第二話 街という名の檻
ユウト達は一瞬身を竦めた。
“見つかった″
それがどういう形であれ受け入れる覚悟は出来ているつもりだった。
だがいざとなると反応してしまうものだ。
「…安心しろ、生きてるよちゃんと!コイツに感謝しろよ?」
アキトもそれを察してすぐに付け加え、捜索班長の方に視線をやった。
「報告します。今朝方第二地区を捜索していた所、離陣街入り口付近で相澤シンヤ隊員を発見しました!現状部下が追跡しています。走り回って聞き込みをしているみたいですよ!」
そう言うとユウト達の方を見て笑ってみせた。
「ありがとうございます!ご足労おかけしました!」
ユウトは深々と頭を下げた。タクマとケンジも釣られてぎこちなく頭を下げていた。
アキトが呆れたようにため息を吐く。
「見つかったついでにシンヤから検証班の方に連絡が入ったんだとよ!その事について班長直々お礼がいいたいんだと…」
髪をいじりながらアキトはワザと興味なさそうに呟く。
「ユウト班長、今回は本当に助かりました!シンヤくんに送ってもらった情報で、対象の大元を大分絞る事が出来ましたよ!前回前々回も有益な情報をくれて捜査の手助けしてもらったから、一度直々にあってお礼が言いたかったんです。…本人はうまくはぐらかして逃げちゃうから班員の人達にだけでも伝えたくて…。本当にいつもありがとうございます!」
ユウトは少し泣きそうになった。
過去に余計なことをしてボロクソに叩かれた人たちを今まで何人か見てきた。自分が班長になったらそういう奴を絶対に出さないようにしようと決めていた。良かれと思って行動した親友がボロボロに叩かれて傷付いていく所なんて見たくなかったから。
ましてそれが親友なら尚更だった。だけど止める事が出来ない自分が嫌だった。
それがどうだ?認められ、感謝されている!
少し救われた気持ちになったと同時にシンヤの事を一層誇らしく思った。
「…こちらこそありがとうございます…!」
そう返してきたシンヤにちょっと困惑しながら、検証班長もまたお礼を言った。
タクマとケンジはポカンとしてた。
それを見てたアキトはまた溜め息をつく。
そして一服するとタバコを消し、話し始めた。
「とりあえずお前ら三人3日以内にシンヤを連れて来い!これが捜索班からの位置データだ!タブレットに読み込んどけ!捜索員には手を出すなと伝えてある!お前らが連れて来い!!帰ってきたらすぐにココに来い!いいなお前ら!1週間分の仕事がたんまり残ってんだからな!!」
安堵したのも束の間だった。一瞬で現実に戻らされた。
そうだ、この1週間、ユウトはシンヤの捜索に付きっきりで依頼書に目を通せないでいた!でもそれはタクマとケンジが小さな依頼を少しずつ処理してくれる事で、何とか業務を絞って減らして行くと事前に話し合っていた。…間違いなく。
アキトに渡されたリストに目を通してゆく。
チェックが一つもされてない…。
二人で対処出来る依頼が何個かある…。
「…タクマ、…ケンジ?お前らこの一週間何してたの…?」
ゆっくりと振り返り2人を見た。
2人とも顔が引きつっていた。
「…いやぁ、オレちょっと忙しくてよ~…♪ほら…
「へぇ~?仕事より忙しい事か…?…タクマは?」
「………サボってた。」
「おまえ仮にも隊長の前でよくそんな堂々と言えたなぁ…?!」
ユウトがそう言うと同時に周りからチリチリと小さな火花(物理)が上がっている。
部屋の温度も上がってきた。
それを見たアキトが呆れたような疑うような何とも言えない返事をする。
「…お前ら…やるなら外でやれよ!?」
その日第一部隊の隊長室前でちょっとしたボヤ騒ぎが起きたが詳細は割愛する。
離陣街
北区入り口付近
ユウト達は巨大な門の前に立っていた。位置情報はこの付近で止まっている。この中にいるのは明白だった。
早速捜索班の隊員が近づいてきて説明を始めた。
「お疲れさまです!丁度一時間前に中に入ってしまいました。すみません、止めるつもりだったんですが隊長から班員にやらせるから手を出すなと直々に連絡が入りまして…。」
「いえいえ、こちらとしては充分です!ありがとうございました!」
ユウトは深々とお礼を言って捜索班と別れた。
「よし!いくぞ。」
「「……オウ。」」
少し焦げ臭い二人が返事をする。
ユウトも頭にコブを作っていた。
早速ユウトが門番に挨拶をし、門を開けてもらう。
ー離陣街。
真京第二地区を丸々一つ呑み込むように存在するこの街は、円状に地上数十mはあろう巨大な防壁に囲まれている。
今から15年前、ある反国レジスタンスのリーダーがビルを占拠した。
そこから徐々に改築、増築してゆき、約8年前、今の形になった。
この街はさながら独立国家のように外の世界とは違った規則が存在する。
1、入街する際は国、叉はリライトが発行した許可証を門番に提示する必要がある。
1、許可証なく入街する際は門番と一対一で戦闘をし、ある程度認められなければいけない。(この際どちらかが死亡した場合、国に裁かれる事はない)
1、武器は一個人が実際肌身に持って使用出来る物のみとする。(例として戦車や戦闘機、衛星砲の類を使用した場合無効となる)
1、入街したら外から持ち込んだ全ての物は一度回収される。(体内に埋め込まれている場合は危険度を考慮した上で中で判断される)害がない場合はそのまま返却され、通常通りの使用を許可される。(外との連絡が取れる通信機器は全て回収される)
1、出街する場合は検問所へ行き、街の中で手に入れた物を取り調べられ、害が無いと判断された物は外へ持ち出す事が出来る。この際入街した者は持ち物を返却される。尚無理矢理出街しようとした場合はその場で拘束されるか殺害される。(身分証明が出来ない者、街で生まれ育った者は許可証が必要。)
1、原則として内部で功績、実績を認められた者は許可証の提示、戦闘必要なく入街、出街を許可される物とする。(物品検問は受けなければならない。)
-と、入出街する際のルールがある。
コレさえ守れば、例え極悪人だろうと簡単に逃げ込めてしまう訳である。
恐ろしい世の中だ。
因みにユウト、シンヤ、ケンジ、タクマは許可証の提示、戦闘をしなくとも街を出入りする事が出来る。この理由は後々語るとする。
…ガコン…!
巨大な門の内部に入った。
そのまま目の前の建物に入って行く三人。
中の人々と軽く挨拶を交わし談笑しながら検問を済ませ、すぐさま建物の外に出る。
メイン通り
検問所を抜けるとすぐメイン通りに繋がっている
内部は外とは色々違う、まず建物は廃墟の様な所もあれば新築の建造物もある古き良きものと最先端を取り入れた街並みである。
両サイドには祭りの出店を大きくしたような、様々な店が並んで賑わっている。
ガラが悪い。
どいつもコイツもチンピラみたいだがそんな中でも笑いが絶えない明るい雰囲気が漂っていた。
ユウトは取り合えず、通信機器は全て預けてしまったので手持ちの写真を使って聞き込みを開始しようと思った。
が、もっと手っ取り早い方法を思いついた。
ユウトはおもむろに大きく息を吸い込んだ。
「シンヤああああ!迎えに来たぞおおおおお!!!」
大声で叫んだ。だがコレで十分だった。
商店街の店主やお客が何事かと振り向く。その瞬間全員驚いた反応をみせた。
「あ、…ああ、…Beast!!ビーストだぁああ!!」
「マジか!!全員帰って来ちまったよ!!!ははっ!」
次の瞬間地鳴りのような歓声と恐怖の叫びが鳴り響いた!!
帰ってきたぞ!やったぁ!という笑い声や、もう終わりだという絶望した声、全く…という安堵の溜め息のような声が周囲を包んでいった。
「あ~あ~、やっちまったよ。俺しーらね。」
「…いきなり目立ったなぁ」
「そう言うなよ…、チマチマ探すよりコレが一番手っ取り早いだろ!」
引きつった笑みを浮かべながらユウトは言った。
遡ること1時間前ー。
焦げ臭い隊長室
クソ問題児3人をぶん殴って掃除させた後やっと一息つきながら書類に目を通すアキト。(ちなみに捜索班と検証班の二人は混乱に乗じて仕事に戻っていった)
(…ったく、ちょっとホメようとするとすぐコレだ…。)
普段滅多にホメないアキトが言うのも難だが、それでもユウト率いる第三班の活躍は中々の功績を挙げていた。隊内チームランキングはまだBクラスだが、すでにAクラスの任務も数件こなしていた。
今回のシンヤの報告した<オリハルコンの密輸>の件も、本来Aクラス以上の仕事だった。むしろアキト率いるSクラスの班が関わる筈の案件だった。
「いいのか悪いのかわかんねえ連中だわ…、昔っから変わんねえなぁ。」
口から上の表情を変えずにアキトは呟いた。
続く
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