第一話 この世界で出来る事
ーある街の雑貨屋に独りの青年が訪れていた。
茶髪で短髪の黒いTシャツに黒いズボン、黒いブーツを履いた傭兵の様な格好をしたその青年は店主と話していた。
「この辺でこんな奴見たことありませんか?」
今村勇人 18才。
首国護衛団“リライト“日本支部第一部隊所属の戦闘員。明るく人懐っこい性格。責任感が強い。最近不満があってもあまり口に出さないようになった。だが顔に出る。というより態度に出る。一度キレるとめんどくさい。ギャンググループ「Beast」<ビースト>元リーダー。
ユウトは一枚の写真を見せながらそう言った。そこには一人の青年が写っていた。
年はユウトと同じくらいであろう、髪はオレンジ色、同じく黒いTシャツを着ていて上半身だけ写っている写真だった。
「名前はシンヤって言うんだけど、ここら辺うろついてませんでした?」
もう一度店主に聞いてみた。
「いんやぁ、見たことねぇなぁ。リライトの兵隊さんかい?見たところアンタもそうみたいだけど。」
「そうなんですよ。一週間前からいなくなっちゃって…、一応発信機で追跡してたんですけどこのあたりで途絶えちゃいまして。」
ユウトは呆れ顔でそう言った。
「そうかい…、悪いねぇ、他当たってくれや?」
そう言うと店主はイソイソと仕事に戻ってしまった。
「どうもありがとうございましたー。」
ユウトはため息まじりに返事をして雑貨屋を後にした。
(あのトリ頭どこほっつき歩いてんだよー…、あと2日で探さないと隊長に怒られんだけどなぁ、、)
…約24年前、世界と魔界の間で戦争があった。壮絶な戦いの後勝利した人類は最高功労者であった5名を代表としたある巨大な組織を立ち上げた。
首国護衛団“リライト″である。
この組織は現在ロシア、中国、アメリカ、EU連合、オーストラリア、そしてここ日本の6支部に分かれて存在し、“来たる日″に向けて体制を整えている。しかし、その事実は一般層の人々には隠蔽され、あくまで反勢力防止の為という事となっている。一般人に余計な混乱を招かないようにする為らしい。
又、リライトは世界最高で最後の砦として最先端の技術と古来の術を駆使した研究を行っている。
その一つに気、自然術、獣眼の研究。そして<オリハルコン>の加工、研究である…。
もう日も暮れようとしている。重い腰をあげ、ユウトは家路に付くことにした。
「バカシンヤのやつ!見つけたらとっちめてやっからな…!」
独り言を呟きながら歩き出した。
(しっかしどうしたもんかなぁ…、さっきの店で15件目、一つも情報なかったし。せっかく非番なのにわざわざこんな格好して探してやってんのによ…、いい歳して迷子とか止めてくれよ、、まぁ、わざとなのはわかってんだけど。)
…10日前、ウチの部隊に小さな依頼があった。
なんでも、依頼主の居住区の空倉庫で夜中に不信な人物が数人集まって何か騒いでいるとの事で原因を突き止めて欲しいというものだった。
こういった都民の不安を取り除き安心して過ごせる環境を作るのもウチら首都護衛隊の任務である。
我が第一部隊は、隊長副隊長含めて総勢20人。ここ“真京″を5つのエリアに分けて、4人一班で各エリアの担当をしている。(ちなみに隊長がいる班は本部周辺を担当する為意外と楽。副隊長の班は荒れてるとこに飛ばされる為ハード。)また、他にも通称サポート部隊と呼ばれる諜報隊、搬送隊、捜索隊、拷問隊など、様々な役割のスペシャリスト達と連携を取り合っている。
「ユウト!お前ここ調査して来い!」
城島暁人 25才。赤色の長髪で癖っ毛。
リライト日本支部第一部隊隊長。短気。ぶっきら坊。暴れん坊。なんだかんだ頼りになる。たまに極たまに優しい。強い。
隊長から命令が下った。相変わらずエラそうにしやが「了解です。どこのエリアですか?」
オレは内心不安だった。班長になってまだ1ヶ月目でつい最近ヘマして隊長に大目玉喰らったばっかだったからだ。
「第3地区だ、あそこならお前の班でも余裕だろ!ヘマしたら俺の特別講習だからな!俺の貴重な時間使わせんじゃねぇぞ?」
相変わらず一言二言余計に付いて来る。まぁいつもの口癖みたいなもんなんだけど。
「わかりました。無理せず行ってきます!ついでに名誉挽回してきます!」
わざと引っかかる様な言い方で返す。
「おう行ってこい!しっかり無理しろ!あと名誉挽回ってのはこっちが判断することでお前が発言する事じゃねえ!相変わらず一言二言余計だな!」
アナタに言われるとは思いま「すみません!行ってきます!!」
オレはそそくさと会議室を後にした。
「相変わらずすげえなユウトの奴、隊長にあんな態度とれんのアイツんトコの班くらいだぜ?」(ヒソヒソ)
「それだけ認められてるってことだよ、オレらも頑張ろう!」(ヒソヒソ)
「おら次!二班班長お前これやってこい!後無駄口叩いてる暇あるなら頭と体動かせや!」
「「はっ、はい!!」」
「ーと言うわけでウチら第三班は早速この任務に当たろうと思う。オッケー?」
「オッケー!結構簡単そうじゃん。さっさと終わらせよーぜ。」
「オウ。」
「はーだりぃ、まぁ適当にやんべや。」
相澤真也 18才。オレンジ色の髪をスカーフで覆っている。
ユウトの無二の親友。幼少の頃からの付き合い。頭が良く明るい性格。誰とでも仲良くなれる。たまに謎の行動を取るが結果的に意味のある事をしている。元「Beast」副リーダー。
杉浦拓真 18才。黒髪の天パが目元まで伸びている。
ユウトの親友。ユウト達が4年前脱走した時に“離陣街″で出会った。ちょっとした喧嘩(壮絶な殺し合い)をした後親友になる。その後リライトに入隊し(強引に入れられる)今に至る。無口で温厚だが、情に厚く頑固。キレると大変。身長192㎝体重105㎏体脂肪8%
寺崎堅司 18才。赤紫がかった2ブロックで左側に『爪』と剃り込みが刻まれてる。
ユウトの親友。タクマと同じく4年前離陣街で出会う(ちなみにユウトと一番喧嘩してる)。その後やはり同じくリライトに入隊し(ぶつくさうるさかったから特にボコられて強引に)今に至る。元々『死龍団』というギャンググループのヘッドだった。短気。喧嘩っ早い。サボリ魔、すぐ喧嘩。仲間思い。すぐ喧嘩。妹に弱い。すぐ喧嘩。
「それじゃ早速打ち合わせしますか!ーー。」
(ココまではよかった。ここまでは…、問題はこの後だ。)
ユウトは事の原因を反芻していた。元来真面目な性格である為もう一度あの時の事を確認したかったのである。
(第三地区に着いてすぐは作戦通りに皆動いていた。まずターゲットの探索を始めた。シンヤは電磁波で広範囲の不審な動きを、タクマも中距離の空気の動きを読んでいた。オレとケンジは襲撃を受けた時の乱戦に備えていた。それから問題の倉庫に到着してからは窓を割って侵入し、気配を消して四方向に分かれて周囲を常に警戒していた。)
そう、そこまでは問題はなかった。そして30分くらい立ってから遂にターゲットが現れた!
「…来た!四時の方向から約50m、数は5人!」
最新の電磁波対策済みの小型無線からシンヤの声が届く。
「よし!シンヤ、全員倉庫に入るまでカウントしてくれ!2人はいつでも動けるようにスタンバっといてくれ!」
「了解。」
「あーいよ。」
ちなみに護衛隊は眼や術を使用せずとも格闘技の世界王者程度の一般人(?)なら一人で10人は制圧出来る訓練を積んでいる。
5人程度なら何があっても問題などなかった。
「距離25、…20、…15、…10、…5、4、3、2、1、」
ガララッッ…!!
倉庫の扉が開いて5人が入ってきた。一人がライトを照らして周囲を確認するがユウト達も想定済みで隠れている。この位置なら向こうからはバレずに相手の気を感じとれる。特に隠してる素振りもない、ただの一般人の様だ。
服装を見るにそっちの筋の方々であろう。皆スーツ姿で2人がアタッシュケースを持っていた。
(何かの取引か…。)
一際強面の2人がケースを開いた。 片方は現金だ。もう片方は…黒い塊…?!!
それを見た瞬間ユウトは声を出した。
「GO!!」
かけ声と同時に4人は飛び出しヤクザを囲んだ!
「お取り込み中スミマセン、ケーサツです♪それ、“オリハルコン″ですよね?」
「リライトの犬か?!!」
ヤクザ達はすぐさま銃を取り出し発砲して来た。
パンッ!パンパンッ!パンッッ!
ユウト達はスッと弾をかわすと一、二撃入れてあっという間に拘束して手錠を掛けてしまった。
タクマは2人仕留めていた。
タダの拳銃なら気配を読んで簡単に避けれてしまう。そんな訓練を毎日積んできていた。
「タクマぁ!オレの獲物横取りしやがったなぁ!」
ケンジが吠える。
「…丁度近くにいたから。」
タクマ動じず
「クソッタレ!次ァ負けねえぞ!!」
ケンジは普段会議や訓練はよくサボるクセにこういう実践や試合などの勝負事では積極的である。まぁいつもの事である。
「さて!特殊稀少物質密売の容疑でタイホですよ!」
シンヤが対象に言い放った。ユウトは本部に連絡を入れ搬送部隊の要請をしていた。
「くっそがぁ!てめぇらタダで済むと思うなよ!!」
親分らしき男が吠えた。
「ハイハイ、そっくりそのままお返ししますね。これからキッツイ尋問と拷問が待ってるんですから♪」
子分達はもう観念したのかおとなしくしていた。
「ハッ!何したって無駄だぜ?!オレ達から情報が漏れる事はねぇからよ!?」
「ん?どういう事かな?」
シンヤは聞き返した。
「うっせぇボケ!捕まえたからっていい気になってんじゃねぇぞ!」
「…ちなみに今までウチの部隊の拷問で耐えられた人はいないからね?皆ルートと大元綺麗に自白してくれるんだよ。拷問のうま~い人がいるからねぇ♪たぶん世界に存在する全ての痛みと苦しみを生きながらにして味わえるはずだよ♪自白するまでずっとね♪」
シンヤはワザと嬉々として話した。こういう場合淡々と説明しても逆に冷静になられて喋らなくなる。“今“手に入れられる情報が欲しかった。そしてコイツらはそういう反応をしてくれると確信していた。
「…へっ!そんなもんでビビってたらこんな仕事してねぇよ!」
「そうだ!オレらが死んだところでどうとなる問題でもねぇからな。」
「…ふーん、よくしゃべるねぇアンタ等。まぁいいや!もう搬送部隊の人達が到着するみたいだよ。」
外から車のエンジン音が聞こえてきて倉庫の入り口付近で止まった。と同時に扉を開けて数名の隊員が入ってきた。
「お疲れさまです!ここから先は引き継ぎます!」
搬送班長が挨拶と同時に近づいてきた。
「お疲れさまです!内容は先ほど伝えた通りです。よろしくお願いします!」
搬送班がサッサとヤクザ達を連行していく。
「よ~し終わった~!オレらも帰ろう!」
「おう。」
「かったり~、早く車乗ろうぜ!」
「…。」
何か考え事をしているのかシンヤは腕を組んで一点を見つめていた。
「シンヤ、どした?」
それを見たユウトはシンヤに声をかける。
「…ユウト悪い!皆で先帰っててくれ!オレもうちょい調べてみるわ!」
「はい?」
でた!シンヤお得意の謎の行動だ。
普通こういう事後処理の仕事は検証部隊がやってくれる手筈となっている。
しかし、この男は引っかかる部分があると納得するまで自分で調査してしまうのである。
良く言えば仕事熱心な男である。
…悪く言えば余計なトコまで首を突っ込んでしまう。
「でたぁ♪シンヤお得意の謎の行動!そんなん他の奴にやらせとけよー。」
「…そこまでしなくてもいいと思うぞ。」
ケンジとタクマは諭したがホントは解っていた。
こうなったシンヤは絶対に譲らないということを。ユウトは言わずもがなであった。
「…わかったよ。どうせ聞かねぇんだろ?ただし深追いはすんなよ!3日以内に帰ってこい!」
ユウトは諦めたように言った。
本来部隊的には規則違反である。
適切な部隊が担当する事で効率の向上や、余計なリスクを減らす為の分担行動であるにも関わらず手を出してしまうのは好ましくない。
本業の部隊に邪見にされてしまう事もある。
だが今まで何度もこういった事はあった。
シンヤも自分が無理だと思ったらそこで終わらせていたし必ず有益な情報を持ってきているということで処分される事はなかったのである。
そこら辺の判断力と人望は流石である。
「…ありがとな!」
バツの悪そうな顔をしてシンヤは言ったーー。
(あれから一週間。シンヤは帰ってこない。それどころかなんの手掛かりも掴めていない。ほんとどこ行っちまったんだアイツ、、まさかどっかでおっ死んでんじゃねぇだろうな…。)
ちなみに任務中に任意で姿を消した場合、10日以内に生死の確認が取れなかったら連帯責任としてその班員の代表に厳重な処罰が下される。今回の場合はユウトが責任を取らなければいけない。班員を殉職させてしまった場合の方がまだ軽い処分である。
だがそんな事よりもユウトはシンヤが心配であった。
だからこの一週間毎日第三地区に出て探しに行ってるし毎日報告書も提出しているし、捜索班にも毎日頭を下げに行っていた。
自分の身を守りたかったら街に出たときに逃げてしまえばいいだけである。
ユウトは信じていた。シンヤが帰ってくるということを。
8日目ー。
「ユウト!ちょっと来い!」
朝っぱらからどギツイ声が響く。隊長がユウト達の寝室に現れた!
「ん~何すかこんな朝っぱらから…、てかなんで一般員の居住層にいるんすか?」
目を擦りながら見上げるとイカツイ顔した隊長と一緒にタクマとケンジがユウトと同じ目をして立っていた。
タクマは頬に拳の跡が付いていた。
ケンジは右目が若干腫れていた。
ユウト達は早速着替えて隊長室にむかった。
中に入ると捜索班長と検証班長がいた。
隊長が自分のイスに座りタバコに火を付けるとめんどくさそうに言い放った。
「…シンヤが見つかった。」
続く
ここでは細かな設定や、用語説明をしていきたいと思います。
ここに書いてる以外で知りたいことがありましたら続きに辺り触りない程度でお答えします。
用語説明
気
人類が元々持っている潜在オーラ。これを操ることで身体能力の強化、神経系の感覚の鋭敏化を図る。鍛錬を積む事で総量の増加が可能。
自然術
特殊な鍛錬を積んだ人間が気を用いる事で 光、炎、雷、水、氷、風、毒、地、重、滅、の10属性の自然の力を扱う能力の事である。基本1人1属性(稀に数属性使用出来るものもいる)
獣眼
ある獣、生物をモチーフとした能力を適合した人間の瞳に宿す事で、身体能力の増強、気の総量を増やす事が出来る。基本1人1種類(稀に2種類持ち合わせるものもいる)時間制限有り。