第48話 お荷物はこちらになります
ベスト8が掛かった春のセンバツ2回戦。
この試合に勝利すると、最後のベスト8進出となる。
そして試合は両チーム無得点のまま、終盤7回表ツーアウトランナーは3塁というところで今日の試合3番に入っているオレに打席が回ってきた。
「拓海さん!!ここで1本頼みます!」
「拓海!!ここで試合を決めちまえー!!」
サードランナーの蒼井が、ネクストバッターズサークルからは水野がそれぞれオレに向けて声を張り上げている。
サードランナーの蒼井を目で牽制したピッチャーがボールを投げ、オレはボールを自分のミートポイントまで引き付けて一気にバットを振り抜いた。
「それにしてもやっぱ拓海さんバケモンだわ…。」
「いきなりなんだよ…?」
試合が終わり、オレの部屋でオレと水野と蒼井の3人で小さな反省会というか雑談していたけど、いきなり蒼井がオレをバケモン扱いしてきた。
「いや普通に考えてインコースのそれもボール球をバットの真ん中らへんで捉えた打球を逆方向の外野の頭越します?」
「普通に考えると無理だな。オレの場合だとせいぜい内野の頭越すのが限界だ。」
どうやらこの2人が話していることは、先制点をあげたタイムリーツーベースヒットのことを話しているようだ。
つーか水野くん?あなた木のバットでしょ?それで外野の頭越したらプロでホームラン王どころかメジャーリーグでもホームラン王狙えるよ?
オレからしてみれば水野の身体能力と芯を食った時の打球の速さに蒼井の尋常じゃない肩と走力の方が羨ましいわ。
ーーーピリリ!ピリリ!!
「フロントから?オレらそんな大きい声で話してたか?」
「そんな大きな声で話してたつもりないよな?蒼井ー、ちょっと出てくれー。」
なんてそれぞれが部員の中で羨ましいところの談義をしていると、部屋の電話が鳴り出したので蒼井に出てもらうように
頼む。
「はい。どうされましたか?………はい、…はい。少々お待ちください。」
1番近かった蒼井が応対していたが、受話器の通話のスピーカーの部分を手で塞いでこちらを振り向く。
「拓海さん、フロントからで何でも拓海さんにお客さんだそうなんすけど心当たりあります?」
「オレにお客さん?………誰だ?」
心当たりが全くといってもいいくらい無いので誰がオレを呼んでいるのかすら分からない。
その疑心暗鬼の心を拭えないまま、電話応対する。
「お電話代わりました、楠瀬です。」
『もしもし、楠瀬さんですか?楠瀬さんに御用事がありました方は時間がないからと仰いましてつい先程帰られてしまいまして…。』
「そうですか。」
『ですがお預かりしている物が御座いますのでお時間の方都合がつきましたらフロントの方までよろしくお願いします。』
「分かりました。では、失礼します。」
オレはフロントから全ての用件を聞き出したので、受話器を置く。
「あれ?水野はどこ行った?」
「ついさっき部屋から出ていきましたけど、電話の内容は何だったんすか?」
「ん?オレに荷物だとさ。」
「なーんだ………、んじゃオレ軽くバット振ってきますねー」
後ろを振り向けば水野は自分の部屋に戻ったのか、オレたちの部屋に水野の姿は無かった。そして興味津々の蒼井が目を輝かせて電話の内容を聞いてきたが、大した用事では無いと伝えるとつまらなさそうにしてバットを持って出ていった。
「すいません、先程お電話頂いた楠瀬です。」
「楠瀬様ですね。少々お待ちください。」
オレは夜メシ後のミーティングが終わり消灯までの僅かな自由時間を使い、日中電話を頂いた件についてフロントに足を運んでいた。
………それにしてもオレに用事とか一体誰がそんなことしたんだよ?
「楠瀬様。こちらでお預かりしているお荷物はこちらになります。では確かにお渡し致しましたので。」
フロントの人はオレに荷物というのはあまりにも軽い物を渡し、フロントの裏の事務室に戻っていった。
メモ用紙?いや、これは………手紙か?宛名は…書いてない。
余計に疑問が疑問を呼び、このままでは埒があかないので手紙に張られているシールを剥がし中身の文を読んでみた。
だが、そこには書道家が書いたような綺麗な『プライベート用携帯電話』言う文字と羅列された11桁の数字にコミュニケーションアプリのID…、さらにメールアドレスが書かれていた。
Side out