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夏の空へ……  作者:
Last Episode 3年目
63/78

第62話 決勝前夜

健康管理日と言う名の休養日を挟んで、準決勝。


第1試合の浦話学院は準決勝でも磐石の強さを見せ、オレたちより一足先に決勝戦へコマを進めた。


第2試合であるオレたちの試合は、結果的に言うと勝った。


オレは先発メンバーから外れ、ベンチスタートとなった。


昨日の試合から爆発している打線は初回から大いに破壊力を発揮してくれて、10対4の大勝となった。










「………以上で報告を終わります。」


準決勝が終わり、宿舎に戻ってきたところですぐにミーティングが行われた。


決勝戦に向けて少しでも休ませたいという監督の意向だ。


けど、やべぇ………。ボーッとしててうちの優秀な女子マネージャーのデータ解析の話聞いてなかった…。


後で新城から聞いておこう…。


「泣いても笑っても明日で最後だ。だが、明日もいつもと変わらずいつも通りやっていこう。以上。」


選手全員で返事をした後に部屋に戻ろうとする。………が、


「楠瀬。ここに残れ。」


マジっすか…。


監督の前に立ち尽くすオレ。


オレの前に座る監督とミーティングルームにただ一人残されたオレの間には重たい沈黙が流れる。


「身体の方は大丈夫か?」


先にこの重たい沈黙を破ったのは監督だった。


「まぁ、昨日今日投げなかったので…。」


今日の試合は他のピッチャー陣による継投で逃げ切ったのでオレの直接的な出番は無かった。


せいぜいランナーコーチとしてグラウンドに出たくらいだ。


「そうか…。オレにお前の集大成を見せてくれ。………それだけだ。」


イスから立ち上がりながら、オレの肩をポンと叩きミーティングルームを後にした。










『もしもし?楠瀬くん?今大丈夫?』



「いや大丈夫だけど、いきなり電話してきて大丈夫なのか?」


夕食までの僅かな時間に電話がかかってきた。


電話の相手は、かの有名なアイドルの篠咲 玲奈からだった。


『人づてから聞いたんだけど、プロに行かないってホントなの?』


ちっ………。誰だよ。んなこと垂れ流したの。


「ホントだよ。今のところプロに行くつもりはない………かな?」


『なんで?キミほどのピッチャーがプロに行かないなんて勿体無い………。』


「それは世間が決めることだ。オレにはそんな世界で通用するなんて全く思ってない。」


『そう………。………とりあえず明日の決勝戦頑張ってね?』



オレの返事も聞かずに、電話がブツッ!!と音を立てて切れた。


最後らへん何だか怒ったような感じだったけど、マジで何だったんだよ………?


オレは頭を悩ませながら、時間を確認すると夕食の時間になっていたので食堂となっている部屋に向かって歩き出した。








「よう。明日で最後だな…。」


食堂に入り、バイキング形式のメシを自分が食べる分を皿に取っていたら隣のレーンからメシを取り終えた水野がオレの元にわざわざやって来た。


「そうだな…。」


オレも自分の取り分を取り終え、適当な所に座った。


「明日の援護はあんま期待すんじゃねぇぞ?」


水を一気に飲み干した後、野菜から先にバリバリと食べ始めているとチームの4番はとんでもない発言をした。


「おいおい、4番がそんな弱気でどうすんだよ…。」


「吉見のピッチング………、特に制球力コントロールに関して言えばお前よりワンランク上だし、吉見のピッチングの完成度は高校野球の域を越えている。だからあまり大量得点は無理だと思う。」


「つまり失点は最小失点で食い止めないといけないってことだ。」


水野の発言を繋げるように、お盆の上に大量のパスタと白米を盛り付けた新城が現れた。


マジでか………。


歴代の高校球界を含めても最強との声も上がっているあの水瀬を始めとした打線を抑えなきゃいけねぇのか…。


「明日は総力戦だ。もちろんあの球も場合によっては初回から要求するからな?」


昨年度の冬からナックルカーブと同時平行で取得した変化球は、投げられるようになってからは紅白戦などでは何度か試投したけど公式戦では1球も投じていないボールがある。



暴投ワイルドピッチになったらわりぃ。」


「大丈夫だ。必ず止めてやる。」


それは頼もしい。そんときゃ頼んだぜ?



「そういえばだけどさ、お前ら進路は決めたか?」


オレたちバッテリーで話していたら、いつの間にかパスタのお代わりに行って戻ってきた水野が唐突に聞いてきた。


「オレは大学かな?何校か推薦の話が入ってるって監督が言ってたし。水野はプロ志望だっけ?」


「おう。もう既に何球団かのスカウトと話してるとこだ。………拓海は?」


意外だ。新城はかなり頭がいいから試験で大学に行くのかな……と思っていたら大学推薦を受けるつもりだったのか。


まぁ水野はよく比較されてきたから、知ってたけど。


「何も。ただプロに行こうとは考えてないってだけ言っておく。」


「勿体無いと思わねぇのか?」


「それは回りが勝手に思ってることだ。オレ自身勿体無いとは全く思ってない。」


2人ともオレがプロに行かないと聞いたら、目を見開きビックリして水野がさっきの篠咲と同じようなことを聞いてきたので大体同じような返答をした。



オレにはプロ相手に投げるイメージが全く沸いてこないからな。


「そうか。…ごちそうさま。明日勝って高校野球を終わらせようぜ。」



「そうだな。」



ちょうど同じタイミングで食べ終えたオレたち3人は、何気ない世間話を談笑しながらそれぞれの部屋に戻っていった。











部屋に戻ると、スマホが光っていた。


どうやら電話のようだ。


発信相手を見て、無視するわけにもいかなかったので通話マークに向かってスライドして電話に応対する。


「もしもし?」


『拓海くん?』


電話の相手は結衣だった。


別に電話しなくてもよかったのに決勝戦前夜ってこともあって電話をくれたのだろう。


「どうした?」


『別に?ただ声を聞きたくなっただけ。』


「そうか。」


『それだけ。じゃあね。』


電話が切れた。


スマホをベッドに投げ、宿の窓を開け夜空を見上げた。


………明日は晴れそうだな。








Side S.Minase



いよいよ明日だ。


2年越しの再戦だ。


さっきから気持ちを落ち着かせようと使われていない部屋にトレーニングマットを敷いて座禅を組んでいるが、気持ちが高ぶってきてしょうがない。


今まで数えきれない程多くのピッチャーと対戦してきたが、こんなことになったのはもしかしたら楠瀬だけかも知れない。


もしかしたら明日楠瀬とぶつかったら、何かを掴めるかもしれない。



『ゾーン』と『ミックスアップ』…。



『ゾーン』とはスポーツ選手が持っている力を最大限に発揮することができる、いわばアスリートの理想の到達点。


『ミックスアップ』とは試合中に相手と共に成長することなのだが、『ミックスアップ』を起こすにはお互いに近い技量があり尚且つそれがハイレベルでそれを纏っていないと起こり得ない現象だ。


今回の場合『ミックスアップ』は、楠瀬あいても成長してしまうのでトーナメント制の高校野球では遠慮したい。


だが、もし『ゾーン』に入ることができたならオレのバッティングは飛躍的に進化を遂げるだろう。


オレが見たところ光南高校の4番、水野くんは楠瀬がデッドボールを喰らった準々決勝の試合でその領域に入った。


オレのことを『高校球界史上最強バッター』なんて言うけど、もしかしたら水野くんの方が最強なのかも知れない。




何はともあれ、明日が楽しみだ。



オレは月に照らされる部屋から空を見上げた。



………明日は晴れそうだな。



オレは再び目を閉じ、座禅を組み直した。




Side out



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