第五話 懐想~あなたに捧げたい華は何よりも美しい~
…死龍団との和解から半年が経過した。
あれからオレ達はいくつかのチームと抗争し、だいぶ勢力を増やしていった。
死龍団とのメンツとはすぐに意気投合した。元々皆年が近かったのもあるし何より皆楽しくていい奴ばっかだった。ただ〝一人”とはよくぶつかりまくってたけど…。
「おいユウト!ちぃとツラ貸せやぁ。」
ケンジとはよく喧嘩ばかりしていた。というかほぼ向こうから仕掛けてきてた。
その度壮絶にヤリすぎて周りに被害が及んでいた。オレらのケンカに巻き込んで潰したチームもあったっけ…。
まぁなんだかんだ良い関係でなりたっていたんだ。
オレらの〝目標”まで残るはあと一つだった。
「もっかい話をまとめるぞ。まずこの〝北区”にはもう3つのチームしかない。一つ
はウチ、もう一つはお前ら〝炎虎”最後の一つがここのエリアを占めてる〝我滅羅”だ!こいつらを潰せば晴れて俺達の〝目標”は達成する。」
ヨシキはオレ達3人とアヤ、あと幹部数人を集めて計画を説明した。
「我滅羅…。構成員は50人程度、どいつもこいつも厄介なのばっかだ。コイツ等は廃墟になったデパートを拠点にしてる。構造は3階建て、ちょうど中央が吹き抜けになっている。コイツ等は基本自分達から攻める様な事はしない。ただし縄張りに入ってきた奴らに対しては容赦しない奴らだ。その警備は厳重で常に交代制で入口を警備している。これがそのデパートの館内図と周辺地図だ。俺が事前に調べたものをシンヤと考察し、さらに2人で調査してきたものだ!」
それには入口、階ごとの警備人数。交代時間、危険人物の大まかな特徴まで詳細に書かれていた。
この地区において普通はチームと抗争する時わざわざこんな資料なんて用意しない。基本その場の臨機応変で対処出来るからだ。
オレは今回の用意周到さが少し気になった。
「珍しいなこんな準備して。そんなヤバいのコイツ等?お前らが前からコイツ等と警戒し合ってるのは聞いてるけど詳しい話はしてくれてないよな?そろそろ教えてくれてもいいんでない?」
オレは不思議だった。死龍団というチームはリーダーに似て基本攻めて落とすチームだ。今回の我滅羅とかいうのはもう少し前に何とかなったんじゃないかと思ったからだ。
そう聞いた瞬間ケンジの顔が少し険しくなった。
(げ…まぁた変なスイッチ押しちゃったか…?)
でもおかしい、周りの死龍団の奴らも少し動揺した反応をしていた。特にアヤが少し俯いている。
でもすぐに何か言おうとした。
「実はねーー、
「アヤっ!!!」
瞬間ケンジがそれを止めるように叫んだ。
そしたらヨシキがケンジを諭すように肩に手を置く。
ケンジも観念したようにおとなしくなった。
「実は以前に何度か攻めに行った事があるんだ。ただその都度お互いボロボロになってな…、そこのリーダーとケンジもやり合ったんだけどいつも決着がつかなくてな…。で、ある日コイツ等の幹部の一人にアヤが攫われたんだ。まだ〝眼”が使えなかった頃で…抵抗できなくてな…、といってもすぐに助けにいって無事解決したんだけどな。ただその時ここのリーダーに取引というか、約束をさせられたんだ。〝返す代わりに俺達に二度と関わるな”ってな。ケンジはそれを承諾して、今まで手を出さなかったんだ。」
少し気まずい空気が流れる。
「…だが今回は違う、あれから1年経ったし俺達も強くなった!あとこいつ等だけだ…!そうすれば…俺達は〝上”に訴える事が出来るんだ…!」
そう、こいつ等も自分たちの境遇に悩み苦しみながら生きてきたんだ。
ヨシキ達は孤児だった。
離陣街は東西南北の4つのエリアに分かれている。
その中でもこの〝北区”は孤児が圧倒的に多かった。この街に捨てられた奴、親が殺されて天涯孤独になった奴、親が他の区に行ってそれっきり戻って来ない奴。
理由はいろいろだった。
この街にはある噂があった。
東西南北どれか一つでも統一して安定させた者は功績を認められ、ある程度の願いを聞いてもらえるらしい。〝街の外”に自由に行き来する事も許される(出街は出来るには出来るが成人していないと親の許可証が必要)。
こんなしみったれた世界から飛び出して新たな人生を進む事が出来る。
ケンジとヨシキは仲間と一緒にこの街を出る為にチームを結成したらしい。
オレ達も自由が欲しいって気持ちは痛いほどわかったら進んでケンジ達に協力してた。
ケンジは誰にでも常にエラそうでぶっきら棒な態度だったがアヤに対してだけはおとなしく素直だった。というより優しかった。多分この件が関係してるんだろう。
「なるほどな。そりゃこんだけ念入りなのもわかるわ。それとケンジがシスコン全開の理由もな♪」
いつもの仕返しにちょっと茶化してみた。
「てめぇやっぱ表でろやコラぁ!!!」
「やめなさいお兄ちゃん!今そんなことしてる場合じゃないでしょ!!」
「ぐ…わぁったよ…。」
またアヤに全力で止められる。
「すまない二人共…、正直これは俺たちの私怨に近い戦いだ。このチームはかなりの強敵だ、わざわざ2人が危険な目に合う必要もない。ここで降りてくれても構わない。」
ヨシキは少し申し訳なさそうに言った。けどオレ達の腹はもう決まっていたから問題なかった。
「なぁに言ってんの♪こんだけ一緒にやってきたんだから今更っしょ!良いじゃん皆でやり返そうぜ!もう皆兄弟みたいなもんなんだから♪なぁユウト?」
シンヤが笑いながら言った。
「…今更水臭いわバカ野郎♪」
「すまない、ありがとう。」
ヨシキは少し微笑んで言った。こいつはホント頭はキレるけど少し硬い所がある。どっかのコミュ力の塊の爪の垢を分けてやりたい。
「ありがとうユウト!シンヤ!」
アヤはほんとかわいい。どっかの怪力バカ兄貴に爪の垢詰め込んでやれ。
「…は!そんなんオレ一人で充分だっつの…!」
くたばれ…。
とりあえずオレ達は話し合いを再開した。
シンヤがふいに質問する。
「そーいえばこのチームのリーダーってどんな奴なんだ?」
そうだ、肝心の事を聞いていなかった。ナイスシンヤ!
「そうだな、簡単に説明するとー、
「ただの引きこもりの包茎亀頭ヤローだよ!」
またケンジが邪魔をするように口をはさむ。
「もう…お兄ちゃんのバカ…!」
少し恥らいながらアヤがケンジを思いきり殴った。ガゴン、と金属音に近い音が聞こえた。ヨシキが仕切り直して話す。
「…えーとな、この資料にも書いたんだが、190近い身長でかなりデカイ男だ。合ったら一目で分かるハズだ。その上、お前達と同じ〝眼”持ちで自然術を使う。驚くほどタフな奴だ!ケンジのフルスイングを喰らっても平気で立ち上がっていた。あと風を操って来る。杉浦拓真という奴だーー。
続く