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夏の空へ……  作者:
Last Episode 3年目
56/78

第55話 いつ帰ってきたの?

「………。」


「えっと……あうあう…、拓海くん?この方は…?」


「あらあらー。拓海ってば雪穂ちゃんはどうしたの?それにこの娘のこと説明してくれるかしら?」


黙りこくるオレに、この状況…というかこの重たい空気を察しあうあうし始める結衣に能天気な笑みを浮かべて説明を求める謎の人物。


改めましてただいまの時刻は午前10時になりました。


みなさまおはようございます。楠瀬です。


わたしは今………、修羅場を迎えています。


何故このようなことになってしまったのかと言いますと、ことの発端は今から3時間ほど前まで遡る………。




ーーー3時間前…。



「んがっ………、のわっ!?」


オレは寝返りを打つが、ソファーで寝てしまっていたことをすっかり忘れてしまい背中からソファーから転落してしまった。


「いっててて………。ん?」


痛みで強制ウェイクアップとなったオレの鼻の奥に届いてきたのは、今日のような清々しい朝に相応しい味噌汁の臭いだ。


きっとまた結衣が朝メシを作りに来てくれているのだろう…。


そう思いキッチンに顔を出したが、そこには結衣がいなかった。………その代わり、


「あら。もう起きたの?おはよう。」


「………おあよ。」


「朝御飯出来てるから顔洗っていらっしゃい。」


「うん。だけどその前にいろいろと積もる話もあるんだろうけどさ、1つ質問していいか?」


「なに?」


「いつ帰ってきたの?………母さん。」


オレの実の母親がそこに立っていた。







そんでもってそこからの展開としてだが、結衣が家に上がってくる→母さんの存在に気付く→同時に結衣の存在に気づいた母さんがオレに笑顔で問い詰めてくる→落ち着かせるために2人とも席に座らせる←冒頭の下りに…言うわけだ。




「えっと…、結衣?オレが座ってる前にいるのがオレの母さん。母さん?オレの隣に座ってるのがオレの恋人………になるのかな?とりあえず友達以上の存在でオレの学校の同級生の滝沢 結衣だ。」


「始めまして………。拓海くんの学友の滝沢 結衣と申します。」


「始めまして、拓海の母親の楠瀬くすのせ 彩菜あやなです。よろしくね、結衣ちゃん。」


2人とも挨拶をするが、ガッチガチに固まっている結衣に対してさっきも言ったが、能天気な笑みでこちらを見ている母さんと2人の表情に思いっきり差がある。


「………拓海?」


「なに?」


「コーヒー飲みたくなっちゃったから、スーパーにお使いにいってもらえるかしら?」


「………へいへい。」


「あ。あと買い出しのメモもあるからそれらもついでに買ってきてちょうだい。」


「………1度に頼めよ。」


オレは母さんからインスタントコーヒーや買い出しのメモに書かれているもののお使いという名の口実を使い、結衣と2人きりで何かを話そうとしていた。


うちの母さんも赤の他人を取って喰うような真似をするような人じゃないから、余程のことがない限り大丈夫………だと思いたい。


「ほんじゃ、行ってきまーす。」






Side Y. Takizawa



「ほんじゃ、行ってきまーす。」


お使いを頼まれた拓海くんは、しぶしぶ出掛けていった。


なにやらぶつくさ愚痴を溢していた拓海くんの声や気配が完全に無くなったのを確認した彩菜さんは、唐突に話を切り出してきた。


「えっと…結衣ちゃん…だっけ?」


「はい。」


ただでさえ気まずい空気なのに、余計に重くなった気がした。


え?なに?『あなたのような泥棒猫にわたしの息子は渡さないわー』とさ『わたしは雪穂ちゃん以外の人に息子を渡す気はない』的なこと言われるの?


さっきからピクリとも崩さない笑顔が逆に怖い。


ダレカタスケテー。チョットマッテテー。


って一人でコール&レスポンスやってる場合じゃない!


「うちの息子が随分と迷惑をかけているようで…。母親であるわたしからお礼をさせてちょうだい。本当にありがとう。あなたのような優しい女の子ならバカ息子を差し上げてもいいかもしれないわね。」


一人でパニックに陥っていたら、お礼の言葉と共に彩菜さんが頭を下げてきた。


「いえいえ、とんでもございません!!わたしなんかより拓海くんの方がずっと優しいですよ!」


「あの子は他の人のことに機敏な割に自分の事になると抱え込んじゃうような子だから…うちの息子のことよろしくお願いね、結衣ちゃん。」


そうお願いしてきた彩菜さんの顔は、とても優しい笑顔を浮かべていた。



Side out





「ただいまー。はー…、疲れた。」


昼前だとはいえ、気温もみるみる上昇していく時間帯だし昨日の疲れもまだ残っているので、スーパーへの買い出しだけでも疲労を感じてしまっている有り様だ。


「おかえり、拓海くん。荷物何個か持とうか?」


「おー。んじゃこれお願いするわ。」


玄関の勝手口にいた結衣に比較的物が入っていない荷物を渡し、リビングを経由してキッチンの冷蔵庫に買ってきた食材などを入れていく。


ちなみに母さんはというと少し早いけど昼メシを作り始めていた。………何だか生地みたいなのをこねてるけど、もしかして手打ちのうどんか…?


「そういえばさ、あの後母さんと何話したんだ?」


「何って…ねぇ?彩菜さん。」


「ねぇ?結衣ちゃん。」


「?」


純粋な興味心で聞いてみたけど結衣も母さんの間に何があったのか、詳しくは教えてくれなかった。


「あ、そうだ。拓海?」


「ん?」


「甲子園どの試合になるか分からないけど、お父さんと一緒に観に行くから。」


「出来るだけ早く来てくれよ?決勝とか準決勝まで勝ち上がれる保証なんてねぇんだからよぉ。」


「はいはい。拓海はやればできる子なんだから。頑張りなさいよ?」


「へいへい。」


何だかあしらわれているのか、激励されているのかよく分からんけど生憎今のオレの頭の中では高校球界最強のスラッガーのことで頭がいっぱいとなっている。


口ではこう言ったが、ヤツと当たるまでは負ける気はさらさらない。







日本の夏を彩る夏の戦いを知らせる足音はすぐそこまで迫っていた。



Side out

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