第十話 歪な影
離陣街
東区入り口付近
ユウト達は北区の端にある東区の入口に来ていた。区域付近は入り口といっても門とか明確な分け方はしていないので境目付近はあまり治安が良くない。だがこの一見不安定に見えるかもしれない状況が不思議と大きな争いもなく保ち続けられているのは恐らく一つのチームが管理しきれる範囲の限界が大体決まっているからであろうと各々推測していた。因みに今はBeastを継いだヨシキ達が出向いて東区の境界付近を警戒している。
「よし着いた!ここから本番だな!」
「奴らどんな手を打ってくるかわからないから皆気を引き締めてな♪」
ユウトとシンヤが皆に注意を促す。
「最近は大人しくなっているが油断するなよ?後から本隊を連れて俺も合流する。」
「誰にモノ言ってんだよ、どんな奴らが来ても俺がぶっ潰す!」
「そう簡単にやられる筈がない。」
ヨシキの忠告に大きなお世話と言わんばかりにケンジとタクマが返事をする。ヨシキの心配性は相変らずだけど常に周りに注意が向いてるおかげでユウト達は何度も救われている。ケンジとタクマもそれは充分理解していた。
「じゃあそろそろ行きますか!シンヤ!いつものやっちゃって!」
「あいよ♪」
そういうとシンヤは電磁空間を展開させて周囲の動きを観察し始めた。第三班お決まりの戦術である。
これで半径70m以内にいる生物の動きや障害物など探索できる。ただし建物の中など閉鎖された空間内はわかりづらい。そこでタクマの出番だ。
「タクマよろしく。」
「おう。」
タクマは風を読む力を利用して微弱な振動を感知する。建物の中にいる奴らの動きを把握してもらう為である。同時に銃やライフルの狙撃に備えて風の壁を張り銃弾の威力を減らす役割も担う。欠点としては確認できる範囲が半径20m位なのとその間タクマは一切攻撃が出来ないという所だが大体はコレで防げていた。この網を抜けてきた奴らをユウトとケンジが叩く。前にユウト、ケンジが構え真ん中にタクマ、最後尾にシンヤといった陣形で進んでいく。
「しっかし凄い所だな…工場の中に家無理やり建ててんのかこれ?」
「うーん、こんだけ密集してると障害物多くて感知し辛いなぁ…。」
東区の入口から走ってすぐに巨大な工場施設の様なモノの入口があり、ユウト達はそこが奴らのアジトと踏んで侵入した。しかしそこはただの工場ではなく増築を繰り返した様でかなり入り組んでいた。
「へっ!何が来ても俺が潰してやるぜ!例えバケモノが相手でもなぁ!!」
「同感だ。」
4人でそんな会話をしているとシンヤが注意を促す。
「…おっと早速反応だ!11時の方向距離30m、陰から2人来るぞ!」
皆がその方向に目をやると建物の陰から2人の男が現れた。しかしどちらも既によろめいていてとても襲ってくるような気配は感じられなかった。
「なんだこいつ等?フラフラじゃんか。」
「…特に強そうにも見えないなぁ…」
「…う…うああ…た…たす…」
「あ…あつい…ああ…」
すでに苦しそうで今にも倒れそうな2人を見て全員すっかり気を緩めてしまっていた。
その時だった!
「う、うぁごあああああああ!!!」
「ひ、ひぃいギイイイイイイ!!!」
2人の男達が突然悲鳴を上げる。そして煙を上げボコボコと音を立てながら手足や体を膨張させていった。
「な、なんだ??!」
ユウトは驚いて思わず声を出す。タクマとケンジは逆に絶句しているがその中でシンヤだけは冷静に様子を見ていた。
一人は筋肉が膨れ上がり特に腕が巨大に変化しだした。衣服を破り露出した肌の色は灰色に変化し血管が浮き上がって爪も黒く鉤爪の様になっている。もう一人は足が肥大化し、まるで図鑑にある恐竜の様に変化している、肌も同様に灰色になって脈打っている。
「「グギャアアアアア!!!」」
元人間の男達は本能を剥き出しにしてユウト達に襲いかかってきた!
「なんなんだこいつ等!?」
「…ハッ!本当にバケモンが出てきやがった…!」
腕が肥大化した奴がユウトとケンジに向かって拳を振り下ろしてくる!二人はそれを簡単に躱すが奴の拳が地面を砕く様を見て少し冷や汗をかく。
「マジか…!当たったらタダじゃすまないな…。」
大きな土煙が少し晴れ、地面がかなりの大きさで抉れているのを見てユウトが呟いた。
反対に足の肥大化した奴はシンヤとタクマの方に飛び掛かって行った!
「…うおっ!?マジか!」
「…速い!」
2人の反応が少し遅れるほどの速さで間合いを詰めて拳を振って来たが何とかギリギリの所でこれを躱す!
「ビックリしたぁ!まるでユウトみたいだな♪」
「…次は躱せないかもしれない。」
「…何言ってんだよっ!オレの方がもっと速いよ…!そんであんな不細工な恰好じゃない!!」
「アハ、冗談だよ♪確かにこの程度ならまだイケる!」
「どうでもいい…!とりあえずぶっ潰せばいいだけだろ!」
「同感だな…。」
4人は集まり体制を立て直して異形のモンスターと化した元人間と相対する。モンスターはそれを恨めしそうに睨み返す!そこにはもう人間だった頃の理性はなく、只の動物としての闘争本能しか感じ取れなかった。
「腕の奴はタクマとシンヤで頼む!オレとケンジは脚の相手をするから!」
「あいよ!」
「了解。」
「へ~い。」
腕力がある奴は耐久力のあるタクマと誰とでも連携の取れるシンヤを、脚の速い方はスピードで勝負出来るユウトとどんな奴とも相手の出来るケンジを当てる。と、早速怪物達が仕掛けてきた。
「「グォオオオオオオ!!!」」
「よし!行くぞ皆!」
「「「おうッ!」」」
「ククク、早速始まったか。私のかわいい子供達とたくさん遊んでやってくれよリライトの諸君…。」
監視カメラのモニター越しに白衣を着た老年の男が一人呟く。そこに白夜のリーダー薊野浩太が現れた。
「ここにいたか新田さん!リライトの奴らが攻めてきたと聞いたんだが大丈夫か!?俺の部下達も向かわせた方が…。」
「ああ心配はいらないよ薊野くん!君の部下はよくやってくれている。早速向かって行ってくれたよ。」
「なに…?そうか、あいつらめ…、俺にドヤさせる前に先に手を打とうって魂胆か!へっ、全くいい部下達だぜ!」
「ホホホ、まぁ我々はカワイイ部下達が頑張ってくれている間に次の策に移ろうではないか!行こう薊野くん。」
そう言うと新田は薊野の肩に手をやり監視室を出て行く。薊野もそれに続く。
(さ~て、次はどんな奴を送り込んでやろうかねぇ…)
不敵な笑みを浮かべながら2人は暗闇に消えていく…
薊野浩太
24才。ランクB級。密売組織〝白夜のリーダー。本人はあまり強くはない。チームとしてのランクはA級。
新田新衛門
64才。ランクA級。離陣街のマッドサイエンティスト。元々自分の実験施設だった廃工場をアジトとして提供したりと〝白夜”に何かと肩を持つ。その裏で壮絶な人体実験や生体兵器の研究をしている。
リライト公認ランク
首国護衛組織リライトは国に対して脅威になる組織、人物に対してランク付けを行っている。それに合わせて実力の伴った隊員を任務に充てている。
基本のランクは全部で6種類でC、B、A、S、SS、SSSの順で危険度が増していく。
同様に隊員もランク付けされている。
オリハルコン
黒い金属の様な物質。魔界から人間界に贈られた物資の一つでとても貴重なものであり、そのほとんどはリライトが保管、管理している。これを一般層で扱ってそれが発覚した場合は関係者全てリライトの処罰対象となってしまう。
その硬度は〝通常”はダイヤモンドの10倍と言われていて、加工することによって主に武器や装備品として使われている。
最大の特徴としてある一定の〝気〝や〝魔力〝を集中させると形状や質量が大きく変化する。