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夏の空へ……  作者:
Last Episode 3年目
68/78

第67話 破られし均衡

上手く決まってよかった…。


オレ自身最後となる球種はフォークボール。


スプリットに限りなく近いけど割とガッツリ挟み込んでいるし、ストレートと同じ感覚で投げるのでスピードが速くて落差もあるボールに仕上がった。



相手からしてみればデータに無かったフォークを投げてきたことと水瀬が三振に倒れたという2つの事実が重くのし掛かり、それが守備にも影響した。



まずこの回の先頭バッターの蒼井が相手の意表をついたセーフティーバントで出塁して、直後の投球で吉見の速いクイックを完璧に盗み2塁に陥れる。


2番の坂上が吉見の高速シュートを1発でバントを決め、1アウト3塁。



続くオレの第3打席目は蒼井の偽盗フェイクスチールや偽装スクイズなどで徹底的に揺さぶった結果、制球力コントロールのいい吉見にしてはかなり珍しくストレートの四球フォアボールで出塁し、1アウト1・3塁と先制する絶好のチャンスが訪れた。



そんなビッグチャンスに期待できる男に打順が回ってきた。





『4番 センター 水野くん』





Side H.Mizuno



オレはつくづくこういうチャンスに回ってくるな…。


と、苦笑いを浮かべながらバッターボックスに向かう。


ここまでオレと吉見はあまり相性がよくなく、第1打席は高速シュートを警戒しすぎてストレートに差し込まれ、ファーストへのファールフライとなった。


続く第2打席はパームボールの直後のストレートの球速差にやられてショートゴロとなった。


打線もここまで誰も高速シュートを捉えきれていない…。


ならばここでのオレの仕事は高速シュートを打ち崩し、先制点を取ることだ。


ネクストサークルで極限まで高めた集中力をそのままバッターボックスの中に持ち込む。


吉見が投じてきた初球は、そんなオレの集中力を削ぎ落とすようなインコースの胸元高のボール球。


続く2球目は真ん中からインコース低めへと曲がってくるスライダーでストライクを取られる。


立て続けにインコースの厳しいボールが来て、どこかで必ずアウトコース低めの高速シュートが来るだろうなぁ…。


3球目はアウトコース高めのストレートが外れて2ー1。


球数も多くなってきてるし、そろっと高速シュートくるかな?


4球目のサインを受け取った吉見は一旦プレートを外し、投げる前にロジンバッグに弄り間を取ってくる。


集中力をもう一度高めるために、オレもバッターボックス内でバットを降ろし息を深く吐き出す。


再びプレートを踏み、セットポジションの体勢に入ったところでバットを持つ手に余計な力を入れずに構える。すると準々決勝の先制ホームランを打った時と同じような感覚に陥った。



さっきまでうるさいほどの大歓声やヒッティングマーチの音が聞こえなくなり、代わりに風が吹く音が聞こえてきた。


そして吉見の投球モーションがスローモーションに写り、ボールを投げる瞬間手の甲が内側に捻りながらリリースするのが見えた。


ボールは真ん中低めに伸びていく。


まだだ………。


まだスイングするな…。


こらえろ…。


自分のミートポイントの直前、弾かれるようにアウトコース低めに向かって真横に変化していくボールに対し、右足を踏み込みアウトコースへと逃げていく高速シュートを捉えた。




Side out




ーーーカァァァン!!!





水野が吉見の高速シュートを捉え、乾いた打球音を残し打球は左中間へと伸びていく。


あらかじめ後退していた左翼手レフトが快足を飛ばしに飛ばし、打球をキャッチすべく懸命に追いかける。


オレは1塁と2塁の間でハーフウェーを取っていた。



頼む………抜けろ!抜けてくれ!!!


「拓海!!全速力で走れ!!!」


水野が1塁ベースを蹴る直前、大声で叫びながらこちらに走ってくる。


きっと『この打球は抜ける』という感触があるのだろう。


その言葉を信じたオレは、甲子園の土を蹴り一気に加速する。


レフトが足だけでは間に合わないと判断したのか、ダイビングキャッチを試みていた。



だが、左翼手レフトのグラブに収まるか打球が甲子園の天然芝に接地するかかなり際どいタイミングだ。


そして打球は………、












左翼手レフトが差し出したグラブの下をすり抜け、甲子園特有の広い左中間へ転々と転がっていった。


打球が抜けた瞬間、甲子園は大歓声に包まれ打球が抜けたのを確認した蒼井が先制のホームを踏んだ。


続けて水野の言葉を信じ全速力で走ったオレが2点目となるホームを踏み、蒼井にハイタッチで迎えられてベンチに戻った。


先制の適時二塁打タイムリーツーベースを打った頼れる主将は、背番号8をこちらに向けながら右腕を高々と掲げていた。




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