じゃなかったんだね。」
シンヤは納得した様にそう言った。
そもそも籠城する奴がわざわざ誘拐して人質を取るなんておかしいと引っかかっていたらしい。
ヨシキは幹部達とやり合っている時に事情を聞き、皆で話し合う事にしたとの事だった。
「いいんでないそれで♪俺は賛成だよ。ユウトもいいだろ♪」
「あぁ、オレも賛成だよ。」
ただ問題はリーダー2人だ。
今は話も出来ないので取りあえずケンジを担いでここを出ようか考えていた。
その時だった。
ミシ…ッ。
変な音がした。
ミシミシ…バキンッ!
「…まずい!」
ヨシキはいち早くこの異変に気付いた。
そこからが大変だった。
デパートが崩壊し始めた。
元々老朽化してる所でこんだけ暴れたから限界が来たんだろう。
オレ達は大急ぎでここから脱出をした。
動ける奴らは怪我人を担いで何とか全員巻き込まれずに済んだ。
デパート横大通り。
PM8:35
「あぁ…俺達の根城が…。」
我滅羅のメンバーが膝をガックリ落として呟いた。
「どうすっかコレ…」
オレ達は崩れていく元アジトを見ながらしばらく呆然としていた。
続く