第53話 立ち止まる自分
「えーっと………。これはどういうこと…かな?」
担任である若い女の先生に進路指導室に呼ばれ、進路希望調査紙を担任に提出した。
まだまだ不透明な進路なので、進学希望の欄にも就職希望の欄にも丸印をつけずその他の欄に丸印を着けたが何も書かずに提出した。
「そのままの意味です、今の時期にはまだ何も…。」
「今の時期って………。もうそろそろ6月よ?他の生徒たちも次々と進路を決めているって言うのに………。」
「そうですか。」
「そうですか。って…。ホラ、水野くんみたいにプロの世界にとか、椎名さんみたいに大学に進学したり………とか?」
「………。」
他の人たちと比べられても困るんだよなぁ…。
オレは水野とか椎名と違ってスポーツの世界でお金を稼いだりとかできない人種だと思ってるし、プロの世界で通用しないとも思っているくらいだ。
「とりあえず分かりました。夏の大会が終わってからでもいいからもう1回来てください。それでも決まらないなら一緒に考えましょ?」
オレは無言で立ち上がり、ドアの前まで行き、回れ右をして先生の方向に振り返る。
「失礼しました。」
「ねぇ、進路決まりそう?」
練習後、家に帰り数少ない楽しみの1つとなった結衣との夜メシ時に唐突に結衣が進路のことを切り出した。
数多くはないけど関わりが深い友達のなかで唯一結衣にだけは進路が決まらないことを相談というかつい独り言をポロっと漏らしてしまい、進路について悩んでいることを知らされてしまった。
「………わりぃ。まだハッキリとしてない…。」
「…そっか。わたし個人的にはプロ野球のマウンドで投げてる拓海くんを見てみたいけど、進路のことは拓海くんが1番よく知ってるんだもんね。無理に考えすぎるのもよくないと思うよ?」
と、結衣は言ってくれるけど実はというとオレが1番よく分かっていないということは誰にも知らないはずだ。
「………おう。」
「わたしインターハイ予選近いから食器洗いお願いね?じゃ、お休み。」
来週にインターハイ予選を控え、1秒でも身体を休めるためなのかオレが考え事をしているうちにいつの間にか食べ終えたのか、手を合わせたあと座席から立ち上がり食器洗いを頼むと言い残しオレん家から出ていった。
「ああ、お休み。」
風呂から上がり、何気なくテレビを点けるとそこにはベースボールの最高峰であるメジャーリーグがやっていた。
マウンド上には今年東北の球団からポスティングシステムを使い、ニューヨークにあるチームに移籍したピッチャーがメジャーリーグの強打者に真っ向勝負しているところだった。
………それにしても、すごいな。
メジャーでも連勝記録を伸ばし続けているし、一昨年のシーズンから負けなしだって言うし。
それに比べてオレはどうだろう………?
プロどころかこの先も将来の進路も決めきれず、うじうじと立ち止まって…。
「………やめよ。卑屈に考えんの。」
オレはテレビの電源を消し、ストレッチをしてから変な考えをする前にさっさと眠ることにした。
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