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夏の空へ……  作者:
Last Episode 3年目
78/78

番外編 かっこよくて素敵なサンタさん

「はーっ…。」


地元のとある球場内の室内練習場で自主トレに励んでいるオレの口から漏れる息は白い。


一般世間では今日はクリスマスイブ。


本来クリスマスっつーのはキリストが生まれた日で、現在の恋人と過ごしたりするようなクリスマスはだいたい1930年頃から始まったと言われている。


今年はサイ・ヤング賞候補に選ばれたけど結局授賞されなかったが、レギュラーシーズン19勝を上げてメジャー最多勝を授賞し来年2月から始まるスプリングトレーニングに向けて1ヶ月ほど休養をしたあと、現在は身体を作り直すためにトレーニングを積んでいるところだ。


トレーナーさんとマンツーマンでトレーニングを積んでいるので、怪我のリスクは無い訳ではないけど身体の調子や疲労具合に合わせてコンディショニングをしているのでその辺の心配は大丈夫だろう。


「楠瀬さん?このあと予定入ってます?」


ちなみにこのトレーナーさんは敬語を使って、しかもトレーナーさんのほうが年上なのだが歳が1つしか離れてないのでもはや友達に近い感じで接している。


「このあとですか?すんません、ちょっと予定が…。」


「あー…。もしかして『コレ』ですか!?」


トレーナーさんが小指を立てる。


「まぁそんなとこっす。トレーナーさんはどうなんです?」


「俺にゃそんな人なんていないっすよ。日本が誇る世界のエースである楠瀬さんとは違ってモテないんすよ!!!」


トレーナーさんは血涙を流しながらボールを投げ返してくる。


「………今度誰か紹介しますね。」


申し訳無さが満杯になったオレは、トレーナーさんが構えるグラブ目掛けて軽めの力でボールを投げ返した。







「ただいまー。」


身を千切るような寒さから逃げるように玄関の扉を開けると…、


「おかえりなさい。拓海くん。」


「おーう。ただいまー。」


するとすぐに結衣がパタパタとスリッパの音を鳴らしながら玄関まで迎えに来てくれた。


柔らかい笑顔で迎えてくれた最愛の妻の顔を見ると、何だかほっこりとして心がポカポカと暖まる。


「帰ってきて早々で申し訳無いんだけど、そろそろ行きましょうか?」


「そだな。シャワー浴びてくるわ。 」





今日は久々………という訳じゃないけど、街に繰り出す。


いわゆる『デート』ってやつだ。


「~♪」


オレがシャワーを浴びているうちに薄くメイクをして、鼻歌を混ぜるほどご機嫌な様子の結衣がオレの右腕を身体の真ん中に抱き寄せながら歩いている。


あぁん?荷物はどうしたって?


何のために左腕を開けていると思っているんだ?


結衣のバッグは左手で持って、オレの荷物は財布とケータイとプレゼントの小包だけなんでジャケットの内側のポケットでも十分なんです。


「結衣、ここだ。」


「ここって………!?」


驚くのも無理もない。


何故ならここは予約が何ヵ月も先まで埋まっていて、超がつくほど人気のレストランなのだから。


「ほらほら、早く入るぞ?」


「わわっ…!!待って待って!!」





「とりあえず、メリークリスマス。」


「メリークリスマス。」


食前酒で出てきたシャンパングラスを合わせ、乾杯。


一口二口飲んだあとグラスを置いて、着ているジャケットの内ポケットに手を伸ばす。


「はい、クリスマスプレゼント。」


「わぁ…。ありがとう。ここで開けてもいい?」


「どうぞ。」


店員さんに頼んで、綺麗に包まれたラッピングを破かないようにして中身を取り出す。


オレからのクリスマスプレゼントは…、


「………ネックレス?」


純銀のネックレス。


秋口に愛用してたネックレスを無くしてしまったと聞いてから、クリスマスプレゼントにはネックレスを渡そうと決めていたのだ。


それに、薬指につけている結婚指輪と高校時代にプレゼントしたペアリング両方を身に付けて欲しいってのもあるんだがな…。


「ありがとう。大切にするね。」







レストランで優雅なディナーを楽しんだあとは、クリスマスツリーのイルミネーションを見たりただただ宛もなくフラフラしながら家についた。


………あれ?


オレは違和感に気づいた。


クリスマスプレゼントはあげたのはいいけど、貰っていないことに気づき、それとほぼ同時に結衣がオレのジャケットの袖口をキュッと掴んだ。


「…結衣?どした?」


「そう言えばわたしさ、もうひとつプレゼント欲しいんだよね…。」


ん?どう言うことだ?


サッパリ話が見えてこない。


結衣は視線を宙に向けてしばらく考える。


数十秒経ってから思い付いたのか、視線をオレの方向へ戻した。


結衣の表情には何やら意味深な笑顔を浮かべながら口を開いた。


「………そろそろ一人目が欲しいな。わたしのかっこよくて素敵なサンタさん?」


上目遣いでそんなことを言い出してきた結衣はとても艶っぽく、オレはアッサリと魅了されてしまった。それはいつも見せる妻の表情ではなく世界で最も美しい女性のそれだった。


そんな表情を見せられては、彼女にとって素敵なサンタさんは無抵抗で屈する他の道は残されていなかった。



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