第54話 え?もうそんな時間なの?
昨年はホントに一部分的にだが大きな事件となった学園祭は今年も6月に開催された。肝心の内容はというと特に大きな事件も事故もなく平和に終わった。
そしてこの時、結衣はオレに思いの丈をぶつけてきた。
が、オレは答えることができなかった。
未だに進路が決めきれないのに答える資格がないと思っているから、この夏が終わり進路が決まるまで待ってくれ。と我ながらヘタレた解答だと思っている。
でも、秋口には解答を出そうと思っている。
学園祭から2週間後に始まった最後のチャンスとなる甲子園への戦いが始まった。
だが、センバツが終わってから誰一人慢心もなく練習を積み重ねた結果準決勝までの試合では10点差以上をつけて勝ち上がってきた。
そして今は、夏の甲子園予選決勝戦ツーアウトランナーなし。
相手は何かと縁がある『機動破壊』を掲げる大館清峰高校。スコアは14対0と決勝戦でも大館清峰を完全に見下しながら投げることができている。
帽子を被り直そうとするが、手元が狂って帽子を落としてしまう。
『甲子園春夏連覇!!』
帽子のツバの裏側に書かれた文字は甲子園予選の開会式の前日に結衣がオレの帽子をマンションの自室に持っていき、開会式に出発する直前に被せてきた。
全く、連覇することがどれだけ大変なのかお前も分かってるくせに…。
なんて笑える余裕があるくらい、オレは案外この3年間で肝っ玉が据わってしまったかもしれない。
帽子を拾い被り直し目の前にいる新城はサインも出さずミットを2回3回と叩き、グッとリストに力を入れて構える。
「あと1つキッチリ締めていきましょう!!」
「ツーアウト!!」
蒼井は相変わらず大きな声で内野陣を盛り上げ、水野はいつ自分のところに打球が飛んできてもいいように常に身体を動かしていた。
後ろから聞こえてくる信頼できる奴らの声を聞きながら、新城が構えるミット目掛けて思いっきり腕を振りきった。
Side S.Minase
ーーー………ォォン!!!
ーーー………ォォンッ!!!!
「水瀬ー。いつまでバット振ってんのー?」
「え?もうそんな時間なの?」
近くにきた吉見の声と存在でバットを振るのを止める。
さっきバットを振り始めたと思ったら、いつの間にか消灯時間近くになっていた。
最後の年の夏の甲子園で楠瀬と戦えるということが、自分で思っていたよりもハートに火をつけてしまったみたいだ。
「あとちょっと振ってから帰るよ。」
「水瀬はあとちょっとが長いんだから、早く帰るよー。」
「………分かったよ。」
オレは吉見の主張に半ばしぶしぶといった感じでバットをバットケースに閉まい込み吉見の後に続き、寮に帰ることしにした。
…オレたちと当たるまで負けんじゃねえぞ?
Side out
「ただーいまー…。」
疲れた。マジで疲れた。
今日はもう動きたくないって愚痴を言いたくなるくらいに疲れた。
え?なに?若者がそんなに疲れた疲れた言うなって?
若者でも疲れるときゃ疲れるんですよ。
左肩から提げていたエナメルバッグを置き、試合が終わってから制服に着替えたがシワがつくことなど気にせずにソファーにダイブした。
そしたらすぐに猛烈な眠気がやって来たのでその睡魔に身を委ねた。
あぁ~…この眠りに落ちていく感覚が最高なんじゃ~………。
だが、オレは気づかなかった。
バッグのなかに入っているスマホが着信を知らせるイルミネーションが光っていたことを………。
Side out