第十四話 生地と意地
今回は少し甘めの話です。最近ムサい話ばっかだったので箸休めにどうぞ!
3日後、、
リライト専門医療区〝リステイツ”病棟。
ここはリライトの隊員の治療専門の施設である。組織の活動上怪我人が多く出る為最先端の医療技術、設備が集結されている。隊員が傷を癒す病棟にはリライトに所属している者以外でも入る事が出来る。
「ほらシンヤ、差し入れだ。」
ヨシキがそう言いベットで胡坐をかいているシンヤに紙袋を渡す。
シンヤ達は4人共同じ部屋で療養していた。タクマは横のベットで漫画を読んでいる。対面するようにベットが2つあるがどっちも空だった。
「いやぁ悪いね♪…お!蒸しパンじゃん♪俺の大好物!!さすが分かってる♪」
「わたしとシズルさんで作ったの♪…て、ほとんどシズルさんにやってもらったんだけどね♪」
そう言いながらバツが悪そうに笑うアヤ。
「マジか!いただきまーす。…うん!うまいよ♪」
モチモチの生地にレーズンが練り込まれていて酸味と甘みが絶妙に絡み合っている。シンヤはコレがたまらなく好きだった。
「ありがとう♪タクマにはハイこれ!」
「…ん、お、メロンパン!ありがとう。」
タクマが貰った袋には好物のメロンパンが入っていた。サックサクのクッキー生地には砂糖が塗され、それに包まれたこれまたモチモチのパン生地と織りなす甘みと食感がタクマは大好きだ。
それを黙々と食べるタクマ。目はとても幸せそうだった。
「てか二人とも大怪我だったのにもうほとんど平気そうだね…♪」
「全く…、呆れた回復力だ。」
シンヤはあの後そのまま意識を失ってしまった。その後心配して駆けつけてきたBeastのメンバーと合流し、急いでこの施設に運ばれてきたのだ。タクマは意識があったがやはり重症だという事で2人して
治療室にぶち込まれた。
それが3日で既にほとんど回復しているのだ。
「まぁ俺達は〝回復力”と〝タフさ”がウリだからね♪」
シンヤは笑顔で2人に返す。
タクマは3個目のメロンパンを黙々と食べ続ける。
「…そんで一番元気なおにいちゃんはユウト連れてどこいったのよもう…。ユウトだって目を覚ましたばっかなんでしょ…?」
「あぁ、アイツ等なら今…」
同時刻
リステイツ一階大食堂
「うん!これも美味い!意外としっかり味付けされてんなぁ。…モグモグ…」
「…そうだな!でもやっぱシズルさんの料理には負けるべ。…モグモグ…」
そう言う2人のテーブルには大皿が何枚も重ねられていた。
明らかに病人が食べる量の度を超している事に周りの患者達は呆れ顔で見ていた。
「…はー食った食った♪ごちそうさん!」
そう言うとユウトは水を一杯飲み干して一息付くとケンジに尋ねた。
「なぁケンジ。…あの後オレどうなったんだ…?」
「…あー、だ~から昨日も言ったべ?隊長が助けに来てくれたって…。」
「…そうじゃなくて…、その途中で…なんかオレ変わった事なかったか…?」
昨日目を覚ますと医師が経緯を説明した。
只〝覚醒”した事については余計な混乱を招くという事でユウトには黙っていたのだ。
隊長が先に目を覚ましていたシンヤ達を交えて口外しないようにと話していた。
アキトも助けに行く直前その気配を察知していたようで先に手を打っていたのだ。
――獣眼には中毒性がある――。
アキトは少しトーンを低めて静かに語り始めた。こういう喋り方をする時は本当に注意する問題がある時だ。全員その言葉に耳を傾ける。
「確かに覚醒状態になると色々恩恵を受ける事になる、気の総量、治癒力、身体能力…、様々な物がただ発動した時よりも大幅に増加される。だがその代償として危険が伴う事になる。お前等には何度か説明しているが敢えてもう一回しとくぞ。」
アキトは一旦呼吸を置いてまた話始める。
「一つ目、命を削る。これは異常な気の増加で出力が上がる事で人体にかなりの負担がかかるからだ。人間には限界がある。それはある程度引き延ばす事が可能だが突然限界以上の力を出せば当然体が悲鳴を上げる。まだ心身共に仕上がってないお前等若い奴には特に顕著にそれが現れる!」
また一呼吸開ける。
「二つ目、支配される。当時のクソ野郎共が人体実験を繰り返す事で人に獣の様な能力を上乗せさせる事に成功した。俺等〝第一世代”、お前等〝第二世代”共に幼少期は苦労させられたよな…、まぁその話は敢えて省くが。獣眼てのは要は異種の力を無理やり眼球に押し込んでいるモノだ。それを覚醒させるとどうなるか、自我がそれに侵されていく事になる。眼を覚ました化け物はどんどん表に出ようと心を侵食してくる。これも精神が安定しきっていない若い奴ら程進行が早い。」
「三つ目、中毒性。力の陶酔は本当にいい気分だ。アドレナリン、脳内麻薬…エンドルフィンも大量に出る。追い詰められた時簡単に獣の力を頼る様になって行く。結果負の連鎖が加速していく事になる。
以上三点が覚醒の危険性だ。ユウトは幸い今回のが初めての覚醒だからその間の事は覚えていない筈だ。これに味を占めて取り返しのつかない事態に陥らない為にもお前等余計な事言うんじゃねえぞ!身内で殺し合いなんかしたくないだろ…?」
その場の全員が返事をした。
「…お前…、気ぃ失ってたんじゃねぇのか…?」
「いや…確かに失ったけどその直前に誰かが俺と入れ替わった気がしたんだよなぁ…。そしたらなんか体が軽くなったっていうか…って、そんなん意味わかんねえよな!!ただ変な感覚だったからさぁ…!今まで気絶してもそんなんならなかったし…!」
(…あっぶねー。)
ケンジは心の中で胸を撫で下ろす。
「…まぁよ、今回は色々あり過ぎたしよ?今は忘れてデザートでも食おうや!俺も思い出すのしんどいしよ…。」
「…そだな!♪良いね甘いモン!オレなに食おうかな♪」
「ハイこれどーぞ♪」
アヤがユウトの前に袋を差し出す。
「おおアヤ!!来てくれたんだ♪…ん?なにこれ?…お♪」
ユウトが袋を開けるとクリームパンが入っていた。ユウトはこれが大好きだ。
「おおクリームパンか!!やったぜ♪頂きます!!」
一つ取り出し早速頬張る。薄めの生地の中には濃厚なカスタードクリームがギッシリと詰まっていた。しかもバニラビーンズ入りのおまけつきだ。芳醇なバニラの香りと絶妙な甘みがマッチしている。
「ハイおにいちゃんにはコレ。」
他の3人に比べて少し雑に袋を渡す。ケンジが無言で袋を開けると形が少しいびつなチョコブラウニーが3つ入っていた。
「…なんか変な形だな…。」
「…うっさい!黙って食え!」
「…なんだよ、ったく…。…お、うめえ!」
黙々とそれを食べ続けるケンジを見て少しホッとした表情を見せるアヤ。それを見ていたユウトはニヤニヤしていた。
「良かったなアヤ♪」
「なにが~?」
アヤは少し嬉しそうにそう言った――。
読んで頂きありがとうございました。