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夏の空へ……  作者:
Last Episode 3年目
61/78

第60話 無理しないで…

何だ…?


何か上から暖かいものが降ってきているような…?


「………。ここ………は…?」


その何かに気づいたオレは目を覚ます。


オレは確かインコースに来たボールを何とか避けようして…?


「拓海くん!」


「「拓海!!」」


結衣………?それに親父に母さん…?


目を開き、意識が戻ってくると涙でボロボロになっている結衣とそれを慰めている母さんに険しい顔つきでオレの顔を覗き込む親父の姿があった。


久々の親父との再開がこれかよ………。と心の中で毒を吐く。


「………オレはどうなったんだ?」


「お前は杉浦のボールを受けて、医務室に運ばれてきたんだ。ちなみにまだ攻撃中だそうだ。ホラ」


状況がよく分からないオレは親父に聞いたが詳しくはテレビの映像を見た方が速いと判断した親父が、スマホでワンセグ放送を繋いでくれた。


『光南高校の長い長い攻撃がようやく終わりました!!3番楠瀬の頭部にボールをアクシデントに燃えたという4番水野の先制満塁本塁打グランドスラムから始まり、連打や犠牲バントで繋ぎトドメは1番に座る2年蒼井のこのイニング2本目となる満塁本塁打グランドスラムで光南高校この回大量8得点を上げました!!!』


そうか………。


オレは立ち上がりベンチに戻ろうとするが、親父が救護室の出入口に立ち塞がり、オレの歩みは一旦止められた。


「………拓海。お前まさかマウンドに戻るつもりか?」


「………そうだといったらどうする?」


「仮にもお前はデッドボールを喰らって一時的とはいえ頭に衝撃を受けて下手したら脳震盪を起こしているかも知れないんだぞ!?その状態でみすみすマウンドへ見送る親がどこにいるって言うんだ!?」


それもそうだ。親父が言っていることは確かに間違いない。


だけどさ、どうしても戻んねぇといけねぇんだよ。


今ここで戻らないとオレの夏がこの場で終わるような気がするんだよ………。


「もう1度聞くぞ。お前マウンドに戻る気か?」


「戻る。」


「………そうか。ならオレから言えるのは1つだけだ。」


親父は塞いでいた出入口への道を開ける。


「弱いところを見せるなよ?」


「おう。………結衣?」


オレは救護室から出る直前、試合前に被っていたオレの帽子を胸に抱えボロボロに泣き続ける結衣の元に歩み寄る。


ちっ…。親父には啖呵切ったけど口んなかっつーか喉の奥が血の味しかしねぇな。もしかして倒れた拍子で口んなか切っちまったか?


「ひっく………えぐっ…。」


さっきまでオレが寝ていたベッドの縁には、ベンチメンバーの誰かが持ってきてくれたのであろう打席に入る前まで被っていた帽子がそこには置いてあった。


オレは試合の時に被っていた帽子を結衣の頭に被せ胸に抱えていた帽子を優しく奪い、お世辞にも長くない髪を後ろにかき上げながら帽子を被る。


「………行ってくるな。親父たちと見ててくれ。」


オレは結衣の頭をポンポンと撫でたあと、救護室からベンチへ続く道を歩き始めた。


後ろから『拓海くん………無理しないで。』って何かに願う結衣の声が聞こえてきた。









「監督、戻ってきました。」


「大丈夫なんだな?」


ベンチに戻ると、残る8人はすでにそれぞれの守備位置についていてどうやらオレ待ちが戻ってくるか戻ってこないか待っていたようだ。


「大丈夫だと思います。」


「止めてもお前なら聞かないだろうしな…。分かった、ならそういう采配をしよう。だけどこちらが少しでも大丈夫じゃないと判断したら容赦なく交代してそのまま病院にブチ込むからな?」


「はい、んじゃいってきます。」


オレは自分のグラブを持ってきてくれたマネージャーから受け取り、マウンドへ向かった。





Side Y.Takizawa




拓海くんが頭にボールを受けた瞬間、わたしは人の波を掻き分け救護室に走り出していた。


その途中で彩菜さんと拓海くんのお父さんの海斗さんに会って、大会の役員の人たちに頼み込んで特別に救護室に入ることが許された。


そこにはグッタリと横たわっていた拓海くんの姿があり、『無事でよかった』と思うと急に涙が溢れてきた。


泣き崩れていると、海斗さんと何か話していた。


もしかしてまたマウンドへ戻る気なのかな…?


もしかしたらまた杉浦って人にぶつけられるかもしれないって言うのに…?


やだよそんなの…。もしまたぶつけられたら応急処置じゃすまなくなるような大ケガをするかもしれないのに…。


『行かないで…。』


口にするのは簡単だけどどうしても涙でその言葉が出てこない。


「………結衣?」


言わなきゃ。


でもやっぱり言葉が出てこない。


するとわたしの胸に抱えていた拓海くんの帽子を優しく奪い取り、代わりに拓海くんが試合の時に被っていた帽子をわたしの頭に被せてきた。


「………行ってくるな。親父たちと見ててくれ。」


わたしの頭をポンポンと撫でた後、救護室から出ていった。


どうか野球の神様…。


拓海くんをお守りください…。


わたしは身に付けているネックレスに通している、昨年の秋に貰った拓海くんと一緒にもらったペアリングをギュッと抱きしめて祈った。


「拓海くん………無理しないで。」





『先ほどのデッドボールの影響が心配されていた光南高校先発の楠瀬くんでしたが、光南高校ベンチから出てきました!!甲子園からは割れんばかりの拍手で楠瀬くんを迎えます!!!そして大丈夫だというように投球練習始めます!!』


救護室に備え付けられたテレビからは、アナウンサーが実況していてテレビの画面では上のアングルから拓海くんの投球練習を撮していた。



………拓海くん!頑張って!!



Side out



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