第6話 やっぱ増やすわ
気付けばもう6月。
いよいよ夏本番に向けて暑さが増していく。
その後の主な出来事と言えば……。
様々な視線が突き刺さり続きはしたものの何とか乗り切った集団宿泊研修。
残念ながらメンバー外となったものの、悔しさを滲ませながら先輩たちの戦いをしかと焼きつけた春季大会。
そして練習……。
「お願いしやす!!!」
レフトのライン線のところからノッカーのコーチに向けて大声を飛ばす。
「オラ、行けー!!」
コーチはライト方向へ大飛球を飛ばし、オレは落下点に向けて走る。
光南高校投手陣には名物練習がある。1つはポール間ランニング。
これはライトポール付近から反対側のレフトポール付近までのランニングやダッシュしたりするランニングメニュー。
そしてもう1つはこのアメリカンノックだ。
ハッキリ言おう……。
「だぁぁあ……!!」
キツすぎる!!!
最初の頃は昼に食った物を吐き出し、雪穂が作ってくれた夜ご飯もまともに入っていかず仮に詰め込んでもすぐに戻してしまったりした結果、体重が4キロ減ってしまった。
「どうしたぁ!もう終わりかぁ!?」
「んなわきゃあるかぁぁあ!」
「テメェ!!!コーチに向かってなんつう口の聞き方しとんじゃクソガキャァア!!」
コーチに向かってこんな口聞いてるけど、こんな会話してるけど、こうでもしなきゃ乗り越えられない。
「オラァ!!こいつでどうだぁ!!」
コーチが満面の笑みでライナー性の当たりがライトのライン際に打ち込んだ。
こんのドSコーチがぁぁぁあ!!!
Side out
Side R.Tachibana
「新城!!ブルペン行くぞ!」
「ハイハイ、分かったから……。今日は何球投げるんだ?」
「100前後くらいかな?」
「りょーかい。」
楠瀬のやつ……投手陣メニューを始めたときゲーゲー吐いてたのに、最近練習終わった後にも1年キャッチャー連れてブルペンで投げてる姿が目立ってきたなぁ……。
タフだなぁ……。いやマジで。
「松平……。80の予定だったけどやっぱ増やすわ。」
「何球っすか?」
「120。」
「はぁ!?オレに逝けって言いてぇんすか!?」
「いやぁ…なんつーか……、アイツには負けたくねぇっつーか……。」
今まで以上に練習しなきゃ……、今まで以上に本気で投げなきゃ……、背番号1は取られそうだ。
「はぁ……。分かりましたよ。気が済むまで付き合いますよ。その代わり厳しめに行きますよ?」
「おう。よろしく頼む。」
Side out
この後立花さんとオレは……、
「ッラァ!!!」
「ん゛っっ!!!」
「あれ…立花さん?失礼ですけどボール浮き始めてません?」
「……そういう楠瀬こそ、リリースポイントが高くなってきてるぞ?」
「「ハッハッハ。……もう20球追加だ!!」」
「「もう勘弁してくれぇ!!!」」
オレと立花さんによるピッチング練習という戦いは立花さんは200球、オレは185球で終わった。
……受けてくれた新城と松平さんはボロボロになっていたのは言うまでもないだろう。
「……。」
練習後、玄関の横にある自販機に向かいスポーツドリンクを買うためにお金を入れる。
「えいっ。」
スポーツドリンクのボタンを押そうとすると、後ろからボタンが押される。
ああ……。スポーツドリンクが……。
誰だぁぁあ!オレのスポーツドリンク代を横取りにしたのは!!
オレは後ろを振り向くと……。
「こんばんはっ。拓海くんっ。」
その正体は、いつぞやの迷子少女の滝沢 由依だった。