第3話 もってのほかだ
今日の学校は1~3年全校一斉に身体測定と体力テストだった。
特に面白いことは起きなかったので結果だけ書いとく。
身長 178,8センチ
体重 71,2キロ
体力テストの総合判定?
ぶっちぎりのA判定でしたよー。
あ。特に面白いことは起きなかったって言ってたけど1つあったわ。
我が幼馴染みが体力テストの時、幼馴染みとは言え女の子とは思えない鬼の形相で体力テストに取り組み全ての種目で校内記録を片っ端から塗り替えたらしい。
きっと身体測定で何かの数値が増えたんだろうなぁ……。
何でそう言いきれるかって?
だって1年生女子が身体測定の時間の時に一際大きい雪穂に似たような叫び声が聞こえたから。
何の数値が増えたかなんて言いたくない。
オレの命が惜しいからな!!!
とまぁ、何だかんだで放課後。
待ちに待った推薦組の新入生が各部活動に合流。
今日から約2年間の高校野球が始まる。
「よう。楠瀬。」
「おっす、新城。」
玄関で靴を履き替えていたら同じ推薦組の新城 修也とバッタリ遭遇した。
新城は大阪のシニア出身で右投左打のキャッチャー。
パワーヒッター型よりだけど走れるキャッチャーだ。
あ。言うの忘れてたけどオレのポジションはピッチャーね?
オレらはこれからのことを語りながら部室へ行き、ユニフォームに着替えて先輩たちを前にして出身チームとポジションなどの自己紹介をした後、先輩たちと練習を行った。
流石は名門と呼ばれる高校。
シニア上がりと高校野球を1・2年経験している上級生とは打球の速さやプレーの正確さが全く違っており、オレたち1年生はただただ圧倒された。
オレや新城含めて遅れを取らないようにただただ上級生たちに食らいついた。
「よう、楠瀬。」
「松平さん。お疲れ様です。」
練習後、オレは1つ上で正捕手の松平 健介さん。
どちらかと言えば守備型だけど得点圏にランナーがいる時の打率がチームNo.1のクラッチヒッター。
そして自分に厳しくもどこか優しいお兄さんのような人だ。
「確かピッチャーだったよな?まだ元気なら受けてやるけどどうする?」
「いいんですか!?ぜひともお願いします!!」
ブルペンではエースの立花 亮介さんがピッチング練習を始めるためにキャッチボールを始めていた。
「立花さん、お疲れ様です。」
「お疲れ、えっと……。」
「楠瀬です。隣いいですか?」
「いいぞ。それにしてもよく松平を捕まえたな。どういう方法使ったんだ?」
「いやぁ……。松平さんがオレに受けてやるぞーって言ってきたんで。」
「あいつオレのボール受けたがらないんだよなぁ。」
「立花さんのボール速すぎて怖いんすもん!!なんなんすか左で最速152って!!」
「何なんだって言われてもなぁ……。」
「しかもボールが浮き上がってくる錯覚までついてんすよ!?分かります!?この気持ち!!」
「さぁ?オレには分かんねぇもん。」
ブルペンでキャッチボールしながら賑やかな一時を過ごしていたが、それも束の間……。
「んじゃそろそろ行くか……。青澤!!」
先に肩が出来た立花さんの掛け声で2番手キャッチャーの青澤さんがしゃがんだ。
いよいよ超高校級のピッチングが間近で見られる。
「ストレート!!!」
球種が告げられた後、ブルペン内は瞬く間に空気が変わる。
空気を変えた当の本人はゆったりとしたモーションから若干セカンド方向に捻りながら右足を上げる。
右手のグラブを握り潰して、捻った力を逃がさず一気に加速させ上体を弓状にしならせる。
リリースポイントの瞬間……一気に力を解き放つ。
勢いに乗ったボールは空気を切り裂くように18,44メートルを走り……ピストルを撃ったような轟音を立て青澤さんのミットに吸い込まれていった。
「……すっげぇ。」
一言で表すなら圧巻。
オレもシニアでそれなりにやってきたけどそれでも格が違う。
「どうだ?うちのエースのボールは。」
「……正直格が違うと思いました。」
オレの元に歩み寄ってきた松平さんに正直な心情を話す。
松平さんの声色が少しだけ冷めたような……まるでオレを突き放そうとするような言い方だ。
「んで?どうするの?他のポジションにコンバートでもしたくなったか?」
まさか。
こんないい目標がいるのに……、タイプは違えどこんないいお手本がいるのにわざわざ自分から離れていくなんてもってのほかだ。
「逆ですよ。なんとしてもここのエースナンバーを背負いたくなりましたね。」
「そうか。今年の1年生は強気なやつが多いなぁ!!気に入った。さ、オレらもピッチング練習といこうぜ!!」
「はい!よろしくお願いします!!」