第四話 懐想~嫌いなものには全力で挑む~
(お兄ちゃん…?)
オレは耳を疑った。
どうやらケンジの妹らしい。
(コイツ兄貴なのかよ…)
こんなイカれてる奴に妹がいるなんて信じられない気持ちと同時に妹を少し不憫に思った。
「…はぁ…、よりによっておまえらかよ…、おいヨシキ!なんでアヤと一緒にいんだよ!?それに隣の奴は誰だ!」
遠藤義貴
14才。「死龍団」の副リーダー。空気の振動を利用した〝音"使い。リーダーと違い話のわかる奴。ケンジにボロクソ言える数少ないメンバーの内の1人。
寺崎彩
13才。ケンジの妹。兄と比べてホントに出来た妹。ケンジにボロクソ言える数少ないメンバーの内の1人。ケンジがこの世で最も苦手とする人物。龍眼有り。
「ケンジ、今回はここまでだ。帰るぞ。」
ヨシキがそう言うと2人はケンジに近づいていく。そしてケンジに耳打ちをした。一瞬ケンジの顔が引きつった様に見えた。
ケンジからはさっきまでのイカれた雰囲気はもう感じとれなかった。
「おいてめぇ!この勝負一旦お預けだ!!近々ケリ付けてやっから首洗って待っとけ!」
そう言った瞬間アヤに腹を思い切り殴られて悶絶し、2人に引きづられる様に帰っていった。
「シンヤ、どう言うことだこれ?」
「実はさーー。
シンヤの話によると今回オレが殺したメンバーというのは実は「死龍団」の対抗勢力のスパイだったのだ。
元々一足先に「死龍団」とその他の勢力チームについていろいろ聞き込みをしていたシンヤはある情報を手に入れた。
(道理で最近よくひとりで出かけてると思ったら…)
シンヤは昔からたまにオレの知らない所で行動する事がある。
ただそれは決して裏切りや嘘などではなく必ず良い結果を伴う行動だったし、もう7年以上共に生活してきているので特に気していなかった。
シンヤが手に入れた情報によると「死龍団」は今〝我滅羅”と言うチームと均衡中で、尚且つ他の勢力もその隙を付こうと動いており非常にキツい立場なのだという。
シンヤはそこに目を付け、死龍団にコンタクトを取る事にした。
リーダーは戦闘狂の脳筋らしいのでNo.2と話をする事にした。
死龍団第2アジト。
「アンタがこのチームの副リーダーかい?オレ達と取引しないか?」
この街の新参者であるシンヤ達にとって今の油断ならない生活は正直キツいものがあった。そこでシンヤは今追いつめられている者同士協力しようという算段を持ちかける事にしたのだ。
〝オレ達はちょっかいだしてくるチームを潰すのを手伝う、そのかわりにある程度の生活環境を提供してもらう。ただしそっちの傘下に入るわけではなく、あくまで対等な立場でいさせてもらう”と言うことで交渉していった。
「なるほど…、お前たちの噂は耳にしている。たった2人で随分暴れてるらしいな。だがいつまでもその状態でこの街を生き抜くのは辛いだろう、それならば素直にウチに入ってくれてもいいんじゃないのか?」
流石に神経質になってるのもあるし、尚且つこっちは2人しかいない。
対等な立場という所には良い顔をしてもらえなかった。
そこでシンヤは“とっておき”のネタを提供する事にした。
大きなチームに対し、たった2人だけのシンヤ達が対抗出来る“ネタ”…。
「俺達はリライトから脱走してきた。」
その瞬間その場にいた全員の顔色が一変した!今まで怪訝な表情をして見ていただけの奴らが急にざわめきだした。
「リライトだと…!?あの“国家の犬か”…!」
「マジかよ…、なんだってそんな奴らが…!?」
離陣街の“王”にとって今の日本は敵でしかなかった。
その中でも国の護衛をしているリライトという組織は目の上のタンコブであった。
その国家の犬の情報を王にリーク出来ればこの街の中に於いて絶対的な安定を得る事が出来る。
瞬間!側近がシンヤに銃を突き付ける!
「…やめろ!」
ヨシキは側近に指示を出し銃をしまわせた。
シンヤはその間全く動じずヨシキを見つめていた。
「…証拠はあるんだろうな…?」
「勿論、コレを見てくれ。」
シンヤは一枚のチップを取り出す。
一見ただの音楽ソフト用のモノだった。
「これは普通に使えば音楽が流れるだけのチップだ。だけどそれはダミーで、ホントはリライトの機密事項がわんさか入ってる。PCで読み込んでデータ解析しないと閲覧出来ないようにしてある。この街の検問が楽で助かったよ。今開いて証拠見せようか♪」
ヨシキは少し間を空けて口を開いた。
「…いや、とりあえずお前が嘘を付いていないのはわかる。
俺は“音”使いだ。さっきからお前の心拍音を聴いていたが話してる最中も全く変化はなかった。ただしそれでもまだ認める訳にはいかない、立場上な。」
「…じゃあどうすればいい?」
シンヤはここに来て初めて笑みを見せた。
「…なるほど、お前も頭がキレる奴だな…。正直に話した方がいいか…、お前ら、アヤを呼んでこい!そしたら一回外に出てろ。大丈夫だ!何かあってもたかだか1人!問題にならない。」
そう言うと側近の1人が連絡をし始めた。
因みにこの街には独自のネットワークがあり、内部のみでなら通信機器が使える。
暫くして、部屋にひとりの人物が入ってきた。
見たところ普通の女の子だ。
それと同時に部下達は部屋から出て行った。
「コイツはアヤ、ウチのリーダーの妹だ。こんなナリだが腕っ節はウチで二番目に強い。何か怪しい行動をしたら俺とアヤでお前を殺す!」
アヤは少し怪訝な顔をしつつシンヤを見る。
その眼差しには強さが感じられ、嘘ではない事が伝わってきた。
シンヤも黙って視線を合わせている。
「…その上でお前たちに一つ頼みがある。ひとり始末して欲しい奴がいる。それを成功させればお前の条件を飲んでやる。」
現在死龍団にはメンバーの中に他チームのスパイがいるとの事だった。
しかしそれに気付いているのは副リーダーのヨシキとアヤだけであった。
しかし今の状態でこんな話をメンバーに話したらチーム内に亀裂が入ってしまう。
そうなったら簡単に他勢力に潰されてしまうだろう。
直に自分たちで始末しようにも今は数人一組で行動をしている為、誰かに必ず気づかれてしまう。
かといってそのスパイを放置しててもどんどん状況は悪化して行くだけだった。(因みにリーダーのケンジは感情を隠すことが出来ないので黙っているそうだ。)
シンヤの予想以上に死龍団は追い込まれていた。
「突然襲われた様に見せかけてそいつを殺せばいいんだな?わかった協力させてくれ。」
シンヤは二つ返事で即答した。
「…まるでこの状況を予め知ってたみたいだな。実際どこまで視えている?」
畏怖と嫌悪を混ぜたように質問する。
それにシンヤは笑って返す。
「別に、ただ嫌がらせしたいだけだよ♪」
当時のシンヤ達はリライトを憎んでいた。なので何か邪魔立て出来ないか常に考えていた。今回リライトの情報をこの街にリークすれば、いざ「抗争」となった時リライトにとって必ず不利なモノになるハズだ。シンヤはそう考えていた。
ヨシキとアヤはキョトンとしていた。
…こうして交渉は成立したのであった。
あとはスパイがいる組とオレ達を鉢合わせる様にしむけて事に及んだ所、オレはケンジに目を付けられた。
「ちょっと待てなんだか騙された気分なんだけど俺…。なんで俺も一緒に呼んでくれなかったんだよ!」
「だっておまえすぐ顔に出るだろこういうの。向こうの他のメンバーにバレるわけには行かなかったし交渉とか苦手じゃん!」
「……。」
ごもっともな意見で何も言えなかった。
確かにシンヤのそういうコミュニケーション能力は目を見張るモノがある。
「まぁそう気にすんな♪逆に俺に出来ない事はお前にやって貰ってるしな。」
そういうとシンヤは一枚の地図を取り出した。
「コレがアイツ等から譲って貰った住居とエリアだ。下見させて貰ったけど中々いい所だったぞ♪」
2人は早速そこに向かった。
続く