第72話 まさかの…!?
甲子園が終わってから2週間が経ち、屋上で空を見上げながら横たわっていた。
春夏連覇を成し遂げた余韻に浸っていたのも束の間、次にオレに待ち受けていたのは………。
そう。先伸ばししていた『進路』のことについてだった。
結局甲子園で見つかるかと思ったら、1試合1試合戦うことに専念しすぎて何も見つからなかった。
甲子園が終わり、すぐにAAAアジア野球選手権大会の代表メンバーに選ばれたがオレはこれを丁重に辞退させてもらった。
何というか、甲子園決勝で燃え尽きてしまったというか…。
とにかく今はボールを持ちたい、ボールを投げたいという気力が全く沸いてこないからである。
「くぁ………。」
それにしても残暑とは思えない涼しさだ。
まだ疲れが完全に抜け切ってないし、ちょうどいい。
ここらで一眠り………。
「く・す・の・せ・くん?」
学級担任の先生に見つかってしまい、進路指導室へ強制連行されてしまった。
一眠り………………したかったなぁ。
進路指導室へ連行され、進路指導の先生と学級担任との3者面談という苦行を乗り越えたら外はもうすでに夜になっていた。
鈴虫が鳴き、ススキの穂が風で揺れているのを横目に歩いて帰ってきた。
結衣は両親と進路のことで最終確認をするついでに、実家帰省ということで1週間ほどマンションを開けるらしいのでうちには来ない。
メシを簡単に済ませ、風呂上がりにリビング経由で冷やした麦茶を飲んでいると家電に留守番電話が入っていた。
何やねんこんな時間に………。
そう思いながら受話器を取り、メッセージを聞く。
「………………はぁぁぁあ!?」
おいぃぃぃい!!!
アイツどっからオレの家電の番号や住所を聞き出した!?
いや、それどころじゃねぇ!!!
メッセージを聞き、受話器を叩きつけるように置くとすぐさま外に備え付けられている家のポストに向かった。
そこにはメッセージに伝えられた内容に沿った書類や必要な物が入っている手紙が送られていた。
………マジかよ。オレの拒否権はいずこに………?
やぁ。みんな。楠瀬です。
朝イチの電車を乗り継いで新幹線を乗り継ぎ、昼前に交際空港に来ている。
何で国際空港にいるのかだって?
「遅いよー!!!10分遅刻よ!?」
この女に聞いてくれ。
あの日の晩、家電に留守番電話を入れていたのはサキこと篠咲のマネージャー兼プロデューサーさんだった。
冒頭の謝罪のあとに、篠咲が仕事の都合上数日間ニューヨークに渡米するらしくてその付き人だかなんだかでオレに白羽の矢が立ったらしい。
おかげで初めて欠席届を何枚も書かされ、理由を書く欄に超適当に書いたりと色々と大変だった。
何だってオレが………。
(ごめんね、楠瀬くん。うちの玲奈が聞かなくって………。)
(全くですよ………。学校に言い訳するの大変だったんですから………。)
プロデューサーさんが小声で耳打ちしてくる。
プロデューサーさんは大の野球ファンらしく、オレの甲子園でのピッチング姿に感動を覚えたと同時に篠咲の横暴さに手を焼いていると聞いた瞬間何だか仲良くできそうな気がしたのはまた別の話だ。
おっとニューヨーク行きの飛行機は19番ゲートか………。
オレは篠咲とプロデューサーさんのすぐ後ろをついて搭乗口へと続いた。