第47話 蒼き瞳の少女
オレは公園の真ん中で歌を歌っている少女の姿に見とれていた。
クリスタルブルーとアイスブルーのオッドアイもそうだけど、何よりそれを引き立たせている金髪がキラキラと輝き、彼女雪のように白い肌が傾きかけた夕陽に当たりオレンジ色に染めているのがまた何とも神秘的な雰囲気を醸し出している。
「すっげ…。」
「!!…誰!?」
思わず漏らしてしまった言葉に敏感に反応した少女は歌うことを止め、警戒するような目付きでこちらの方向を睨む。
「えっと…すいません。怪しい者じゃないです。ただこの辺の宿で泊まってる通りすがりの者でして………」
とりあえず少女の警戒を解いてもらうため、怪しい者じゃないということを主張する。
女性とは言え、初対面の人に鋭い目付きで睨まれ続けるとこちらとしても話しづらいし何よりいい気分にはならない。
「そうでしたか、こちらこそすみません。いきなり睨んでしま……。」
謝罪のため頭を下げた少女だったが、頭を上げた瞬間その謝罪が止まっていた。
「あなた………、もしかして光南高校の楠瀬 拓海くん?」
「何故オレの名を?」
何でオレの名前知ってんだ?そんなに大それたことをやった覚えもないし、甲子園でもノーヒットノーランとかの大記録を打ち立てた記憶もない。
「何故って………わたし野球大好きだし、それに今大会の注目投手だってニュースでもやってたし、ファンの間では騒がれているじゃない!」
「そうですか…。」
それは知らんかった。
オレみたいなピッチャーが注目されているなんて知りもしなかったわ。
オレ基本的にテレビとかそんなに見ないし。
「失礼ですが………、あなたは?」
「わたし?わたしの名前は………」
「なぁ、水野?篠咲 玲奈って知ってるか?」
オレは宿に戻り、早めの夜メシを食べてる時に右隣の水野に先程会った少女の事について聞いてみた。
「オレも名前とアイドルでモデルやってるってことくらいしか知らねぇわ。その辺の事なら壮大の方が詳しいから壮大に聞いてみるといい。」
と首をメシが乗ってる皿に向けたまま素っ気なく答え、皿の上に乗っていたローストチキンをものの2口で平らげそのまま物凄い量の白米を口の中に流し込んでいた。
食うこともアスリートの仕事だけどさ、お前ホントにちゃんと噛んでメシ食ってんのか…?
それにしても蒼井かぁ…。あいつに聞くと『拓海さんでもアイドルとかに興味持つんですね!!でもいいんですか?滝沢さんという存在がいるのにそんなホイホイとアイドルのファンになったら滝沢さんきっと泣きますよ?』的なこと言うだろうし…。
いや、言わない訳が無い。
かといって聞く相手もいないし…。
やれやれ、部屋に戻ったら聞いてみっか…。
「………てなわけです。それにしても拓海さんでもアイドルとかに興味持つんですね!!やっぱり拓海さんも年頃の男の子ですね!でもいいんですかー?きっと滝沢さんに拓海さんがサキの大ファンだっていうこと聞いたらきっと泣いちゃいますよ?」
うん。こうなるってことが分かってたよ、こんちきしょう。
結衣は彼女じゃないって何回言ったら分かるのやら…。
蒼井の話を要約すると、元々は子役で3年前からアイドル業を始め、その数ヶ月後にティーン雑誌のモデル業も始めたらしい。その抜群の美貌とプロポーションで一躍トップアイドルと人気モデルの地位を得たらしい。
『篠咲 玲奈』という名義はアイドルの時だけでモデル業の時はサキという名義を使っていて、どちらかと言えばアイドルの方がなんだとか。
でもそのアイドルが、現地の人には失礼かもしれないけどあんな辺鄙な公園にいたんだろうか…。
うーむ…。気になる。
Side out
Side S. Shinosaki
明日の予定をプロデューサーさんから聞いて、今日勝手な行動をしたことを謝った後ホテルの自室に入った。
自分の部屋に入った後、今日公園で会った『楠瀬 拓海』という一人の少年を思い出す。
実というとわたしはロケを途中で抜け出し、近くにあった公園でたまったストレスを吐き出すように歌っていた時に現れた少年。それが拓海くんだった。
わたしと同い年で、世間では『世代最強エース』や『甲子園の申し子』などと呼ばれているピッチャー。
彼の投げる姿はあくまでわたしの主観の話だけど、周囲の目を惹き付ける何かを持っている…。
何気なく点けたテレビの画面は、今日の光南高校の試合が写し出されていた。
………もう1度会ってお話ししてみたいなぁ。
わたしは、テレビの電源を消して明日の朝イチのロケに備えて早めに床についた。
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