第十六話 いつか堂々と歩けるように
「ぐあっ!!」
「うお!!」
「何避けてんだよ!!今のはいなしながら反撃する所だろ!!」
オレ達は今隊長に稽古をつけて貰っている。カラシンを飛び出した後ダメ元で訓練をお願いしたらすんなりと引き受けてくれたのは意外だったけど…やっぱりヤメときゃよかったかな…マジ容赦無い!(汗)
「ムリっすよ今のは!明らかに殺す気だったじゃないですか!!避けるに決まってますよ!」
「オイオイ素手の攻撃で何ビビってんだ!!実践はこんな甘かねえだろよ!」
いや確かにそうだけどそんな高火力で襲ってくるヤツなんてそうはいませんよ!って言いたいところを我慢してオレとシンヤは次の手に備えた。
「あーもう!!次行きます!シンヤ!」
「おうよ♪」
オレとシンヤはアイコンタクトをしながら戦術を組み立てて攻撃する!因みに眼も使って全力で殺す気で挑んでます!…でも…。
「…遅い。」
死角を突いてお互い急所狙って同時に攻撃してもスルリと躱されて逆に一撃を喰らってしまう。反応が速すぎる!!
「ぐはッ!!」
「ぐえッ!!」
潰れたカエルみたいな声出してオレ達はまたヘッドスライディングをかます。
「…ったく、お前等よ~、俺より良い眼持ってるんだからもうチョイ頑張れよ!」
因みに隊長は〝猫眼”って言って猫の様な身体能力と素早さを持っている。オレの虎眼の方が能力は上な筈だ。だけどなぜか全く歯が立たない。
「お前等は眼の使い方が全くなってないんだよ。動きが直線的過ぎる!能力に振り回されんな!こっちが支配しろ!」
「…ハイ!もう一度お願いします!」
それからオレ達は朝方までミッチリとイジメ…稽古してもらった。
「よおユウト!シンヤ!朝まで何してたんだ。ん?どしたその傷?」
「別に…。」
「…ちょっとね…。」
部屋に帰るとケンジとタクマは2人でゲームをしてた。今日からはこいつらも呼ぶ事にしよう。
「あーそうだ。来月昇級審査だからお前等も準備しとけよ?てか今回は強制だからヨロシクな!」
「おおまじか!腕が鳴るぜ!!」
「楽しみだな。」
隊長から半ば強制的に登録させられたんだけどな。まぁ準備も強制になるけど…w
とにかくオレ達は審査に向けて各々トレーニングしたり夜はミッチリ隊長にしごかれて審査当日を迎える事となった。
因みに審査日が決まった班はその日まで休暇扱いになるのでその間自由に訓練に当てる事が出来る。
審査当日。
鍛錬ルーム ~闘の間~
「よーし揃ったな!お前等しっかり準備出来てるか?」
「…ハイ。なんとか…。」
準備も何も一昨日までキツキツで貴方に鍛えて貰ったんで大丈夫です。むしろ疲れが取れてません。とかなんとか不満を抱きながらもオレ達は試験に臨んだ。試験は簡単。各上の隊員と一対一で素手で戦うといういたってシンプルなモノだ。因みに自然術は歯止めが利かなくなるので使用禁止。
…で、結果として全員合格した。
「これからお前たちはA級に昇格だ。良かったな!これからはデカイ任務にもどんどん参加してもらうからな!!」
なんだか嬉しそうに隊長は言ってるけどそれだけ危険な目に合うって事だけどね。まぁ給料も上がるからいいけど…。生活楽になるし。
取りあえず居住区に戻ると隊員の皆で宴会の準備をしてくれていた。寮の大広間を使って様々な料理が並んでいる。酒類もおいてある。やった♪
「昇級おめでとう皆!さぁさぁ、主役はこっちだよ♪」
副隊長のミズキさんが声を掛けてきた。この人はホント面倒見がいいなあ。実力もあるしかっけえわ。
ちょっと女っぽいけど。
とりあえず用意された席に座って皆と朝方までワイワイ楽しんだ。
同刻
第一部隊隊長室。
アキトは今日の昇級審査のデータを纏め上げていた。報告書を作成してファイルに取り込み人事部に送信する。
「…ふぅ…、しっかし、あいつらも遂にA級かぁ…。」
タバコを吹かしながらため息と煙を一緒に吐き捨てる。窓を開けて換気をする。見晴らしのいい位置なので星が良く見える。ふと下に目をやると居住区の大広間に明かりが見えた。ユウト達が騒いでいた。
「…け!ミズキのヤツまーた甘やかしやがって…。」
そう言いつつ微笑みながらその様子を眺めていた。この血生臭い世界で唯一の娯楽と言ったら酒とタバコと飯、あとは仲間とワイワイ騒ぐくらいしかない。規律も厳しいし外に出たら命を狙われ緊張感を保てない者は生きていけない世界。そんな世界にアキトも不満を抱いている。自身も戦争孤児として生活していて悪い大人達に実験台にされ、会長たちに拾われるまで散々な幼少期を歩んできた身としてもユウト達も同じ目にあった同胞として特別な目で見てしまっているかもしれない。それを否定する気もなくしかし隊長の責務としてしっかり教育しなければいけないので常日頃他の隊員と同様かそれ以上に厳しく当たってきた。ユウト達もそれにくじけず応えてきたからこそ今回の昇級へと繋がったのだ。
「まぁ、今のうちにしっかり楽しんどけよ…」
アキトは独り言をぼやくと窓を閉め、自室へと戻っていった。
ユウトとケンジはトイレに向かっていた。
「やっべえ、吐きそ…」
「お前!!まだ我慢しろよ!!もうすぐ便所だから!!」
ケンジが調子に乗ってウィスキーを一本がぶ飲みしてしまい案の定グロッキーになった為仕方なくオレがお供した。ケンジは酒弱いくせに一番飲もうする。今に始まった事じゃないけどね。
「…ほら、着いたぞ!行ってらっしゃい♪」
「おう…ちゃんとまってろよおおrrrrrr!」
喋るか吐くかどっちかにしろよなぁ…。といいつつオレもションベン溜まってるかるからスッキリしとこ。
「ごめんねえ、ちょっと失礼するよ?」
「あぁ、どうぞ♪」
オレらのすぐ後に清掃員の人が入ってきた。多分忘れ物かなにかしたのかな。掃除中の札出てなかったし。
「すいませんねえせっかく綺麗にしてもらったのに…、今そこでツレが汚しちゃってます…w」
ケンジは挨拶でもするようかの様にオロロロとえづいた。
「あぁいいよいいよ♪大分飲んでるみたいだね♪」
白いマスクと三角巾をかぶり、白髪の少し伸びた襟足をゴムで巻いているちょっと洒落た髪形をしてるお爺さんだった。でもガタイはしっかりしていて身長もオレよりある。さすが国家警備組織!清掃員も只者じゃないな!
「いやぁ、実は今日昇級審査がありまして♪合格祝いにちょっと…♪」
お爺さんは笑って答えた。
「おおそうか♪おめでとう!これからも頑張ってね!」
「はい!ありがとございます!」
そう言うと清掃員のお爺さんは用具入れを片してトイレをでていった。
「ケンジぃまだかぁ?先行っちゃうぞ?」
「…ああ今出るー。誰と話してたんよ?」
「掃除のお爺ちゃん。」
「あそう。」
しかしたくましかったなぁ、タッパもあったしありゃ若い頃絶対モテたな!
まだフラフラのケンジを連れてオレ達は皆の所に戻っていった。
結局オレ達は朝までワイワイ騒いで皆寝不足のまま仕事に行った。面倒なヤマはなかったらしいから良かったけど付き合ってくれた皆に感謝しなきゃな!
今日はオレ達は休み扱いだけど引き継ぎ業務とかの為に書類整理やらなんやらをしなきゃいけないのでしっかりやらんとな!明日はA級の仕事をこなしていく為にミズキさんが一週間程一緒についてくれる事になっている。色々と学ぶ事多いから準備もしないと!
「さ!とりあえずオレ達もやる事やっちゃお!」
「おう♪」
「へ~い」
「了解。」
いつもと変わらない纏まりのない返事をしてオレ達は次のステップを歩み始めた。