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夏の空へ……  作者:
第2章 2年目
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第35話 邪魔すんじゃねぇ!!!!

オレは戻ってきた。


野球をやっていて、あの日を忘れたことは無かった。


先輩たちの夏を終わらせてしまったあの試合の事を。


夏の甲子園の地にオレは帰ってきた。


ヤバい。気持ちが昂りすぎて制御が出来なさそうだ………!!





ーーー夏の全国高等学校野球選手権大会の開幕日。


夏の朝にも関わらず、満員御礼となった開会式が終わって間もなく試合が開催される。


その名誉ある開幕カード…、初日の第1試合がオレたちの最初の出番だ。


「緊張しているか?」


目の前の松平さんが、今にも吐きそうな顔をしてこちらを向いていた。


いや、あなたの方が吐きそうになってません?


「まっさか。オレはこの時を待っていたんすよ。昨年の借りを返すこの時を…。」


自然と口角が上がっていくのが分かる。


「そうか………、そうだったな。お前に緊張してるかーって聞くのは愚問だったな。」


松平さんが笑ったと同時に、審判団が出てきた。


オレたちと相手チームは一斉にホームベースに駆け出した。






相手は新潟県代表の新潟名訓高校。


まぁぶっちゃけ大館清峰や浦話学院よりは弱いと言いきれる自信がある。



相手の1番バッターが右打席に入った。


相手は緊張した表情をしている。



パパっとサインを出され、オレは何の疑いもなく頷く。



投球モーションに入り、右手に握られたボールを空中に解き放つ。



ーーードォォォン!!!


「ットライーク!」


空中に解き放ったボールは、インコース高めに轟音を立てて突き刺さり会場は騒然となる。


何故ならオレの初球は、バックスクリーンのスピードガン表示は『150km/h』と出ているからだろう。


甲子園の初球で自己最速タイが出るとは思わなかったが、別にスピードに拘ってピッチャーをやっているわけでもないので特には気にしない。


次のボールは…、


ーーーギャッッッ!!!


「ットライーク!!」


「え………!?」


バッター目掛けて投げたスライダーが、インコースギリギリに決まりツーストライクと追い込む。


おーおー。バッターも今のボールが入っていたのかと言いたげだな。


そして、その顔を見る限りじゃ次は何を投げてくるのか考えが纏まっていないのだろう。


だが、その迷いは………、


「ットライーク!!バッターアウト!!」


スイングに迷いを生じさせるんだぜ?


ツーストライクと追い込んで、このバッターに対する決め球はこの夏のために覚えた新球の1つの『チェンジアップ』でタイミングを完全に外して、この甲子園最初のアウトを三振に取った。



Side out




Side R.Matsudaira



ーーードォォォン!!


「ットライーク!!」


っつー………。


楠瀬のストレートを取る度に、ミットをはめた右手に衝撃が走る。


試合は7回。スコアは1対0。


2回先頭で回ってきた4番水野の先制ホームランのみの1点だ。


マウンド上の楠瀬は時にはストレートで押して、時にはタイミングを外しに来たりと新潟名訓打線は全く的を絞れていない。


「ットライーク!!バッターアウト!!」



これで奪三振は10個目だ。



甲子園初戦で痛烈なイメージを埋め続けているマウンド上の背番号1はまだまだ物足りないという感じで、ボールを投げ続ける。


ならオレの仕事は…?


そんなの決まっている。


そのピッチングに集中できるようにリードし、力強いボールを捕ってもミットを動かさないキャッチングに全力を注ぐだけだ。



Side out







試合はいよいよ大詰めの9回まで来て、オレはまだマウンドの上に立っていた。


球数も120球を越えている。


いつもなら疲労でボールが走らなくなりコントロールも制御が出来なくなるはずだが、アドレナリンが大量放出しているおかげで疲労が全く感じない。



バッターの顔も、焦りの色と絶望の色が見える。



ーーーオレには借りがあるんだ。何人足りとも………。




「ットライーク!!バッターアウト!!ゲームセット!」



「っしゃぁぁぁあ!!!!」



邪魔すんじゃねぇ!!!!



最後のバッターをアウトコースへ逃げていくスライダーで三振を奪い、今年の甲子園の幕開けを飾った。



Side out



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