第十五話 命の絆
アキトは隊長会議に出席する為会議室に向かっていた。
「はー、かったる…。おいミズキお前代わりに全部聞いてこいよ。」
「もーなに言ってんすか隊長!前回も何かと理由付けて俺に全部押し付けたじゃないですか!!」
第一部隊副隊長の川下瑞樹がすぐさまアキトを窘める。
「半年に一回なんだから我慢して下さい。」
「へーへー、わかりましたよー。そんで資料の方は纏めといてくれたか?」
「ハイ!今回のユウト君達の件もやっときました。でもまさか本当に新田が絡んでるとは思いませんでしたね…。隊長が行かなかったらあの子達今頃…。」
「あぁ、ま、結局逃げられちまったけどなぁ…。あのクソジジイ。」
アキトは事前に危険性を察知していた為最初から現場へ向かう予定だった。それでもユウト達がギリギリまで粘ってくれていなければ新田と白夜の関係性を決定づける事は出来なかっただろう。隊長は顔が割れているのでここまで尻尾を出さなかったからだ。因みにユウト達には頼りにされても意味がないからと黙っていた。
「…てか〝あいつ等”と顔合わせなきゃいけねえのが一番億劫だわ…。特にリョウジさんには何言われっかわかんねえし…。」
「まぁまぁ、同じ釜の飯を食った仲なんですからいいじゃないですか!…まぁ…リョウジさんに会いたくない気持ちは俺もわかります…。」
少し困った様にミズキは苦笑いを浮かべる。
ブツクサ言いながら歩いているうちにアキト達は会議室に到着した。部屋の前には既に知ってる顔がいた。
「おっす♪久しぶりミズキくん♪あらアキト!!随分久しぶりじゃない♪♪元気してた?」
「ようデカぱい。」
「アンタねぇ!!久々に会った幼馴染に最初に言うセリフがそれ?!」
第三部隊の隊長が挨拶に来た。篠原薫、アキトの幼馴染だ。
「お久しぶりですカオリさん。相変らずお綺麗ですね!」
「ありがと♪さすが隊長候補♪どっかの根腐れ無愛想とは大違いね♪」
「誰が根腐れ無愛想だこのデカぱいR二乗!」
「なーによホントの事いっただけでしょ?」
アキトとカオリがけなし合っていると一人の男が割って入って来た。
「早速痴話喧嘩ですか♪相変わらず仲良いねぇ!」
「なんだぁユウシか。」
第四部隊隊長の前田勇士は2人の小競り合いを見てニヤついていた。
カオリは険しい表情で見返す。
「おっすアキト!全然顔見せないから心配したぞ!」
「は!てめぇに心配される筋合いなんかねえよ!」
そう言いながら2人はコツンと拳を突け合した。
「てか聞いてよ2人とも!この前新しくウチの隊に入った事務の女の子がさぁ…♪」
「アンタまた隊の子に手ぇ出したの?!いい加減にしなさいよ全く!!」
ユウシが言い切る前にカオリは内容を察しキツく咎めた。
「なんだよカオリまだ俺なんも言ってねえじゃん!!」
「お前まだそんな事してんのかよ!!変わんねえなあ♪」
アキトは逆に笑ってそう言った。その様子を物珍しそうにミズキは見ていた。
(アキト隊長が笑ってる所なんて久しぶりに見たな…。)
貴重な瞬間を垣間見れてミズキも思わず表情がほころんだ。
因みにミズキも特例で会議に出席する事になっている。本部であるここ真京の警備を任されている第一部隊の副隊長であり実力も認められているからだ。
「皆さんお楽しみ中すみませんがそろそろ時間みたいですよ?」
ミズキが諭すように壁の時計を指さしてそう言うと同時に会議室のドアが開かれた。
「そろそろ会議が始まりますので皆様中でご着席下さい。」
部屋の中から記録係が出てきて皆を中へ誘導する。その瞬間今までの笑顔が嘘のように皆表情を引き締める。それを見てミズキも一気に緊張が高まる。
「さって、行きますか。」
「はい…!」
アキトを先頭にミズキ、カオリ、ユウシの順番で「失礼します!」と一声添えて部屋に入り各々用意された席に座っていく。
大きな長机に10の席が用意されており、既に何人か着席していた。
(第五、第六、第八部隊の隊長はもういらっしゃったのか…。)
ミズキは表で騒いでいた事を少し後悔するが他の三人は何食わぬ顔をしていた。
会議は隊長が何人か不在でも進められる。基本は本部である日本で行われるのだが、海外の支部に遠征に行っている隊の隊長は都合上こちらにこれない場合がある為である。今回第二、第七隊は海外組なのであとから来る総隊長を含めたこのメンバーで行われるようだ。
「やぁ久しぶりだね皆♪アキトも今回はちゃんと来たようだね♪」
優しい口調で白髪交じりの初老の男がにこやかに話しかけてきた。皆それぞれ挨拶を交わす。
「お久しぶりです進藤隊長。」
「ども。進藤さん。」
この第五部隊隊長の進藤清吾は八人の隊長の中でも一番の古株である。リライトの隊員の中では最も慕われている数少ない人物の一人だ。
「第二、第七隊はやはり前線が厳しくてこちらに来れないそうだよ。」
「…仕方ないですね。あっちは今大変ですから…。アメリカとイギリスでしたっけ?」
「…EU連合な。ヨーロッパ諸国は今纏まって連合作ってんだ。」
カオリの質問に第八隊隊長の芹沢翔陽が返答をする。
2mを超える身長に黒髪を逆立て襟足を肩口まで伸ばしているその男は一見ガラの悪いチンピラに見えるがれっきとしたリライトの隊長である。
「あぁそうでしたね!失礼しましたー♪」
カオリはショウヨウが少し苦手だ。
「…け、つーか遅くねぇか総長?もう開始時間過ぎてんじゃねーかよ。」
「…全くコレだから野蛮人は困る。致し方ない理由が有るに決まってるだろう。」
さっきまで黙って座っていた男が口を挟んできた。第六部隊隊長、山田一誠である。
黒縁メガネをかけいかにも真面目そうな男だ。
「なんだあ山田?文句でもあんのかコラ。」
「君が横柄な態度を取るのが悪いんだろう?何か間違ってるかな?」
(うわ、気まずい…。)
険悪な空気が流れるのをミズキはただオロオロと見ている事しかできなかった。
「まぁまぁ落ち着きなさい二人とも。ホラ、いらっしゃったぞ。」
シンゴがそう言ったのと同時に奥のドアが開き中から一人の男が姿を現した。
「スマンスマン!遅くなった。」
その瞬間皆立ち上がり「お疲れさまです!」と挨拶をする。
その様子を見て男は手で軽くまぁまぁと合図を出して奥の席に着席した。アキト達も席に着く。
「いやぁスマン、向こうの会議が遅れてな。さて、それじゃ始めるぞ!」
「「ハイ!」」
オールバックに洒落たメガネをかけ、いかにもインテリな雰囲気を漂わせている男…リライト日本支部戦闘部隊統括総隊長、鷺沼亮二はそう言うと全員の会議を進めていく。リモコンのスイッチを押すと、予め送信してあった全部隊の報告書やらデータやらを纏めて資料にしたモノがホログラムで全員の手元に表示され、それを元に話し合いをする。
「…よし。取りあえずこれで大まかな報告は終わったな…。…まぁ色々掘り返したい物もあったがそれは追々聞く事にして本題に入るぞ。」
リョウジはそう言うと全員の手元に〝ある資料”を表示させる。
「…これは…!!?」
「…バカな…!?時期が早すぎる…!」
一同どよめきその資料から目が離せないでいた。そこにはアメリカとヨーロッパ諸国で起きている問題についての資料が画像と映像付きで表示されていた。
「…まぁ見ての通りだ…、もしもの時の為にとウチからは第二と第七、各国も精鋭部隊を向かわせ警戒態勢を強いたが特に問題は起きなかった。取りあえずお前達には隊員の育成にもっと力を入れて貰いたい。この国で最悪なケースが起きた場合を考えてな…。これは〝会長”直々の指令でもある。あとこの事はまだ内密にしといてくれ。余計な混乱を避ける為にもな!」
全員資料を見ながら返事をする。画像には空に開いた巨大な黒い穴の様なモノが写っている。そこには〝悪魔の襲来!?”と銘打たれていた――。
リライト本部居住区。
レストハウス〝カラシン”。
「こんちわ!マスターいつものふたつ~♪」
「いらっしゃいませ♪」
オレとシンヤは喫茶店に来ていた。居住区内にはいくつか飲食店や服屋などがあって皆それぞれ利用していた。中でもこの店はマスターの趣味で熱帯魚の水槽がいくつか置かれていて落ち着いた雰囲気がありオレらのお気に入りの店だ。ここで必ず紅茶を頼むのがいつものスタイル。
「お待たせしました♪」
「ありがと~ユキちゃん♪」
「どうもね♪」
ウェイトレスのユキちゃん、今日も一段とカワイイな…。なんて思ってるとシンヤがニタニタしながら小声で話しかけてくる。
「ユウト!早く告っちまえよ♪あんなカワイイ子この先いつ会えるか分かんねえぞ♪」
「…うっせぇな…。まだ早いんだよ!それよりやっぱ任務終わってからのコレがサイコ―だわー♪」
そう言ってオレは無理やり紅茶に意識を向ける。まだ班長になりたてだしもうチョイランク上げて昇給してからじゃないと安定して養え…いやいや!遊びにも行けない。シンヤはそこら辺がよく分かっていないんだ。
「どーせデート代は男が出すモンだとか今は金がないから養えないとか考えてるだけだろ?相変わらずそういう所は頭硬いよなあ!」
「…ぐ…。うっせえな、そういうお前だってこの前事務の子にビンタされてたじゃんか!」
的確過ぎてオレも納得してしまったがなんか負けたくなかったのでこの前シンヤが失敗した話を持ち出した。いつも周囲を和ませている鉄壁の笑顔に少し亀裂が入った様に見える。よし、手応えあったか!もうチョイ畳みかけるか。
「見かける子全員に同じ褒め言葉使ってりゃそりゃ浮気者だと思われても仕方無いわなー。」
「あーお前!!気にしてる事言いやがって!!」
「なんだよお前だって言ったじゃねえか!」
オレ達はお互いの胸倉を掴みあう…が、なんだかバカらしくなって2人して笑ってしまった。
「…プハハハッ!!くっだらねえ!!」
「アハハハハ!そうだなぁ♪…いやー久々だな腹筋使って笑うの…♪生きてるって感じがするわー!」
「そりゃー腹にデかい穴開いてたしな!!」
「そりゃそうだ!」
そう言ってシンヤは一層笑った。オレもなんだか安心して一緒に笑った。
「生きてるんだな俺達…。」
「あぁ…生きてるな…。」
今まで病院にいる時はさして気にならなかったけどオレ達は危うく死ぬ所だった。なんかいつもの喫茶店でいつもの会話してたら急に実感が湧いてきた。
「シンヤ、この後ちょっと隊長の所行くから付き合ってよ。」
「おう♪もちろん!」
そう言って2人は店を後にした――。