第56話 最後の夏、始まる
盛大に開催された開会式から3日たった今日。
オレたち光南高校の初戦である。
春の甲子園を制したオレたちは、王者であると共にわずか7校しか成し遂げていない春夏連覇へ挑む挑戦者でもある。
さぁ、間もなく試合開始だ。
………見たことのない景色、見に行こうか。
Side S.Minase
オレは午後の練習までの少しの合間を縫って、楠瀬がいる光南高校の初戦をテレビで観戦していた。
『試合終了ー!!春の王者光南高校終始危なげない戦いで勝利を飾り、2回戦進出ー!!』
光南高校が2回戦に進出すすることを確定させた瞬間テレビの電源を消した。
今日の楠瀬のピッチングを感想を一言で表すなら、何だかこれじゃない感が半端ない。
春のセンバツの時は今思うと春先だからということでセーブして投げていたとなると納得が行くが、夏なら別にセーブすること無いか?
………まさかホントにモデルチェンジをしたのか?
今日投げた球数の7割方変化球という変化球主体で組み立てていた。
……キャッチャー変わるだけでリードや配球は変わるけどここまで変わるか?
それが作戦だというなら仕方ないけど、オレ個人としてはアクセル全開の楠瀬を打ち砕きたいものだ。
「水瀬ー。早く練習行くよー。」
「ああ、今行くよ。」
午後の練習に向けて、バットケースとエナメルバッグを持ち宿舎の自分の部屋から出た。
Side out
オレはその日の夜、またしても同部屋となった蒼井と水野で夜中にやる甲子園に関する番組を見ていた。
今日の第1試合では、なんでも全国から選りすぐりの1年生を集めた神奈川県代表の桐央学園に注目を集めていた。
キャスターの今年の目標は?と聞かれて答えたことはというと、『水瀬がいる浦話学院と楠瀬がいる光南高校をぶっ倒して日本一になる』と言ってのけた。
「なんかこいつ調子乗ってますね。メディアを通じてケンカ吹っ掛ける辺りが特に。」
「杉浦 慎太郎っつったか…?大したもんだよ。15なのに物怖じせずにケンカ吹っ掛けてくるんだ。」
蒼井が水野がそれぞれこの発言に対して、素直に言っていたけどオレはというと『別にそれがどうしたの?』って感じで流していた。
この杉浦は確かにいいピッチャーだし、強気な性格がそのまんまピッチングに出てる。
打線も1年生と思えないくらいしっかり振り込まれてる。
だけどさ、自信と慢心は違うと思うぞ?
「さ、そろそろ寝て少しでも体力回復に努めようぜ?」
いつの間にか杉浦の発言を聞いた後の談義でさらにヒートアップしていた蒼井と水野を宥め、テレビを消して睡眠を取ることにした。
その後オレたちがいる光南高校や水瀬がいる浦話学院、オール1年生で固められた桐央学園、春準優勝の日経大三高などがベスト8まで勝ち上がり、そしてベスト8後の抽選の結果オレたち光南高校の準々決勝の相手は神奈川県代表の桐央学園となった。
Side out