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夏の空へ……  作者:
Last Episode 3年目
59/78

第58話 もっと本気で投げてこいよ

『3番 ピッチャー 楠瀬くん』


4回表、オレの第2打席が回ってきた。


この杉浦というピッチャーは、公共の電波でオレや楠瀬をケンカ吹っ掛けてくるくらいの実力はある。


最速146km/hのストレートを軸にスライダーとカットボールやシュートをバッターの懐を容赦無く抉ってくるいわゆる『ケンカ投法』を武器に勝ち上がった来た。


ホントに勝ち気な性格がまんま出てるよ。


「ボール!!」


あっぶね………。


顔面の高さに投げられた144km/hのストレートをなんとか避ける。


続く2球目は、高めに浮いたストレート。


すると杉浦は、苛立ちの表情を浮かべキャッチャーのボールを受け取る。


「うおっ…!!!」


3球目は初球よりも少し高く、ヘルメットのところにボールが投げ込まれる。


マジであぶねぇ。


オレらが平然と投げているボールは、場合によっては再起不能になり得ない大怪我に繋がる原因になることを杉浦は分かって投げているのか?


「ボール!!フォア!」


結局杉浦がオレに投じた4球目はアウトコースのスライダーが外れ、フォアボールとなり安全に1塁へ進んだ。




Side S.Aoi


水野さんに対しては敬遠で勝負を避け、5番との勝負を選んだ。


それにしてもさっきの拓海さんに与えたフォアボール………。


一見したら突如制球を乱し、ツーアウトからフォアボールを与えてしまったように見える。


だが、オレには分かる。


これはきっと挑発だろう。


『もっと本気で投げてこいよ』という挑発だ。


ここまでお互いに無失点で抑えているが初回から飛ばしに飛ばす杉浦に対し、抜くところは抜いて力を入れるところは力を入れる拓海さんと2人のピッチングは対照的だ。


だってその証拠に………、


「ストライーク!」


マウンド上の杉浦はバッターにとっては打つのが非常に難しいコースに意図も容易く投げ込んでいる。



ーーーガギッ!!


追い込まれたバッターはインコースを抉るシュートを引っかけ、サードゴロを打たされ凡退する。


さ、攻守交代だ。


オレはグラブを持ち、定位置の三遊間へ走っていった。



Side out




Side S.Arashiro



『3番 ピッチャー 杉浦くん』


ピッチャーとしても優秀だが、バッターとしても優秀である杉浦が右バッターボックスに入った。


前の打席は初球の高速チェンジアップが甘く入ってきたが、ボールの下っ面を叩きピッチャーゴロに打ち取れた。


さて、何を要求しようか…。


少しだけ悩んだけど、難しく考えずサインを交換しマウンド上の拓海は足を上げて投げ込んだ。


「ストライク!」


初球投じたボールはカットボール。


見逃しこそしたが、微動だにしなかった見送り方に違和感を感じた。


………もしかして初球変化球から入ると読んでいてわざと見逃したというのか?


拓海のカットボールはストレートと対してスピードが変わらないから確信していない限り何かしら反応を示すはずだ。


もしそれがそうだとしたら、完全に相手をナメきってないと出来ない所業だ。


テレビの事といい、さっきの挑発といい…。


ホントに野球をナメてんじゃないのか?と言いたくなるような態度を見せるやつだ…。


「なあ?」


杉浦がオレに話しかけてくるが、気にせずに次投げるボールのサインを出す。


「楠瀬に本気で投げてこいって要求してくんねぇすか?」


打つ気がない杉浦に対し、2球目はチェンジアップを真ん中に投げ込む。


「いやほらオレらが勝つのに決まってるからさ、せめてものの手向け的な感じで本気で投げてきてくれるとありがたいんだよね?」


「………」


こいつ口の聞き方がなってねぇな…。


聞いててこっちがイライラしてくる。


マウンド上の拓海が感情を出していない以上オレが感情剥き出しにしてもしょうがない。


けど、こいつの戯れ事を一々聞いていると耳が腐りそうだ。


「いやー、ヘボピッチャーをリードするキャッチャーを同情しますよ。もしキャッチャーが優秀でもピッチャーがヘボいとどうしようもないですからねぇ?」











「お前、そろそろ黙っておこうか?」












ーーーードォォォン!!!!







「ストライク!バッターアウト!!!」


右手にはめているミットから右肩にかけて、ボールの衝撃が伝わってくるような勢いのあるボールがミットに収まる。


杉浦の懐を抉った拓海のストレートは、拓海のこの夏最速となる『154km/h』という数字がバックスクリーン下部の電光掲示に表示されていた。


「オレとしては本気で相手してやってもいいんだけど、うちのエースが本気を出すに値しないって判断したんじゃない?ちなみに今のは無理矢理サインで全力で投げさせただけだから勘違いすんなよ?」


杉浦に、そして相手チームはこれで少なからず動揺を誘ったはずだ。


けどオレは、自分勝手にサインを押し通したことを一言言いたくなってマウンドに駆け寄った。


「わりぃ。頭に血ぃ昇っちまった。」


「お前らしくないなーとは思ったけど、まぁ相手にダメージ与えられたんだからいいんじゃねえ?」


そう言ってくれると助かるわ…。



「とりあえず落ち着いて行こーぜ?」


そう言った後、ホラホラと背中を押されホームベースに戻された。


そうだな。司令塔のオレが頭に血が上ってちゃあかんよな。


オレはミットを外しバシバシと頬を両手で叩き、マスクとミットを身につけ守備に着き直した。



Side out




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