第41話 敗北からのスタート
Side H.Mizuno
「まだまだ!こっからっすよ!!まだ試合は終わっちゃいないっすよ!!」
オレは最終回をベンチからバッターに向けて大声を張って声援を送りながら、試合の行く末を見詰めていた。
拓海はマウンドから降りた後もベンチの片隅に座り、頭を垂れている。地面が濡れているのを見て察するにきっと泣いているのだろう…。
無理もない…。
初回に水瀬から2点本塁打を被弾し、後続は何とか抑えたが水瀬を抑えることが出来ず第3打席目でこの試合2本目となる満塁本塁打を打たれ水瀬だけでも6失点、合計で10失点。
5回持たずにKO。
かくいうオレたち打線も、1点を返すのがやっとだ。
ピッチャーの小山さんが最速155km/hのストレートと威力抜群のカットボールとシュートの左右の揺さぶりでまともに芯で捉えることが出来ない。
………こんなに悔しいのは初めてだ。
「ットライーク!!バッターアウト!!ゲームセット!」
最後のバッターとなった先輩が空振りの三振に倒れ、試合終了。こうしてオレたち光南高校野球部の頂点の戦いは、またしても夢半ばで途絶えてしまった。
浦話学院10ー1光南高校
Side out
オレは試合が終わり、ダッグアウトからロッカールームへ戻り荷物のところに腰掛けたと同時に涙が溢れてきた。
アンダーシャツで涙を拭えど拭えど涙が止めどなく溢れてくる。
オレは、またしても水瀬にやられてしまった。
脳裏には初回のツーランとマウンドを降りる直前の満塁ホームランがべったりと焼き付いている。
もしかして水瀬の前じゃ、オレは無力だって言うのか………?
苦手な変化球を覚えたり、自分なりに練習だってやった。それでも水瀬には全く通用しなかった。
何でだ?何であいつに敵わないんだ…?
ちきしょう………。
ちきしょう………!!!
「ちっきしょぉぉぉぉぉお!!!!!!!!!」
叫んでも叫んでも脳裏から離れない。
「クソッ!クソッ!!クソッ!!!」
やり場のない悔しさが溢れ出てきて、歯を食い縛り左手を握り締める。
口と左の指が切れてしまったようで、口の中は鉄の味がして左の指先からは何か滴り落ちる感覚がある。
「おい。拓海…。」
どこからか声を掛けられた。
それに反応し、ハッと声が掛けられた方向を見ると少しだけ目を赤くした水野が見下ろすように立っていた。
「水野………。」
「………撤退だ。他の人や先輩たちもう行っちまったぞ。」
「………何でお前そんなにあっさりしてんだよ」
「さぁな。少なくともオレは自分の中で、整理してるし納得はしてるよ。どっかの誰かと違って。」
「んだと………?」
「だからお前みたく何時までもメソメソと泣いてはいられないんだ。」
ーーードガッッ!!
言葉よりも速くオレは水野のユニフォームの首もとを掴み、後ろの壁に押し付ける。
「だからさ…、そんなことしてる暇あるならもっとやるべき事があるだろ?」
「やるべき…事………?」
「もっともっと練習しろって言いてぇんだよッッッ!!!」
オレは水野の迫力に押され、掴んでいた手を離してしまった。
それをみた水野は逆に反対側の壁にオレを背中から叩きつける。
「てめぇだけが練習して強くなってる訳じゃねぇんだよッッ!!!他の奴等だって必死こいて練習して強くなってんだ!!」
「………」
「負けたくねぇ?だったら他の奴等より練習しろ!!!強くなりてぇ?だったら練習しろ!!!与えられた練習だけで強くなろうなんざ、甘すぎてヘドが出てくるわッッッ!!」
「………」
「オレたちはまだもっともっと強くならなきゃいけねぇんだよ!!分かってんのか!?あぁ!?」
「………て…よ。」
「聞こえねぇよ!!!」
「分かってるっつったんだよ!!」
「なら行くぞ!!1分1秒悔やんでる暇あったら練習し続けるしかねぇんだ!!」
水野はオレの腕を引っ張り、チームのみんなに合流した。
そうだ。負けて悔しがっている暇なんて無い。
強くなって必ず………ここに戻ってくるんだ…!!!
新たな決意を心に秘め、甲子園を後にした。