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夏の空へ……  作者:
第2章 2年目
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第33話 オレを家に上がらせろ

帽子を取り、空を見上げる。


うん、見事な入道雲だ。そして何よりも暑い。


オレは滴り落ちてくる汗を拭わず、松平さんが出す次のボールのサインを見る。


甲子園予選決勝戦9回表ツーアウトランナー無し。


スコアは4―1と3点のリードを奪っている。


相手は昨年準決勝で破った起動破壊野球を掲げる大館清峰高校。


オレたちは、チームとしての総合力を強化してこの甲子園予選に挑んでいる。


その結果、決勝戦までのどの試合でも2桁安打・2桁得点を記録するなどの怪物打線が出来上がった。


ピッチャー陣も3年になった前田さんとオレに加え、1年の小川というピッチャーが加わり今年も3本柱として戦っていくことになった。


あ、今年の背番号1はオレね?


前田さんはバッティングと強肩を監督さんに買われ、普段はライトを守っているため背番号は9だ。



松平さんが少し悩んだ末に、この試合出し渋っていたで『スライダー』のサインに頷き、ノーワインドアップからキャッチャーミット目掛けて投げ込んだ。







「ただいま―…。」


ーーーパン!!パパン!!!


「「甲子園出場おめでとーう!!!」」



家に帰って早々学園祭のゴタゴタを切っ掛けに仲直りした雪穂と、親に無理を言ってオレの家の斜向かいのマンションに引っ越してきた結衣がクラッカーを鳴らして出迎えてくれた。


ん?結衣の呼び方が変わってるって?



その………、色々あったんだよ!!としか言いようがないので割愛させてください。お願いします何でもしますから…。


「ありがとう………。」


うん、オレはいつの間にこんなハーレムを作り上げてしまったのだろう…?


これはあれか?


卒業後重婚が認められている国に行けっていってるのか?


そうなのか?


「ささっ、楠瀬投手!!今日の感想を聞かせてください!」


とくだらないことを考えていたオレを他所に、結衣がアナウンサーの真似をしているのかマイクを持ったフリをしながらオレに今日の感想を求めてきた。感想か…。



「オレを家に上がらせろ。」








サッとシャワーを浴びて、次の日に疲れを残さないようにしっかりと時間をかけてストレッチをする。



「実際問題、今日の調子はどうだったの?テレビを見た限りじゃ調子よさそうには見えたけど…。」


後ろから結衣がじんわりと背中を押してくれているので、息を吐きながらハムストリングスを伸ばす。



でも結衣さん?何でオレの背中に暖かく柔らかくて、ほどよい大きさの山が2つほどほぼダイレクトに当たっているのは気のせいか?


え?何?気にしたら負け?


………何だか腑に落ちないがそういうことにしておこう。


「初回からスライダーの制御が仕切れなくて苦労したよ。指先の感覚が鋭くなりすぎてるっつーか、ボールに引っ掛かりすぎてるっつーか…。」


「あー…。何だかその感覚分かるかも…。わたしもボールをトスする時になるときあるよ?」


どうやら女子バレー部の司令塔セッターを務める結衣も、オレと同じ感覚になることがあるらしい。


攻撃の起点になることが非常に多い彼女は、セットごとに指先の感覚が変わっていくらしくその度にテーピングで調整したり、指先の力加減でトス自体を調整することが多いんだとか。


だから学校の授業時間とか風呂やメシの時間以外は極力ボールを触って、感覚を馴染ませているらしい。


「拓海くんもやってみたら?」


それはいい考えかもな。


今度の練習試合までの期間で試してみよう…。







「ねぇ結衣ちゃん、今年のインターハイってどこで開催されるの?」


「確か大分………、だったかなぁ?」


プチ祝勝会と称した晩メシで思い出したかのように、結衣に今年のインターハイの開催地を聞いていた。


ってそろそろインターハイだっていうのに開催地が曖昧なのどうなんだ…?


「九州だから飛行機で行くことになるんだろうけど…。わたし飛行機ってあまり得意じゃなくて…。」


参加するの止めようかな…と冗談で言ってるつもりなのだろうが、あなたがいないと光南高校女子バレー部のセッターは誰がやるんだよ。とマジレスっと…。


「オレは明日の午後からオフなんだけど、2人の予定は?」


「わたしは午後から葉月と隣町まで遊びに行ってくる。晩御飯はいらないかな?」と雪穂は楽しそうだけど、どこか申し訳なさそうに晩メシを断った。


「わたしは朝から練習試合の後から、軽く練習かな?たぶん夕方になったら帰ってくるかな?」


となると晩メシはオレと結衣だけか…。


帰ってきて晩メシ作らせるっつーのもさすがにどうかと思う。


「んじゃ久し振りに包丁持つか…。」


「え!?拓海くん料理もできるの!?」


オレがポロっと呟いた事になんとというか、結衣が予想通り食いついた。


ったりめぇだろ。


今の時代男も料理できないといけないって、ばっちゃが言ってた。


「まぁ期待しないで待ってろ。」








次の日になり、結衣と一緒に登校したオレは今日はノースローで疲労回復を務める。


そして今、サブグラウンドでホームベースからセンター方向に向かって、うちの4番の水野と一緒にロングティーをやっている。


ちなみに今はオレが打つ番で、左打席に立っている。


「お前投げる方も投げる方だけど、バッティングも巧いよな。」


「お前が言うと嫌みにしか聞こえねぇよ。」


水野が感心するようにオレの打球を見詰めながら呟く。


だが、ハッキリ言おう。お前のバッティングの方が正直おかしい。


何がどうおかしいかって?


一番はコイツは試合でも黒い木製バットを使っていることかな?


その他もろもろあるけど割愛。


「いや、お前も大概だと思うんだけど?」


ジト目で見られながら、ボールを斜め前からアウトコースにトスされたボールをフルスイングでレフトのフェンスの遥か上に打球を打ち込んだ。






「さて、作りますかな。」


制服にエナメルバッグという格好のまま、練習帰りに寄ったスーパーで買ってきた食材をサッと水で洗い調理し始める。


基本的に何でも食べるという結衣だったが、自分で作るのだけはどうも苦手らしい。


だからこうしてメシは食べに来ているというわけだ。


(久々の料理で腕が鳴るぜぇぇえ!!!)


心なしかテンションが上がりつつ下ごしらえを済ませたオレは、フライパンと圧力鍋を取りだした。



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