第46話 メシまでには戻る
「楠瀬。肩や肘に張りとかは無いか?」
「無いっす。」
昼メシを食べ終えた後アイシングをしていたが、昼メシの時間の終わりと同時に右腕に巻かれていたベルトをベリベリと剥がしていると監督がやってきた。
実はというとこのセンバツでは大場監督から全力で投げることを控えろと言うことを甲子園入りしてから通達されている。
冬の時期に投げていて暖かくなってくる気候だとはいえ、春先に肩肘を痛めたりしたらたまったもんじゃない。
「そうか。今日明日とゆっくり休め。」
「はい。」
だけど慣れない事をしたから普段の試合より疲れた…。
「拓海さん、お疲れさまっす。」
宿舎の部屋に戻り昼メシを食べ終えた後、監督と話し終えたところで部屋に入ると1つ下で光南高校のリードオフマンである蒼井 壮介が甲子園の試合をテレビで見ていた。
「お疲れ。今日は調子よかったみたいだな。お陰でのびのびと投げることができた。」
蒼井は今日先頭打者本塁打を含む6打数4安打3盗塁と大暴れ。
守備でもチームNo.1の足と遠投110メートルの強肩を生かした広い守備範囲で、かなり助けられた。
「そういえばスマホなってましたけど…、もしかして滝沢さんですか?」
なぜお前が知ってるんだ…。
「いやだってオレんち滝沢さんが一人暮らししているマンションの隣の部屋ですし?引っ越してきた時にウチに挨拶来ましたし。」
いや知らねぇよ。ってか興味ねぇよそんな情報。
「分かんね…着信履歴見なきゃ分かんねぇよ。というか蒼井、心読むな。」
「まぁいいじゃないっすか。ホラホラ、女の子待たせるなんて彼氏として恥ですよー?」
「彼氏じゃねっての。」
オレはスマホのスリープ状態から解いて、着信履歴を見てみる。
蒼井の言う通り着信というか、メッセージ履歴の相手は結衣で簡単に言うと『ナイスピッチング』というメッセージだけだった。
特に急ぎで返事しなくてもいいかな…?
オレは結衣からのメッセージを見た後ジャージとパーカーを羽織り、財布とスマホををジャージのポケットに音楽プレーヤーをパーカーのポケットそれぞれ突っ込む。
「蒼井ー、メシの時間っていつだっけ?」
「メシの時間っすか?確か6時からじゃなかったでしたっけ?何処かに行かれるんですか?」
6時か…。なら時間があり余るな。
「ちょっくら散歩行ってくるわ。メシまでには戻る。」
『ありあとやっしたー。』
やる気無さそうな店員の挨拶をバックにコンビニから出て、ゆったりとした歩調で宿舎に戻る。
今回のシャンプの新連載何だがハズレの予感しかしねぇ作品だったな。マンデーやマガズィンなら続くだろうけど、シャンプで正統派野球漫画は続かないと思うなぁ…。
さって…。メシの時間までどーすっかなぁ…。
「~♪」
………?どっからか歌声が聞こえたような?
「~♪~~~♪」
どうやら空耳ではなかったようだ。
この近くは…そこの公園からか?
オレは声を頼りに、歌声が聞こえてくる方向に向けて歩き始める。
それにしても透き通った歌声だ。何だか聞いてて落ち着くっていうか心地よいって言うか…。
ストレートに心に響く感じだ…。
オレは公園の出入口の近くまで歩いた。
すると、そこには金色に輝く長い髪をハイトップでまとめ、クリスタルブルーとアイスブルーのオッドアイをした美少女が小さい公園のど真ん中で歌っていた。
Side out