第十七話 成長
四年後~。
――さぁやってまいりましたぁあああ!!待たせたなあ下民共ぉッ!お待ちかねの決勝リーグ開始だあああ!!!!――
「ウォオオオオ!!!」
汚いアナウンスが会場に流れこれまた汚い観客が盛大にそれに応える。昨日とは打って変わって観客が増えている。その観客席から少し離れたテラスにバンダナをしてピアスを開けた男がいた。落下防止の手すりに手をかけ、隣の美女と談笑しながらコロシアムを眺めている。
「も~早く行きましょうよ~!せっかく2人きりなのに台無しじゃない!」
「アハハ、まぁ待ってよ♪もうチョイで面白くなるからさぁ♪」
元から興味がなかったのか美女は試合などどうでもいい反応をしていた。それを飄々とした態度でシンヤは受け流す。
その時またアナウンスが流れた。
――さーてそれじゃあ決勝に残ったメンツをもう一度紹介するぜぇ!まず最初はゴリアテ!!コイツは力自慢だが顔に似合わずクレバーな奴だ!また豪快な技とテクニックで会場を湧かせてくれぇ!!!――
会場の上には巨大なモニターがあり、選手の顔が写っている。
紹介が終わると同時に大きな歓声が響く。
――OKOK!次はコイツだ!魅影!!忍者の様な風貌と戦闘スタイルでこれまた会場を盛り上げた渋い奴だ!!次はどんな忍術を俺たちに魅せてくれるんだああ!!!――
「お、来た来た!」
そこでシンヤは反応を見せる。
――続いてはコイツだぁっ!!今大会のダークホース!!初出場で圧倒的な力を見せつけて決勝まで登りつめた男…!!――
美女も釣られて一緒になって注目する。
ーートラジだああああっ!!!実践空手を元にした武術と圧倒的なスピードでここまでの対戦相手を一撃で仕留めてきたその実力でこの大会を制する事は出来るのだろうか!!!ーー
一際大きな歓声が会場に響き渡った!その人物は黒い道着に目元を猫(?)の仮面で覆った男が写っていた。
「なにアイツ?あんなお面して客引きのつもり?サムいわー。」
「まぁまぁ見てなって!面白くなるからさぁ」
シンヤはニコニコしながらそう言った。
――さぁ最後の一人を紹介するぜ!!!この大会ダントツの一番人気!!大会始まって以来全勝無敗のこの男!!オッズももちろんトップだぜ!!!待たせたなお前等!!!!天乱武闘祭最強の男!!シドニー・フェルナンデスだああああああああああ!!!!!――
画面に表示されると同時に入場口からひとりの男が歩いてきた。
「来た…!」
シンヤは笑みを浮かべその男を見る。まるで獲物に狙いを付けた狩人の様だ。
シドニーはエルフの様な尖った耳をしており眼は鋭く髪は銀色の長髪でいかにもイケメンに例えられる容姿で、銀色の…まるでライオンのような尻尾が生えている。
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!
今大会最大の声援が会場を包み込んだ。女達の黄色い声援や地鳴りのような男達の声援が響き渡る。
「いやー、すごい声援だな!!さすが人気実力ともにナンバー1!」
「そりゃそうよ♪3年前にアイツが現れてからというもの全戦全勝で目の肥えた観客達を丸ごともってっちゃったんだから。」
「へぇ~、詳しいねお姉さん!さっきまでまるで興味なさそうにしてたのにさ♪」
シンヤの問いに美女はギクリとして冷や汗をかいた。
「へ!?…やぁねぇ、あたしだってこの街の子よ?そりゃ詳しいに決まってるじゃない?」
隠してる様だが明らかに動揺してるのが見て取れた。シンヤはそれを見逃さずにさらにもう一つ質問をする。
「ふ~ん、じゃあ質問していい?なんでさっきからしきりにタブフォン気にしてんの?」
「えぇ?あのね…あたしだって暇じゃないの!時間を見たのよ!」
「ふーん、時計ならあそこにあるのに?デッカイのが。」
シンヤが指さす先にはさっきの選手紹介で使っていたモニターがある。今試合のハイライトを放送しているが、画面脇にはデカデカと今の時間がデジタル表示されていた。タブレットを見るよりそっちを見た方が確実に都合がいい。美女はそれを指摘されると曇った表情をした。
「無許可で賭け試合してるね!しかもアンタがオーナーで!」
美女は一層ギクリとしたがすぐに観念した表情とため息をついた。
「…誤魔化しても無駄そうね…。そうよ。全く…勘の鋭い奴ね。ココの関係者だってあたしの事気付いてなかったのよ?」
シンヤはニッコリと笑ってこう答えた。
「最初からだよ♪俺等そういうの摘発する仕事してるからさ♪すぐ怪しいって思った!」
それを聞いて女はまた表情が険しくなった。
「は…??ちょっとそれどういう事!?アンタ只の客じゃないの!??」
シンヤは空かさずリライトの手帳を見せる。
「首国護衛団リライト第一戦闘部隊所属相澤シンヤです!非合法ギャンブル経営罪の罪であなたを拘束します♪」
「…はあああ!!??国家の犬ですって!!?…!?アンタ最初から知ってて声かけてきたわね!!?」
「ご名答で~す!アンタが若い男の客を寝取ってうまく手駒にするって話も事前に折り込み済みでね♪」
「…こんのガキャああああああ!!!図ったわね!!!アンタ達!!殺っちゃいなさい!!」
女が指示を出すと周囲の客の何人かが襲い掛かってきた!女の仕込んだ兵隊だろう。
シンヤはそれを確認するとすぐさまバックステップし、仕込んでおいたインカムのスイッチを押して叫んだ。
「もういいぞ!!ターゲットがゲロった!♪♪」
その声に一人の男が反応する。
「了解!!今向かうわ!!」
そう言うとすかさずシンヤがいる方向に飛び出して兵隊の前に立ちはだかった!!
それを見た女はまた驚愕する。
「あーー!!!!!アンタ出場者の…!!」
目の前には猫っぽいアイマスクを付け黒い道着を着た男が立っている。
そう、謎のダークホースとは何を隠そうこの男だった。
「謎の格闘家、トラジとは仮の姿!透かしてその実体は…リライト第一戦闘部隊副隊長!今村ユウト此処に見参!!!」
と、キメポーズ付きでユウトは自己紹介をした。
少しの間が空く…。
シンヤは笑顔でその様子を眺めていた。
「……さむ。」
一同声を揃えて呟いた。
「あれ??なんだよ!!うまく決まったと思ったのに!!」
ユウトだけが取り残されたように声を張り上げる。
シンヤは笑顔でその様子を見守っている。
「…ふざけた事してくれてんじゃないわよ!!!!」
女が口を開くと皆我に返ったように反応するしユウト達に襲い掛かってきた!
「少しは反応しろよなてめぇら!!」
そう言いながらユウトはバッコバッコと襲い掛かってくる輩を余裕でノシていった。
強い…!
「ちょ…何よ!!全然足止めにならないじゃない!!!」
女はあぜんとその悲惨な状況を眺めていた。猫の仮面付けた変人が圧倒的な力を見せて腕によりをかけた兵隊たちを倒していく…その様子に逃げるのを忘れ、只々呆然とそれを見ている事しか出来なかった。
「…さてと、そんじゃ大人しく捕まってくれませんか♪」
いつの間にかシンヤは女に近づいていた。
後ろには何人か電流を帯びながら痙攣しているのが見える。
「……参ったわ。降参します。」
そう言うと女はヘタリとその場にしゃがみ込んでしまった。
――ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!――
突然物凄い大喝采が会場中に響き渡った。
――なあんてっこったあああああああ!!!!いきなり何事かと思ったがとんでもないモンが見れたぞお前らああああアアア!!!国家の犬!リライトの大取物をまじかで見れるとはお前等最高にツイてるなあああ!!オレも長年実況者やってるがこんな滾ったのは久しぶりだアアアア!!!――
大会のMCがそれに続いてわざわざマイク入れて叫んでいる。
会場は大盛り上がりで拍手や口笛、ヤジなどが飛び交いカオス状態となってしまった。
「ありゃー、メッチャ目立ったなぁ…。一応潜入捜査だからお忍びなんだけどな…。」
「こりゃー素直に帰してくれなさそうだね♪」
未だ冷めやらない様子の会場を尻目に、すっかり蚊帳の外となった決勝出場者の三人はその様子を黙ってみる事しかできなかった。
「あれ?これはもう帰った方が良さそうかな…?」
「…仕方ない、まぁ我々は金が貰えればそれでいい。主催者にはこの騒動の分キッチリとせしめさせて貰おうじゃないか!」
「そうだな♪」
魅影の言葉に賛同しゴリアテが返事をする。
「…フ、…まぁアンタとあの小僧とも一戦交えたかったというのも本音だがな♪次会った時は楽しみにしてるぞ!シドニー。」
そう言って2人はシドニーを置いて先に行ってしまった。
「……。」
シドニーは黙ったまま、ユウト達の方を見続けている。
一方ユウト達は観客達にせがまれサインやら写真やらで右往左往していた。
「…フン」
その様子をしばらく見つめると澄ました表情のままその場を後にする。
ここは真京第六区…
宴と戦いの街。通称〝スレイヤーズスラム”
そして日本唯一の人魔交わる共生区域。