第零話 ~エピローグ 風の鳴く大地 再興の始まり~
荒れ果てた広野に二人の男が寝転がっていた。
所々クレーターのように地面が抉れている。
「おい、生きてるか…。」
ボロボロの黒い道着を着た男が訊ねる。
「あー、もう無理だわ、力はいんねえ、もう死ぬわおまえのせいだわ~」
同じくボロボロの修道着のような服を着た長髪の男が吐き捨てるように返事をした。
「は…、そんだけ喋れんならダイジョブそうだな」
二人はなんとか体を持ち上げ空を見上げた。
二人の後方には街一つは呑み込めるであろう一際巨大なクレーターが出来ていた。
笹波堅介
23才。人類最強の武道家。己の肉体の打撃のみで国一つ破壊出来る力を持つ。 後の首国護衛隊〝リライト”の創始者。
シュタイン・マークハルト
24才。人類最強のテレキネシス。国一つ破壊できるほどの念動力を使える。ケンスケの大の親友。
「やっと一段落着いたな。」
ケンスケがそう言うとシュタインが答えた。
「そうだな、今回は本当にヤバかった…。まぁ一応話も付いたからな…」
ここ一週間、二人は戦いっぱなしであった。この世界にとてつもない敵が侵攻してきたからである。
ー魔界…、その中でも最強の種族、魔王族がこちらの世界に侵略してきた。
だがそいつらもバカではない、一応話の通じる奴らも少なからずいた。
なんでも魔界の許容量が限界に達してきてしまいこちらの世界を少し貸して欲しいというのだった。
しかしだからと言ってこちらの世界も簡単に鵜呑みにするわけにはいかなかった。
奴ら魔界の住人は話の通じない奴らがほとんどだし中には人間を食料とする者もいるからだ…。
結局交渉は平行線を辿り最終的には「戦争」という形を余儀なくされた。
人類約1000人に対し魔界人約1万人
人類の精鋭と魔界人の傭兵達。
数では圧倒的に不利な人類であったがその中でも最強と呼ばれる5人のおかげでなんとか戦況を五分に保っていた。
最終的には魔界の選ばれし精鋭5人とその5人で決着を付ける形となったが一週間たっても決着がつかなかった。
「もう終わりにしよう。このままでは無駄死にするだけだ。」
デルゴウス
2500才。魔界の第12代魔王。最強の肉体と魔力を誇る。少々人間味がある。
「はあ?!ふざけんなアンタらが仕掛けてきた喧嘩だろ!?最後までやり通せや!」
ジェイク レンドル
21才。最強の剣使い。伝説の武器<ウロボロス>を操る。少々短気。仲間思いリ
「このまま終わりってのもなんか癪なんですけど?こっちもボロボロにされてますし?」
リザ サルベリア
18才。最強の魔法使い。10属性全ての自然術が使える。基本マイペース。たまに能力の制御が出来ないときがある。
「まぁ待て、…少し聞いてみよう。デルゴウス!!何を考えている!?」
ケンスケは2人をたしなめるように言う。
「勘違いしてほしくないがワシらは何も力で無理矢理こちらを侵略しようとは思っとらん、これは再三伝えてるはずだ。ただそれでも納得がいかなかった為やむを得ずこのような争いとなってしまった、それは事実であろう?」
「ハッ!イイコぶってんじゃねぇよ?!こんだけ暴れて回っておいてよぉ…!」
ジェイクが少し興奮気味に吠える。
それにシュタインが割って入る。
「ジェイク!少し落ち着け!…デルゴウス、話を続けてくれ。」
「…確かにこちらに負があるのは否めん、それは認める。ただこれ以上無駄な血を流すのは望んでおらん。」
デルゴウスは淡々と話していく。
「なるほど、だがそのままハイサヨナラと言うわけにはいかんぞ!こちらも相応に失ったものが沢山あるからな!」
デルゴウスの言葉に支配されないようケンスケも少し声を強める。
「わかっている。そちらが失った分の物理的な物は出来る限りこちらが負担する。必要であれば食料などそちらで利用出来るものがあればある程度持って行ってかまわん。ただ失ったものがあるのはお互い様だろう。」
「…ざけんじゃねぇぞっ…!!」
「待て!ジェイク…!待ってくれ…!」
「ケンスケ…!!くっ…!」
今にも怒りが爆発しそうなジェイクをケンスケがたしなめる。
「…どう思う?アイリス…?」
「そうね、私もこれ以上の争いは正直辛いわ…。皆も何かを失うのはもう嫌でしょ…?特にジェイク…」
アイリス フュリール
23才。最強のヒーラー。原子構造レベルの分解、再構築が出来る。幼少期に実験台としての辛い経験がある。皆のお姉さん的存在。
「……ッ!!」
「……。」
「…あなたが決めてケンスケ、ここまで引っ張って来てくれたあなたの意見なら皆納得できると思うわ。そうでしょ皆…?」
「……。」
「…無言はYESと捉えるからね。ケンスケ…!」
「…わかった!デルゴウス!アンタらに賛成する!もう終わりにしよう!」
「…すまない。物資の供給が終わったら…今後30年はこちらには干渉しないと誓おう。その間に何かしら答えを出す。」
「…ヘッ!二度と手を出さないとは言わねえんだなッ!!」
「…無論、ワシも魔王だからな、民を護る以上譲れない所はある。恨んでくれてかまわん。」
「言われなくてもそうするわ…!」
魔王はそれを聞いて少し微笑むと終戦の魔笛を吹く。
それに続きケンスケも笛を吹いた。
寂しげな風音が荒れた高野に響き渡るー。
~エピローグ~
風の鳴く大地。再興の始まり
最初のケンスケとシュタインに場面を戻すー、
「ケンスケ、これからどうするんだホントに?」
「そうだな…、皆が揃ってから話すよ。」
「お!遂に決心したか〝あの話”!俺達はどちらでも賛成だからな♪」
シュタインはガバッと起き上がりケンスケの顔を見た。
ケンスケもその眼差しに答えるようにしっかり頷く。
「とりあえず皆と合流しよう。」
そう言うとケンスケはゆっくりと立ち上がった。まだ体中の痛みや重さは取れておらず、少しフラついていた。
「よし、それじゃあ中央本部まで戻るとしますか!」
そう言うとシュタインも起き上がる。同様にフラついている。
風が強いー。砂埃を上げて吹き抜けていく。周りには建造物や大岩もなく、というより先の戦いでほとんど吹き飛んでしまった。
何もなくなってしまった大地を2人は歩き出した。
中央本部
救護棟
戦いのあった場所から15キロ以上離れた位置にあるこの場所には、この戦争で傷ついた者たちが身を休めていた。
その中のある一つの部屋にジェイク、リザ、アイリスの三人はいた。
「ただいま!…サラ。」
「ただいま…。」
リザとアイリスが挨拶をする。
部屋の奥には白い棺があった…。
ジェイクは棺に向かって歩み寄って膝を下し、棺に手をやる。
「ただいま。終わったよ、姉ちゃん…。」
棺には名前が添えられていた。
…サラ・レンドル…
ジェイクの姉であった。
「やっと終わった。オレやったよ…!約束通り皆と帰ってきたよ…ねぇちゃん…。」
そう言うと膝を落として棺に触れる。
ーそっとジェイクの肩に手を置くアイリス。瞳には涙を浮かべていた。
リザも俯いて涙を流していた。
2時間後ー。
ケンスケとシュタインが救護棟に到着した。
サラの棺に挨拶を交わしアイリスらと合流する。
「皆!今回は本当に助かった!ありがとう!」
ケンスケが皆に向けて声をかける。
「こちらこそな。」
「全くです♪」
「…ケンスケがいなきゃオレもどうなってたか分からなかったぜ…!」
「こちらこそありがとう!」
シュタイン、リザ、ジェイク、アイリスが各々返事をした。
皆心身共に疲れきっていたが微笑んでいた。
「…ジェイク、お前は本当に辛かった筈だ。力不足ですまなかった!」
ケンスケはジェイクに頭を下げた。
「…そんなことねぇよ!皆頑張った!ねぇちゃんも皆がこうやって無事に帰って来た事が一番だと思ってる筈だぜ♪だから謝るのはナシ!♪」
ジェイクは精一杯笑ってみせた。もちろん辛かったが今言った事も紛れもない本心であった。
「…そうね。皆頑張った!それは紛れもない事実じゃない!ねぇリザ?」
アイリスはリザの肩に手をかけそう言った。
「勿論です!最後の方は暴走しませんでしたし!♪」
「そうだな!魔王軍と戦ってる時正直ヒヤヒヤもんだったぞ!」
シュタインは少し笑いながらそう言った。
リザは緊張するとテンパって自然術がうまくコントロール出来なくなってしまうのである。
バツの悪そうな顔をするリザ。
「あーそれ俺も思った!また泣きながら〝どおしましょぉぉ~”って来られたら最悪だったわ♪」
「も~皆さんバカにしないで下さい!!まだまだ発展途上なんですから私♪」
皆思わず吹き出してしまった。
そう、この“6人”は紛れもなく最後の砦を守ったのである。
誰が悪いとか誰が頑張ったではなく皆それぞれ全力を尽くした。
それで良かった。
ー約束して。皆無事に帰ってきて、ここで待ってるからー。
死に際にサラが言った言葉をケンスケは思い返していた。
「わかった。ありがとうジェイク、サラ…!」
ケンスケの眼差しに迷いはすっかり消えていた。
ジェイクも安心し、満面の笑みで返した。
「さて、ケンスケ!みんなに一つ話すことがあったんじゃないか?」
シュタインの言葉に皆が反応する。
一同何の話か検討は付いているようで期待を含ませるような眼差しでケンスケを見つめる。
ケンスケもそれに答えるべく一つ呼吸を入れてゆっくりと口を開く…。
「みんな聞いてくれーー、
そして、世界は流れていく。