第43話 1回分。やります
なぜ空って青いんだろうか…?
なぜ雲は白いのか………?
オレは右手を額の上に当て、真上を見上げる。
「おーい、戻ってきてー。拓海くーん?聞いてますー?」
おっと、いきなり現実逃避から始まってすまない。
でもさ、こうでもしないとやってられねぇんだよ。
何でかって?そりゃおめぇよぉ…、
座ったオレとほぼ同じ高さのお買い上げして、横積みになってる買い物袋を見たら誰だって現実から逃げたくなるだろ?
いや凄かったよ?
新しく買い直すバレーシューズから始まり、冬物の服から古くなってしまったっていってお鍋等の調理器具やら…。
ここまでなら何も問題は無かったし、こんなお話の冒頭のような現実逃避なんてしなかった。
だけどさ、最近胸がキツくなってきたどーのこーのでランジェリーショップまで連れて行かれたときは目から汗や液体の塩化ナトリウムが出てきそうになって、着ているカッターシャツの袖を濡らしそうになったんだから。
女性店員の視線が刃物のように鋭くレーザービームのように打ち抜かれた結果、オレのSAN値が直葬されそうになった。
………なんか練習の時より疲労が重いのは気のせいですよね?
んでなんやかんやあって、昼メシ。
屋上はテラスとなっていて、軽食のフードコートとなっていた。
休日とあって小さな子どもを連れた親子や、オレたちより若い中学生カップルがイチャついていたりしている。
おう、そこの中学生カップル。
なんだ?彼女いない歴=年齢のオレに対しての嫌みか?
「拓海くん!拓海くんってば!!!」
「!?…どうした?」
「どうした?じゃないよ!さっきから呼んでたのに…。」
両手でお盆を持っている姫様は、ぷくーっと膨らました頬は『私怒ってるんだからね?』と主張しているように少しだけだが不機嫌そうな表情をしている。
「ごめんごめん、ちょっと遠くの若年カポーにこの世の理不尽さを教えようとしてだな…。」
「いいよそんなことしなくても!」
と人だかりができている屋上のテラスで片手に持っているハンバーガーを持っている女性に叱られてショボンとしている体格のいい男性がいた。
…というかオレだった。
「それにしてもこの屋上遊園地みたいだね。」
オレのお金で食後のデザートとして食べていたクレープから口を放した結衣がそんなことを言ったので、改めて屋上を見渡してみる。
確かに言われてみれば空中ブランコやミニコースターなどがあった。だが、そんななか1つだけ明らかにおかしいアトラクションがあった。
………なぜここにストラックアウトがあるんだ?
「結衣?」
「なぁに?」
首を小さく傾げながら、返答してくる。
やべぇ。何この生き物すっげぇ可愛い。
「あそこにストラックアウトがあるんだけどさ…、あれ………どう思う?」
「すごく………違和感ありです。」
おぉう………。オレが予想していたリアクションが帰ってきた。オレ的にポイント高いぞ?
「食後の運動がてらちょっくらやってくるわ。」
「待って待って!私も行く!!」
ストラックアウトの前にやってきた。
「すんません。ストラックアウト1回いくらですか?」
「いらっしゃいませ!1プレー12球で200円になります!!」
いかにもスポーツやってましたって感じな爽やかなイケメンが爽やかに応対してくれた。
「ちなみにパーフェクト達成したら何が貰えます?」
ビンゴ数別に書かれた賞品の題目に、パーフェクトのところだけ空欄だ。あくまで純粋な興味本意で聞いてみよう。
「パーフェクトですか?実は内緒なんですけど………にパーフェクトを達成した人限定でペアリングが貰えるんですよ。あっ…もしかして彼女さんにプレゼントですか?」
「か………かの………っ!!」
後ろで顔を真っ赤にしている結衣を置いておき、もう1つ聞いておきたいことがあった。
「ちなみに今までパーフェクト達成した人っています?」
「それがですね………今まで多くの人が挑戦してきたんですけど誰1人としてパーフェクト達成したことがないんですよねー。」
ふむ………。少し考えたオレは店員さんに1プレー分のお金を渡したあと、上着として着ていたジャケットを脱ぎ捨てた。
「んじゃ1回分。やります。」
軽くウォーミングアップをした後、一定の距離から離れたところにテープが貼られていたのでその場に立つ。
「では1球目…「あ。最後に1ついいっすか?」はい!なんでしょう?」
ストラックアウトをやる上でどうしても聞いておきたい事があった。
「2枚抜きはありっすか?」
「はい!もちろん2枚抜きもOKです!では改めて1球目!!どうぞ!」
店員さんはオレから向かって左斜め前からボールをトスして、オレはボールを受け取る。
ジーンズを履いているため、普段よりは足を上げられないけど軸足に体重をかける。
何度も繰り返して来た足を一旦上げた後、さらに身体を捻り込むというピッチングモーションから歩幅6足分のポイントに足を踏み込む。
踏み込みながら、左手で身体の開きを抑えながら軸足に乗せていた体重を投球方向へ乗せていく。
左足を踏み込んだ瞬間、骨盤をブラッシングさせ投げる的を見据える。そして腕を全力で振り切った。
ーーーバン!!バタン!タタン!!!
ボールは狙った1・2・4・5番のちょうど真ん中に吸い込まれるように向かっていき、当たったマスは勢い余ってまた元の場所に戻った。
「「「「………………へ?」」」」
店員さんや結衣を始め、野次馬根性で見ていた他のお客さんも唖然としていた。2枚抜きが出来ても4枚抜きは誰も見たことがないだろう。
的のフレームにもよるけど、ここのフレームは外枠がアルミ製で9つのパネルは少しでも当たったら倒れるようなパネルだからこそ可能な芸当だ。
オレは改めて店員さんに聞いてみた。
「4枚抜きも………ありですよね?」
Side out
Side Y.Takizawa
1球目で4枚抜きをした拓海くんは彼自身から滲み出る雰囲気からして本気だった。
2~4球目をそれぞれ7・8・9番を的確に、そして力強く抜いていった。
っていうか2球目と3球目途中でいきなり曲がったんだけど………、もしかして変化球投げたの?
それ硬球じゃなくてウレタン製のボールだよね?
コース的に………スライダーと…、あとはなんだろ?
残るは3番と6番だけになった。
きっとこれが芸人さんならパフォーマンスとかやるんだろうけど本気でやってる拓海くんなら………、
ーーーバン!!!
「6ばーん!パーフェクトまであと1枚!!」
遊び球なんて投げないよね。うん。知ってた。
残るは3番のパネルだけ。
しかし、6球目でも7球目になっても、少しだけ力を入れて投げた8球目も当たらなくなっていく。
………やっぱり拓海くんでもパーフェクトは無理なのかな?
「うっし。そろそろ当てっか。」
そう言うといきなりロジンバッグをいじる振りをして、実際の試合と同じくらい鋭い目付きになったと思ったらすぐさま投球モーションに入り、思いっきり腕を振り切った。
振り切った右腕から今日1番の威力がこもったボールが3番のパネルに向かっていき………、
「んじゃ、ペアリング…貰っていきますね?」
壊れたんじゃないのかと思うくらい大きな音を立てて、パネルの3という数字が書かれているど真ん中に当てパネルを打ち抜いた。
Side out
帰りの電車のなか、日が傾き青かった空のキャンバスをオレンジ色に染め尽くしている。
昼の時にやったストラックアウトだけど、ついつい本気で投げ過ぎて利き腕である右腕がうっ血している。
けど、本気で投げた甲斐があったかも。
「すぅ…。えへへ………。」
頬を赤く染め、右手の小指にキラリと輝くリングを大事そうに抱えて眠る結衣の無防備で緩んだ笑顔を見れただけいいかも知れない。
オレはというと今身に付けているネックレスに通している。
オレは基本的に出掛ける機会がないからネックレスとかに通しておかないと無くしそうだし、無くしたらまたストラックアウトでパーフェクトを取らなくちゃいけなくなってしまうかも知れないからそれだけは勘弁願いたい。
しかもこのペアリングは安物なのか、とコッソリ店員さんに聞いてみたら意外とそうでもないらしく証拠といっては何だがリングの裏側にはその人のイニシャルが刻み込まれている。
もちろん結衣のイニシャルであるY.TとオレのイニシャルであるT.Kが刻まれているリングを見つけたのでそれを頂戴したという訳だ。
さらにさらに店員さんはオレのピッチングに惚れ込んだのか結衣が自分のイニシャルが刻まれているリングを探している時にコッソリともうY.Tと刻まれた1つリングを渡され、これは受け取れないと返そうとしたが勢いのまま受け取ってしまった。
これはバレると非常に恥ずかしいので財布の中に入れ、御守りの中に入れておこう。
朝起きたときは渋々といった感じで、どちらかというと着いていくって感じだったけど結果的には『行ってよかった』と思えるオフになった。
Side out