第十一話 獣の群
「ぬんっ!」
「よしタクマそのまま抑えつけといて!」
タクマが相手を押さえつけている間にシンヤは左手に電撃を集中させ敵に突っ込んでいく!
(百舌贄!!)
稲妻を走らせながら渾身の突きを叩き込む!タイミングを見計らいタクマも電撃に巻き込まれないようその場から飛び退いた。
青白い電撃を纏った電磁メスのような突きが怪物の胸を貫く!
「グギャアアアア!!」
叫び声を上げ煙を燻らせながら遂に動かなりその場に倒れ込む。
「ふぅ…。」
「結構しぶとかったな。」
「そうだな…。」
死体を見つめながら考え込むシンヤにタクマが問いかける。
「どうしたシンヤ?なんか解ったのか?」
「…ん、取り敢えずユウト達が終わったら話そう!」
隣りではユウトとケンジがまだ戦っていた。
「ケンジ早くしろ!」
「ちょこまかめんどくせえなあ!!」
高速で展開する戦闘にケンジは若干翻弄されていた。スピード勝負だとめんどくさがり屋のケンジは相性が悪い。そこでユウトは相手に先回りしてなるべく動きを制限しようとしていた。
(中々速いけど…俺のが速いんだよ!!)
自分を鼓舞してスピードを上げ遂にユウトの拳がクリーンヒットする!
「グガアアア!!」
化け物が爆風でよろめき遂に足を止める。
「今だケンジ!!!」
ユウトが叫ぶとほぼ同時に後方から勢いをつけてケンジが飛び込んでくる!
「死ねええええ!!!」
嬉しそうに叫びながら重力を乗せた渾身のハイキックを顔面にお見舞いすると化け物の頭部がゴムタイヤが破裂するような音をたて粉砕する。
「ん、なんだもろいなぁ…スッキリしねえぜ…。」
さっきまでほぼ蚊帳の外だったうっぷんを晴らせなかったのかケンジは不満げにそう言った。
「ふぅ~、少し手間取ったなぁ…。」
「…ったくこれだから速さ自慢は嫌いだわ。」
「…なんだそれオレに言ってんのか?」
「…なんでもござぁ~せ~ん…♪」
小言を言いながら二人はシンヤ達の方に歩いていく。
「お疲れぃ♪」
「お疲れ。」
「そっちも問題なさそうだね!」
「なんだよつまんねぇ。」
シンヤとタクマは2人を迎えると早速気がかりになっている事について話をする。
「シンヤ、こいつ等…」
「ユウトも気付いた?こいつ等〝鬼鼠”だ。」
「やっぱりか!」
ユウトはこれで合点がいったかの様に納得した表情を浮かべる。ケンジとタクマは頭にクエスチョンマークが浮かんでるようだ。
「おにねずみ?なんだそれ?」
「…。」
「…要はこいつ等は生体兵器なんだ!生物の遺伝子を変化させる薬剤を人間に注入してこんな化け物を作り出して大規模な抗争に兵として使うんだ。それを作った張本人が新田新衛門って言って大量投入の仕方がまるで鼠が増える様だからこんな名前がついてんだけど…って事前に渡した書類にも書いてあったでしょ…。」
この2人はそういうモノには基本目を通さないのでユウトは常に現場で説明をするハメになるがそれはいつもの事なのでもう半分諦めていた。それをシンヤが説明しながらフォローする。
「…それを研究開発している男が絡んでるみたいなんだ!しかもランクA級の大物だよ♪」
「一応危険人物は何人かピックアップしといたけど…ちょっと厄介だな、白夜と組んでるのかよ…。」
「取り敢えず今のうちにヨシキ達に連絡しとこう!大丈夫!俺達ならなんとかなるって♪」
「へ、当たり前だろ!そんなんにビビってたら今頃死んでるぜ!」
「まぁ問題ない。」
3人の気持ちが全く殺がれていないのを確認するとユウトも覚悟を決める。
「…頼もしいなぁ、さすが街っ子だよ!よっしゃ!!行こう!!」
「「「おう!!」」」
気を取り直して先に進んで行く。
10分後…。
「…って言ってるそばからこの数かよ…。」
…颯爽と敵のアジトまでの道を突き進んで行ったのはいいが早速オレ達は脚を止めていた。
迷路のような道を抜けると先ほどとは打って変わって広大な広場があり、その先には百夜の本拠地である建物がある。そして、その広場を埋め尽くす大量の鬼鼠が既に待ち構えていた。
「…うーん、ざっと100はいるかな…♪」
「…おお、どいつもこいつも個性バラバラだなぁ。おもしろそうじゃねえか♪」
「久々だなこういうの。」
予想してた通り大群で押し寄せている。いや、予想以上に多い。さっきもそうだがどうやら白夜の兵隊も媒体にしている様だ。とにかくこんな大量の敵を一度に相手をするのは久しぶりだから正直とまっどった。だがそれでもここまで来たらやるしかない!
「よっしゃ!祭りだ!暴れよう!!」
「こりゃ本気出すしかなさそうだね♪」
「いいねぇ!潰し慨があるぜぇ♪」
「そうだな。」
全員能力を全開にして鬼鼠の集団に飛び込んでく!
「死ねえええ!!!」
先頭をきってケンジが突っ込む!まず一体に的を絞り重力を込めた拳を顔面に振り下ろすと簡単に潰れ、その衝撃で周りにいた数体にもダメージを与えた!続いて後ろ回し蹴りをすると2、3体を巻き込み吹き飛ばす!まるで粘土を壊すように肉片を飛び散らせグシャグシャに潰れていく怪物達と、返り血を浴び笑いながら暴れまくるケンジの様を見ていると流石にちょっと引いてしまう。
「おおおお!!」
次にタクマが集団の中に飛び込んでいく。近くにいた鬼鼠達が一気に襲い掛かってくるがお得意の〝風の盾”を展開して弾き飛ばす。自分を中心に風を半円状に回転させて向かってくる相手を弾く技だ。
それでも何体かパワータイプの奴らが風を突き破ってきた!が、タクマは動じず手の平に風を集めて相手に叩きつけると圧縮した空気が炸裂し、直撃した何体かはバラバラになりながら吹き飛ばされていく。
「よっし俺達も行こうぜ♪」
「おう!」
オレとシンヤも続いて向かっていく。青い否妻を発しながら化け物を切りつけ感電させていくシンヤ。色々なタイプの奴らが襲い掛かってくるが電磁波を感じ取るのと又相手の動きを先読みして攻撃を悉く躱してカウンターを取っていく。
オレは持ち前のスピードと爆炎で次々と化け物共を蹴散らして爆散させていく。
(それにしてもこいつ等…さっき倒した奴らと違って再生能力を持ってるのか…!)
ちょっと肉が抉れた程度ならすぐに再生して襲ってくる!厄介だがここまで来た以上やるしかない!オレは皆に聞こえる様に大声で叫んだ。
「皆ぁ!!ここが正念場だぞ!踏ん張れよ!!」
「おう!!」
「わかってるっつうの!!!」
「…問題ない!!!」
それぞれ返事をして全力で鬼鼠の群れを倒していく。そして30分後、遂に全滅させる事が出来た。
「…はぁ、はぁ、ハァ…、やっと終ったか…。」
「…流石に…多かったなぁ…♪」
「…なんだよ…お前らまさかもうヘタレてんじゃ…ねぇだろうなぁ…。」
「…まだイケるぞ…。」
辺り一帯焼け焦げた匂いが充満し、土煙が巻き起こり、大量の生物だったものの肉片を飛び散らせ4人はフラ付きながら佇んでいた。
「…よし、あともうひと踏ん張りだ、流石にこれだけ倒せばもう兵隊も残ってない筈だ…後は2人を探して捕まえるだけだ、本人達はそこまで強くないからこのままでも充分やれ……
――ホッホッホ、ようこそ私の実験場へ!先程の戦いじっくり拝見させてもらったが流石だな諸君!!――
スピーカーから老齢の男の声が響き渡ってきた。間違いない、新田新衛門だ!
「やっぱりアンタが黒幕か!首国護衛隊リライトの命によりアンタ等をこれから捕縛する!大人しく投降しろ!でなければ……」
――全くこれだから国家の犬は嫌いだ、逆に君たちが捕まる可能性があるという事を考えたりせんのかな?――
言い終わらないうちに新田が割って入ってきた。
――君たちには私の最高傑作の相手をしてもらおう!今そちらに向かっているはずだ。こいつの相手をしてもまだそんな戯言を言っていられるか楽しみだ!!――
「う…うああ…」
ふら付きながら薊野が広場に歩いてくる。様子がおかしいのは一目瞭然だ。右手には刀身が黒ずんだナイフが握られている。
「…くっそ…!あのジジイ…!裏切りやがって…おあああアアアアアアアアアアアア!!!」
雄叫びの様な断末魔の叫びの様な声を上げるとボコボコと音をたててかつて人間だった組織、細胞が超スピードで全く別種の生物へと変異していく。170cm程度で痩せ型だった体躯も細胞の増殖でみるみる巨体の筋肉質へと変わってゆき、特に増殖した細胞が右手ごとナイフを包み込むとエネルギーを吸収したかのように巨大な剣に変形し、右腕と一体化した形をとる。残りの左手と両足はまるで爬虫類の様に鋭い爪が形成されどっしりとしたモノへと変わっていった。
全身の毛も抜けを落ち皮膚は灰褐色になり、その外見ははまるで大昔にコロシアムで獣と戦っていた剣闘士の様な風貌となった。
「…まじかよ…!?それにこの気の圧力…!」
「やっばいね…。」
屈強な外見以上に周囲に放つ気の異様な圧力が薊野から感じ取れた。
「ウオオオオオオオオオオ!!!!」
「…ッ!こりゃまた楽しませてくれそうだな…!!」
「……!!」
雄叫びだけで空気が振るえ埃が巻き上がる!ケンジとタクマもその異様さを充分理解していた。
――さぁリライトの諸君!存分に足掻いてくれたまえ!!――
新田の声に反応するかの様に怪物が襲い掛かってきた!!