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夏の空へ……  作者:
第2章 2年目
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第44話 強化の冬

さらに季節は流れ、冬。


身を凍えさせるような冷たい風が雪と共に容赦なく吹き付ける。


そんななか光南高校硬式野球部は春のセンバツ出場へ期待を寄せながら練習を続けていた。


ーーーカァァァン!!


ーーーカァァァン!!!


ーーーガァァァン!!!!


「ッ!!……ってぇ。ちっ、マメが潰れちまった。………うわっバットにもヒビが入っちまった。あとの残りはスイングにするか…。」



あるものは室内練習場でピッチングマシン相手に修羅のごとく手に出来たおびただしい数のマメを幾度もなく潰してバットを振り込む者もいれば…、




ーーーパァァァン!!




「だぁー………。新城、もう20球プラスしていいか?」


「いいけどよぉ…。そろそろオレもバッティング練習させて欲しいかなーって。」


「何かしっくり来ねぇんだよなぁ。リリースに問題あんのかねぇ…?」


「何を悩んでるか分かんねぇけど、投げるならさっさと投げろ。」


「分かった。いくぞ!」


雪が積もった野球場の隣に建てられた室内ブルペンで、己の投げるボールに納得行かずにひたすら何かを磨くかのようにボールを投げ込む男の姿もあった。





「くぁ~……、寒さが身に染みるー…。」


「お前はまだいい方だろ。またマメ潰しちまって寒さが手の中に突き刺さってんだから。」


暖房が聞いている室内練習場に移動し、クールダウンとアイシングとストレッチをやろうとしたらちょうど新主将となった水野がバッティング練習を終えたところだったので一緒にダウンを取って、現在帰宅中。



寒さが突き刺さると言うように、痛々しく潰れたマメがホントに痛そうだ。


ダウンの時に聞いた話だと、バッティング練習で何本ものバットが耐えきれなくなってヒビが入ったり折れたりしたらしい。


今日もバットにヒビが入ってしまったらしく、ノルマの残りの数はバットケースの中に入っている素振り用のマスコットバットでスイングをしていたらしい。


「確かノルマ1日2000スイングだっけ?」


「最初は1000だったけど、徐々に増やしていって今は2000だな。」


「スイングも変わったよな。」


「まあな。お前は何だったっけ?」


「ポール間走。設定タイム切れなかったらプラス1本だ。」


「そうか…。」


これらの練習は、全て自分で決めた大会期間中を除いた夏までの自主練のノルマだ。これ簡単に言ってるけど、尋常じゃないくらいツラいし時間がかかる。


途中途中で、アミノヴァイタルとかのサプリメントを飲まないと正直身体が持たん。


「あ。オレこっちだわ。」


「またなー。」


「おう、またなー。」



水野と別れて数分。家に着いたけど、正直家の敷地内に跨がりたくない。出来ることなら今すぐ回れ右をして、学校に帰りたいくらいだ。


だってさ、こっからが地獄なんだよ…。


何が地獄かって?












「………おかわり。」



オレは丼に盛られたメシを食べ切るが、追加でおかわりを頼む。


「はいはーい。ちょっと待っててねー。」


今ではすっかりキッチンに立つ姿が様になってきている結衣に空いた丼を託し、その間オレはと言うと口の中に残ってる物を水で強引に体内に流し込む。



「お待たせー。」



ドン!!!とオレの目の前に置かれた丼の中身は、これでもかというくらい白米を主張している。


そう。監督からのそれぞれ家庭でメシを食べて増量キャンペーン実施中だからだ。


ちなみにこれで丼で3杯目だ。


1杯目は普通に食べ、2杯目は塩をかけて食べた。


このままじゃ食べきれそうにない…。


こうなったら奥の手、奥の手を使う。







「げふっ…。」


凶悪な量のメシを食べ切ったオレは、腹の中の空気を漏らしながらリビングで横になっていた。


3杯目は納豆と生卵を混ぜた、『納豆卵ご飯』通称NTGで食べ切った。


「まるで妊婦さんみたいだねー。」


今の今まで洗い物をしてくれていた結衣が、オレの隣にちょこんと座りオレの腹をさすってくる。


「女性ならいつか体験するだろ。」


「ふにゃっ!?にゃにをいってるの?」


いきなり顔を赤くして、テンパり始める学年のアイドル。


あなたは一体どんな想像をしているんですかねぇ…。


さすってた手がバシバシと叩きはじめていて、正直苦しいのに腹叩かれるのは勘弁願いたい。バレー部のしかもインターハイのベストサーバーだぞ?痛いってレベルじゃないんだぞ?


下手したら紅葉咲いちゃう。


「っていうか腹をバシバシ叩くのやめて?リバースしてリビングが阿鼻叫喚状態になるで?」


「あっ…。ごめん。」


しゅんとなってバシバシ叩いてた手をどけ、何処にやる訳でもなくテーブルの上に上がっているココアが入ってるカップに手を添えた。


ねぇ、マジこの可愛い生き物なんなの?


今なら言える。結衣ちゃんマジ天使…と。


幼馴染ゆきほはどうしたのかって?知らん。


だって何だか妙によそよそしかったんだけど、最近になってさらによそよそしくなってオレの姿を見ると逃げ出していくんだけど………オレ何もしてへんよー?




でも、雪穂がいたにしろ結衣がいたにしろこんな平和な一時を満喫できるオレって…恵まれてんよなぁ…。



今というこの瞬間をゆっくりと味わいながら、オレは首だけを傾けガラス越しに外の景色を見てみた。


(クリスマスや年越しが終わって、少し練習したらセンバツまですぐそこか…。)


帰ってくる時に降っていた雪は止み、キラキラと輝くダイヤモンドダストを見つめながらまだまだ先の春の訪れを願うのだった。


そしてこの少年が『怪童』水瀬と並ぶ、『世代最強エース』と呼ばれることになろうとはまだ誰も知り得なかった。



Side out



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