Last episode 約束
季節は10月。
「そうか………、お前は自らの意思で棘の道を進むというのだな?」
「はい、両親とも話をつけてきました。」
進路指導室で久々に会った気がする監督に自分の意思が書かれた紙を渡し、話し込む。
「前例がないだけに何もアドバイスをしてやれないが、お前ならきっと夢を掴み取れる筈だ。頑張れよ。」
「はい。」
「よう。初々しいバカップルの片割れ。はやくくっつけ………よ!!」
「あだっ…。」
ケツの辺りに軽い衝撃と痛みによろめいた。
後ろを見ると夏の丸刈りに近かった髪が伸び、すっかり短髪に切り揃えている元野球部主将の水野が後ろに立っていた。
「進路、ようやく決めたんだってな。」
「ああ。ホントに遠い回り道だった気がする。」
廊下の窓に寄りかかり、反転された視界から外を眺める。
もうすっかり秋だ…。
「んで?滝沢には?」
「まだ。今日の帰りにでも報告するよ。」
「そうか。お前とまた野球できるのを楽しみにしておくよ。」
手をヒラヒラさせ、自分の教室へと戻っていった。
「ただいまー。」
先に家に帰宅したオレは包丁を振るい、メシを作っていたら結衣が帰ってきた。
「わぁ…。おいしそ。」
「先に手洗いうがいしてからな?」
「はーい。」
トテテと洗面所に向かって歩く結衣を尻目に、作った料理を皿に盛り付ける。
「なぁ、結衣?ちょこっとだけ話しておきたいことがあるんだけどいいか?」
「んー?いいよー。」
メシの途中オレは、やっと決めた自分の進路のことを結衣に伝えようと思い、話を切り出す。
やべぇ。超緊張する。
………よし!!!
「………オレ、アメリカに行くことにした。」
「アメ………リカ………?アメリカって自由の女神像とかの?」
結衣さん。あなたオレと出会ってから随分とアホな子になっちまったな…。
「うん。そのアメリカ。」
「何で?」
「日本No.1じゃなく、世界No.1のピッチャーになりに。」
「それは誰かに影響された訳じゃなく?」
「自分の意思で。だから、もし世界No.1になれたらその時は………。」
「その時は………?」
「その時は………、必ず迎えに行きます。」
結衣の頬には涙が伝う。
「………約束………だよ?」
「ああ。約束する。」
オレたちはそっと唇を重ねた。
その後、いざこざはあったもののメジャーリーグに挑戦したいという意向を示したオレの元にメジャーの球団から指名が入った。
そして高校を卒業後、多くの人たちに見送られ中には涙を流しながら見送る人の姿を横目に再びアメリカの地へと旅立った。
世界の頂きを目指して…。
~For the future~